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19 救世の魔女

※ とあるB警官の体験 ※


世の中には、出会わない方が良い事、知らない方が良い事実と言う物が幾つかある。


本庁特殊捜査科第九分室の我々は、今回は『組織犯罪対策課』として来ている。

もっとも、書類上は第九分室など存在はしないが。


我々が担当しているのは、UFOや魔法、心霊現象と言った現行法では対処できない案件に関する事だ。

多くは人為的行為かノイローゼや磁気異常、低周波振動によるものか、実態が観測できないもので、本物に御目にかかった事は無かった。

通常は有耶無耶うやむやにするか、別の原因をでっち上げるかだが、今回の案件は違うらしい。


実際に金縛りにあったり、身体に急な痛みや熱を感じる実演を体験した。

こんな力が実在していたら、運転中の運転手を【合法的】な事故に巻き込む事など容易いのだろう。


この様な超常的存在に対し、通常なら我々が巧妙に準備した事故に巻き込んだり、行方不明にしたりして処分するのだが、今回は要人の関係者が含まれているという事なので、そうもいかない。

この中の大半が【愛人関係】に有る様で、ピックアップして除外する訳にもいかないらしい。


そして教団信者のほとんどが、死の呪いにかかっていると言う。

要人家族である信者の見せられた映像は、逃げた筈の教祖マリアと幹部候補達が、煙になって消える映像が写っていたと言っている。

フェイク画像とも思ったが、同時に数十人の目撃が居り、要人の家族が数人含まれていた。


それをやったのは突然にやって来た別の魔女で、警察沙汰にした時に彼女を守るために、全ての証拠を消したと言っている。


残った要人の娘達を救うには、その魔女の力が必要であり、だから警察に通報はしたが、警察としての正式な捜査は出来ないのだ。


本部に居た者の呪いは、その魔女が解いたらしいが、各支部や活動拠点の女達の呪いは、解けていない。


この呪いを知った大半が拒食症になっており、点滴による延命を必要としているので、警察病院等を使うための【警察への通報】なのだとも聞いている。


一般の病院では、要らぬ治療や処置をされかねない。


そして、その【救世の魔女】は、ある都合により一気に皆を直せないとの事だった。


今日は、各病院を回っていると言う【救世の魔女】が、処置を急ぐ者の為に、やっとこの教団本部へと来るとの連絡が入った。


噂の【救世の魔女】を見る事ができる。


だが、その当日にトラブルが発生した。


県警を納得させる為に、一応は捜査の形をとるのに、地元に詳しい警官一人を捜査に参加させ、周囲のビデオ映像の収集や分析、逃走経路の調査をさせたのだが、その男が教団本部へと侵入してきた。


