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20 禁断の遭遇

全ての部屋を回り、礼拝堂に着いた魔女の前には、三十人程の女性達が並んでいた。


周りには心配で駆け付けた女性達が百人近く取り囲んでいる。


先ずは『C』の紙を持った女性達の前に、魔女は立った。

二十五人の女性が膝をついていた。


「皆さんに掛かった呪いを解きます。両手を床に付いて下さい」


二十五人が言われるままに床に手を付くと、魔女はローブの内側から動物の頭蓋骨の様な物を出して手をかざし、何やら唱えはじめた。


霊感が無くても、空気の感じが変わったのを感じる。少し、耳鳴りもしてきた。

横の県警は、側頭部を押さえている。片頭痛だろうか?


やがて、女性達が震えだし、何かを嘔吐しはじめたのだ。


「何なんだ?アレは!」


彼女達が吐き出したのは、10センチ近くある浅黒い芋虫の様な物だった。

ソレは、暫く蠢いていだか、端から煙になって消えていった。


既に概要を知っている我々は凝視するだけだが、県警の奴は首を左右に振って『ありえない』を繰り返している。


「まるで、大きな寄生虫だな」


思わず口にしたが、恐らくは当たっているのだろう。

一応、警察病院でのCT映像も見せてもらったが、あの様な物は写っていなかったのを思い出す。


目に見える【呪い】


吐き出した女性達は泣き叫ぶ者、放心する者、安堵に笑顔を浮かべる者と様々だったが、介助の者に付き添われて、礼拝堂を出ていった。


残ったのは『D』の紙を持った七人の女性達。


「残念ですが私の力では、ここまで症状が進行した皆さんを救う事ができません。本当に申し訳なく思います」


魔女の言葉に続いて、法衣を着た女性が、液体の入った七つの小さなコップを持ってきた。


「皆さんの選択肢は二つです。結界のある地下牢で、恐怖と苦しみに耐えながら終るか?死を選んで、ここで苦しみから逃れる術を選ぶか?」


【魔女】は、その言葉を聞いて顔を手で押さえた。

女性達は二人が泣き崩れ、五人が唇を噛み締めながら、小さいコップを手に取った。


暫くの沈黙の後で、一人がコップから飲み干し、それを見た四人が続く。


即効性の毒なのだろう。

わずかなうめき声だけで、崩れる様に倒れ込んだ。


刑法的には『自殺幇助じさつほうじょ』に当たる。

ビデオ撮影はしていないだろうが、基本的には目撃者が居れば成立する。ただし、


「おいっ、体が・・・」


ただ、倒れ込んだと思い込んでいた県警が、変化に気付いた。


肉がダダれて崩れ落ち、次第に骨が見えてきた。

骨。いや、それは人間の物ではなく、黒い昆虫の外骨格の様な形状をしていたのだ。


「まるで、蜂。いや【蟻】だな」


その【骨】も、水分を失った豆腐の様に崩れだし、ダダれた肉体と共に煙となって消えていった。


自殺幇助には、死体などの物証が必要だ。

目撃証言だけでは、立件は無理だろう。ましてや、お香として麻薬が使われていたコノ場所では『残っていた麻薬成分で幻覚を見た』と言われても否定できない。



後には、法衣と首から下げていたネームプレートだけが残っていた。

周りの信者達からは悲鳴が上り、我々は口を開けて驚愕するしかなかった。

あまりの状況に、脳が理解しきれないのだ。


法衣を着た女性が、薬を飲まなかった二人と肉体が消えた五人のネームプレートを集めて、我々に差し出してきた。


「彼女達は【行方不明】と言う事で処理してください」


女性は、事務的に淡々と処理している。

我々は思考を手放し、ソレを受けとる事しかできなかった。


残った衣服を回収し、うずくまる二人を拘束して去っていく女性達を見送ってから、立場も意見も違う我々刑事二人は顔を見合わせて同じ言葉を口にしていた。


「「・・・・病院に行こう・・・・」」


蟻のままの姿みせるのよ

蟻のままの自分になるの

何も怖くない風よ吹け

[巣穴に入れば]少しも寒くないわ


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