25 同行する者
顕現した扉の近くに現れたのは、人間っぽい金髪美女と細身の蜥蜴人だった。
蜥蜴人の方も、恐らくは女性なのだろう。
共に衣服は高級品の様なので、下級兵士や村人では無い様だ。
「これはこれは、ひ・・・・」
グージャスの言葉を金髪女性が手で制した。
「私は、吸血鬼のミストレア。御領主様の名代として、アトラスの大陸へと向かう役目を仰せ付かった者よ。小耳に挟んだのだけれど、貴方もアトラスの大陸へと行きたいらしいわね?」
「アトラスの大陸へ?はい。行きたいです」
ミストレアと名のった女性の言葉に、長一郎は即答した。
じかに吸血鬼を見たのは初めてだったので、ジロジロ見てしまったが、グージャスに脇腹を突っつかれて慌てて片膝を付いた。
確かに相手は名実共に上位の存在だ。礼を尽くすべきだった。
特に牙はなく、欧州の白人と言った外観だ。
特に眼が赤い訳でもない。
「グージャス。私の食事兼、雑用係りとして連れていっても良いかしら?」
「ミストレア様。それでは現世の情報収集が・・・」
「それは、例の女を使えば良いじゃないの?この人間の記憶に頼るよりも、よほど正確に多様な調べものができるでしょう?」
「確かにそうですが・・・承知致しました。仰有る通り、ミストレア様の御食事の手配も必要ですし、この者の希望に添う事でもありますな。承知致しました」
グージャスには若干の不満が有る様だが、承諾した。
他に転移者が居るのかと、長一郎は未知の情報源の存在に意識を持っていかれたが、今まで知らせなかったのにも理由が有るのだろうと察して、問いただすのを辞めた。
(俺達は家畜でしか無いんだ。グージャスさんですら言わない事を、貴族様の前で騒いでも場合によっては処分されるだけだろう)
この地に来て数ヵ月。
自由社会で生まれ育った長一郎も、階級社会になれつつ有るのだ。
「では、【長一郎】とやら。二三日中に出立するので、身の回りの準備をしておく様に」
「かしこまりました」
再度、頭を下げると、ミストレアという女性は、部屋を出ていった。
後ろ姿で気が付いたのだが、横に居た蜥蜴人は、帯剣していた様だ。
「グージャス様・・・・」
「良かったな長一郎。ソナタの夢に近付く事ができて。儂は、もっと御前と話して居たかったのじゃが」
「申し訳ありません」
淋しそうなグージャスに、長一郎は罪悪感を覚えた。
「しかし、このチャンスを逃すと二度とアトラスの大陸へと行く事はできないじゃろう。頑張って参れ」
「はいっ」
長一郎にとって、グージャスとの会話は、祖母とのやり取りを思い出すもので楽しかった。
たぶん、グージャスにとっても同様な感じだったのだろう。
二人の握手は、長く続いた。
さて、三日後。
長一郎の荷物と言っても、配付された食器や衣類と書き留めた覚え書き、幾つかの携帯保存食のみなので、あまり大荷物にはならなかった。
朝食の後に、まどろんでいると、蜥蜴人の兵士が迎えに来た。
案内と共に向かった先に有ったのは、馬車五台と蜥蜴人の乗った騎馬ニ十騎。
予想以上の規模に、長一郎は少し引いてしまった。
「確かに、【貴族様】である吸血鬼が長距離移動するのに、中途半端な護衛の筈もないか」
長一郎が思い描いていたのは、西遊記の三蔵一行の様な小規模人数の旅だったのだ。
考えれば、いくら精鋭の三妖怪が付いているとは言え、中国の皇帝の勅命なのに使用人も予備兵力も無いのは異常だった。
「人数的にも、西遊記って桃太郎伝説と被るな」
そう言いながら長一郎が乗せられた馬車には、他にも二人の人間男性が乗っていた。
一台目の馬車は豪華だが、二台目は人間と蜥蜴人の乗り合い馬車で、他の三台は荷馬車だ。
蜥蜴人との乗り合いは、エリア分けしてあるとは言え、かなり気不味い。
恐らくは、あの一台目に【ミストレア様】が乗っているのだろうと長一郎は推測する。
荷物の積み込みも終わり、隊列が進む始める。
地底の太陽である赤い【ブラフの心臓】の光と、常世の地面に開いた大穴から射し込む【太陽】の光が混ざって、なんとも表現しにくい光が降り注いでいる。
【常世の地球】は、現世の地球の様に安定した自転をしておらず、大地の大穴の片寄りも重なって、かなり変則的な太陽光の射し込み方をしている。
それが、【ブラフの心臓】の周期ともズレている為に、【一日】の長さも一定していない。
【村】でも、鐘の音で一日の節目を決めていた。
伝承にもれず、吸血鬼は太陽光に弱いらしいので、一台目馬車のカーテンは、しっかりと閉められている。
「三時間刻みで休憩に入るので、その時にトイレ等は済ませる様に!」
馬車の中の蜥蜴人が、声をあげた。
『なんか、学生時代の修学旅行バスを思い出すな』と、長一郎は思い出しながら、いつしか眠りに入っていた。
しばらく不定期更新になりますm(._.)m




