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24 悪魔の在処

説明回です。

絶望的な環境でも、何処かに突破口が有るかも知れないと、諦めきれない長一郎は更なる情報を求めた。


「いったい、この常世には、どんな生物が居るんですか?」


実際に長一郎が間近で見たことのある生命体は、村に居るスライムもどきと、城の警備などの雑用をしている蜥蜴人の様な存在だ。


何度か生気せいきを【納税】した事は有るが、その時は箱に押し込められたままで、領主である吸血鬼の姿を見る事はできなかった。

ただ箱の中で、悪寒にも似た体温の低下と、睡魔の様な意識の低下、目覚めた後の虚脱感を覚えただけである。


「そうじゃな。【常世】の存在は大きく分けて、先ほど色分けした三つの『創造ブラース』『維持ヴァイス』『変化シーヴァス』の特質に分類され、其々に種族単位の位階カーストがある。現世風の神仏に例えるなら『創造』はブラフマーやゼウス。『維持』はヴィシュヌやハデス。『変化』はシヴァやポセイドンと言った感じの【ほぼエネルギー状態の神】が最高位についておる」

「エネルギー生体ですか?」


ゼウスが浮気する時に、鳥などに変化する事は有名だし、ヒンズーの神が幾つもの【化身】を持っているのも有名だ。


固定した肉体を持っていては、変身など現実的ではない。

光学的に『違う存在に見える』と言う手もあるが、見た目が変わっても、白鳥になって飛ぶとかは有り得ない。

だが、元々が形の無い【エネルギー生命体】ならば、可能の範疇だと長一郎は思った。


グージャスは、少し笑って答える。


「完全なエネルギー生命体ではないな。この世界の知性体は、物質力と生命力、意思力の三つで支えられている。【神】達は、強靭な生命力と意思力で存在しているが、物質力が全く不要かと言えば、そうでもない」


確かに神話に語られる神々は、ほとんどが擬人化されており、思考や思想においては人間と大差がなく描かれているものが多い。

菅原道真や徳川家康の様に、実在の人間に特殊能力を取って付けて語ったとも思えるが、記憶や思考を形作る肉体である【物質】が脆弱であれば、巨大な力を持った人間の様に描かれるのも仕方がないのだろう。


「その次の位階カーストが、グニクを頂点とする貴族イティ・リボンのクラス。君の翻訳機ならば、『王』や『貴族』と訳されるじゃろう。天人エンゼル、吸血鬼、鬼畜と言った種族が先の三つの分類に分けられるのじゃ」

「ここの領主は吸血鬼だから、次席って事ですね?」

「まぁ、そうじゃな!この位階は、生命力と意思力と物質力が均衡しており、それぞれが補い合っているので、バランス良く安定している存在と言えるじゃろう」


まぁ、確かに【神】の行いは、今の人間から見ても単純で力任せって感じがぬぐえない。

それに比べて吸血鬼などは、誘惑や戦術を使うイメージがある。


「そして、知性体としての最下位がブラースでは妖精、ヴァイスではエルフや蛇人、シーヴァスでは昆虫と人間となる。これらは、物質力により生命力や意思力を維持する存在じゃ」


長一郎にとっては、羅列された種族の中で一番馴染みのある存在だ。そして彼は、ある事に気が付いた。


「あれっ?天使や鬼は居るのに、【悪魔】って居ないんですか?」


グージャスは、長一郎の質問に少し驚いた。


「なんじゃ?聞いておらんのか。【悪魔】は、今は別の名で呼ばれて、別の場所におるよ」

「別の呼び名?別の場所?」


そう言って、グージャスは本棚から一冊の本を取り出した。


「現世で描かれた【テンペスト】でシェイクスピアは、『地獄はもぬけの殻だ 全ての悪魔は地上にいる』と書いたが、それがヒントじゃな」

「テンペスト?」


常世に来た長一郎は、悪魔が常世/地獄に居るのだと思い、『もぬけの殻』が間違っているのだと思っていた。


「現世の事を日本神話では【中つ国】と言う。簡単に言うと内側の国と言う意味じゃ。インサイドフィールド。つまり、地獄インフェルノとは、君達の住んでいる『内なる大地』である、現在の地球表面を指すのじゃよ」


「【中つ国】って、天上の高天原と地下の黄泉(よみ)の国との中間にあるって意味じゃ無いのですか?」


言われてみれば、そう言う解釈もできるが、実際の日本では、別の説明が書かれている。


「日本も西洋も、自分が最下位だとわかると、全てが投げ槍になってしまうじゃろう?だから、更に下位を欲したんじゃ無いのかのう?」

「そんな」


そも、天津神である伊邪那岐神と伊邪那美神が【中つ国】を作ったと言うなら、伊邪那美神が死後に堕ちたと言う【根之堅洲國ねのかたすくに】、後に【黄泉の国】や【地獄】と呼ばれるソレは、誰が作ったのだろう?

伊邪那美神の死が、根之堅洲國を作ったのだろうか?

根之堅洲國についての記述は少ない。


もし、中つ国の別名が【根之堅洲國ねのかたすくに】と言うなら妻を訪ねに伊邪那岐神が向かう事ができても道理だろう?


「じゃあ、【悪魔】は現世に?」


長一郎の判断は妥当だろう。

だが、長一郎は【悪魔】が現世で立証されたと言う話を聞いた事が無かった。


「【悪魔】が、昔は【天使】だったと言う話は知っていおるかのぉ?」

「堕天使ルシファーですか?」


輝ける者ルシフェル。

堕天してルシファーと呼ばれ、敵対者サタンとも呼ばれる。

大地の神であるサターンと名が似ているのは、関係が有るのだろうか?


「そうじゃなぁ。彼等【悪魔】は正しいと分かっていても、それを行う事ができない。我欲で殺し合い、自分自身にさえ嘘をつく。他者を押し退けてでも自分だけを上へと向かわせようとする。七つの原罪から逃れる事が出来ない。そんな存在じゃ」

「それじゃあ、まるで・・・・」


確かに【悪魔】のイメージとしては間違いないのだろうが、長一郎には別の存在を言い現しているようにも聞こえていた。


「もう、分かっているのじゃろう?君達の抱く天使像から光と翼をむしり取った堕天使。いや、【悪魔】の姿が、何になるのか?それに『悪魔は再び天上に戻る為に、神に愛されている人間を騙して魂を手にいれる』様な伝承も有るが、現世の人間が【神に愛されている】と言えるか?」


グージャスの視線は、長一郎が何に気が付いているかを察している様だ。


「いや、でも人間には、愛や正義感だってある」

「そりゃあ、元々が【天使】じゃからなぁ。でも【悪】の部分が大きいから、天から追放された後でも、争いや混乱、無秩序が【愛】や【正義感】を凌駕しているのじゃろう?」

「・・・・・・」


長一郎は、反論できなかった。

グージャスの話は、一応の辻褄が合っている。

ただ、肯定の物証は無いが否定の物証も無い。

しかし、自尊心を捨て去れば納得できない内容ではない。




「なかなか、面白い話をしている様ね?」


そう言ってグージャスの部屋に入ってきたのは、見たことの無い女性だった。


次回から不定期に更新します。

申し訳ありませんm(._.)m

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