「せっかく、厄介な事件から解放してやったと言うのに」


警備室のモニターを見ている同僚の誘導に従い、県警刑事の居る部屋へと向かう。

彼の為を思って『もう、来なくて良い』と言ったのに、人間の善意は報われないものだ。


繰り返すが、世の中には知らない方が良い事実と言う物が幾つかある。


下らぬ正義感や義務感が、自らを不幸にする事が、世の中には多々あるのだ。

ただ、ソレを知らずに回避する事も、また難しいのも事実だが。


なんとか説得を試みるが、頑固な奴は扱いにくい。


そんなこんなをしている間に、問題の【魔女】が来てしまった。


「最後に、もう一度だけ警告する。『立ち去れ!』我々は、何も強要しないが以後の全ては御前の自己責任だ」

「事件の真相を確かめないで、何が『警察官』だ?勝手にやって良いなら、やらせてもらうさ」


警告はした。

以後、コイツの世界観が変わろうと気が狂おうと、政府から抹消されようと、我々は責任を取らない。


そうこうしているうちに、廊下から騒ぎ声が聞こえてきた。


何かが移動する音も聞こえる。


トントン


部屋をノックする音の後に、数人の女達が入ってきた。


先頭を歩く法衣姿の女性が、二人の警官を見て睨みつけた。


「あなた方は何なのです?」

「我々は警察の者です」

「警察?この件は事件にしないと御父様から聞いているのですが、本庁から指示は来ていないのですか?」


恐らく、この女も要人の娘なのだろう。


「伺っています。我々は立会人として派遣されました」


県警の前では、あまり口にしたくはないが、彼女達の親である要人への報告も有るので、引き下がる訳にはいかない。


「しかしですね・・・」


刑事の言葉に反発する娘の肩を、そっと押さえる手があった。


「良いではないですか?どのみち公には出来ない事件なのでしょう?」


そう言って止めてくれたのは、全身を赤いローブとフードで包み、舞踏会で付ける様な仮面を付けた女性だった。


「しかし、魔女様・・・」

「ここまで皆の為に尽力して下さった方々に報告書も書かせないのは、恩知らずと言えるでしょう」

「かしこまりました。でも、邪魔はしないで下さいね」


どうやら、この仮面の女が【救世の魔女】らしい。


先頭の娘が警官二人を押し退け、魔女をベッドの脇へと導いた。


暫くベッドの娘を見つめる魔女が、懐から何かを出してきた。


「『C』?」


手の平サイズの紙に『C』と書かれている。


「本日中に解呪を行います。礼拝堂へと移動して下さい」

「ありがとうございます。魔女様」


ベッドごと部屋から出される彼女の目には、喜びの涙が浮かんでいた。


部屋に居た、もう一人の女性には、『A』と書かれた紙を手渡していた。


「貴女は、まだ猶予があります。一度に解呪できる人数には限りが有りますので、もう少し我慢して下さいね」

「わ、わかりました」


正直、すぐに呪いを解いてもらいたいのだろうが、こちらは我慢の涙を流している。


残った娘の肩を優しく抱いた後に、魔女は次の部屋へと向かった。


「おい!何をしている?説明しろ!」


県警が、魔女を押さえつけようとしていたので、急いで阻止した。


「何をしているんた?殉職したいのか?」


県警のコメカミに銃口を突き付けて止めた。

警察で支給されているリボルバータイプではなく、非公認のマガシン式だ。


「本庁さんよ、何のマネだ?」

「邪魔はするなと言われただろう?最後まで見ていればわかる事だ」


この件は、本庁も動かす大きな力が及んでいる。

最初の会話の内容から察したのか、県警は静かになった。


「本庁のあんたは、どこまで知ってるんだ?」

「聞きたいのか?」

「勿論だろ」

「そうだな・・この事件は既に解決している。本件には政府要人の才女が関係していて、教祖達は、あの【魔女】が『消した』。だが、信者達には命に関わる【呪い】が掛けられていて、あの【魔女】だけが助けられると言う話だ」


県警刑事の顔が歪む。


「なんだ?オカルトなのか?」

「そうだな。そして、この件に関わった者は、聞いた者も含めて社会的に抹殺される」


県警は、目をむいた。


「おいおい!話しておいて、そりゃあ無いだろう?」

「だから『立ち去れ!』とも『自己責任だ』とも言っただろう。元々、御前の仕事はサポートまでだった筈だ。人の助言は聞いておくものだったな?」


県警は、苦虫を噛み砕いた様な顔で睨むが、身から出た錆びた。

同情の余地はない。


魔女の行列に続いて部屋を出ようとした時に、警備室に詰めていた相方から無線が入った。


『おいっ、報告だ。教団敷地内から数名の脱走者が出た。外の【監視部隊】には報告済みだが、彼女達に人数の再確認を要請しておいてくれ』

「わかった。【儀式】が終わり次第、話を持ちかける」


全ての信者が【呪い】を鵜呑みにしている訳では無いようだ。

呪いを解くと【魔法】が使えなくなるそうなので、嫌がる者も出るのだろう。


幾つかの部屋回りに同行していると、とある部屋で【魔女】が泣いていた。


「貴女を救う為に、この身を捧げたのに・・・・・」

「仕方がないわ。私が貴女を引き込んだのだから。私の代わりに少しでも多くの人を救ってあげて・・・」


女性の手には『D』と書かれた紙が握られていた。

二人は抱き合って泣いていたが、紙を握った信者の女性が魔女を突き放した。

周りの女性にいざなわれ、次の部屋へと向かう魔女の足取りは重い。


たぶん、知人なのだろう。

ここまでから推測するに、紙のアルファベットは、呪いの進み具合を意味しており、『A』『B』は猶予有り、『C』は要処置、『D』は手遅れで処置不能なのだろうと思われる。


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