表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/40

18 現場百遍と

※ とあるA警官の体験 ※


現場百遍げんばひゃっぺんと、先輩は言っていた。


捜査では解決の糸口が事件現場に隠されているものとして、百回訪ねてでも慎重に調らべろと言われている。


だが、どうだろう?


この事件は不法薬物も関わっているので、当県では第四課の担当なのだろうが、早々に本庁から組織犯罪対策部とか言うのが出張でばって来ている。


その時も、周辺部での聞き込みや監視ビデオデータの借用依頼のみで、現場の別荘に我々県警が関わったのは、通報直後の初動調査のみだ。


被害者は数百人に及ぶと見られているコノ事件だが、本庁から来ているのは、たった二人の私服警官。


そして、通報から半月近く経つが、ろくに調べもしない。


マスコミにも公表されず、署内でも関わる事をタブーとされており、資料も捜査メモも全て没取されてしまった。


どうやら、大臣クラスや警視OBクラスの家族が関わっているらしく、全て揉み消すつもりらしい。


俺が関わっているのは、地元県警で土地勘があるのと、幾つかの問題を起こして左遷か退職かを迫られているからだろう。


「やはり、抜けられそうな脇道は無いな。山を歩いたとしても数十キロの傾斜道を移動するのは無理がある」


山合いの別荘地。

周囲の監視カメラ映像を集めても、逃げたとされる教祖と幹部候補の行く方は分からなかった。


唯一、この件の別荘・・・と言うか、別荘名義の教団本部から出た車は、支部の人間が勧誘した人員を送り届けたものとして、終始が判明している。

他の別荘の画像でも、その日に往復した二人の女性が確認され、都内で降りるまで追尾できている。


残る脱出ルートとして、山岳方面を捜索したが、新たに作られた山道などは見付からず、近郊の道路は別荘が並んでいる関係で、道路上は勿論、道路周辺まで監視カメラが稼働していた。


既に本庁の奴等には俺は御払い箱らしいが、うちの本部長も本庁のやり方にオカンムリらしく、俺の捜査継続を黙認している。

問題になれば、俺の首を切るつもりだろうが。


【現場百遍】とは言うが、実際に山道を捜索したのは十回程度だ。


それに、恐らく教祖達の脱出ルートは、ここではない。

せめて、当日のビデオデータが残っていれば糸口が掴めるのだろうが、全ての監視カメラが止められ、データは幾重にも上書き消去されていた。


「そう言えば、教祖達は【煙になって消えた】と言っていたな」


初動調査で聞き込んだ時に、その様に話す娘が居たのを思い出した。


その時は、薬物による幻覚だと思っていたが、ここまで痕跡が無いと、俺自身も、そう思いたくなってきたのだった。


「やはり、教団本部にしか手掛りは無いのか?【現場】は、あそこだしな」


本庁の二人が、まだ居ると言う事は、別荘内に隠し部屋等が有って、潜んでいる可能性が有るのか?


「『もう、来なくて良い』とは言われたが、県警の書類上は今だに関係者なので、教団本部に立ち入っても処分はできないだろう」


ほぼ半月ぶりに、現場へと立ち入る。

捜査関係上、通用口のコード番号は知っている。

教祖達は消えたが、教団のやっていた業務が一部は続いているので、各地からの出入りがある為だ。


監視カメラが動いている。

見ているのは、本庁の奴等だろう。


「人員の少なさが災いしたな。 確保されるまで、かなりの時間が稼げる」


情報漏洩を防ぐ為に人員を絞ったのだろうが、こう言った侵入者の対応には人員数がモノを言う。

侵入者確保は、監視室で侵入者の情報を把握する者と、無線で連絡を受けて確保に向かう人員に別れる。

後者の人数の乗数だけ、侵入者確保の効率は高くなる。


そもそも、俺の侵入を想定していなかったのだろう。


建物見取り図が頭に入っており、一度は入った事のある俺が迷う事はない。

先ずは再び聞き込みをしようと、【寮】へと向かった。


「おいおい、どうなってるんだ?」


ここ【愛の魔女教会】は、同性愛者を主体とした、洗脳集団だ。

同僚の一人が『百合の園』と言っていた。


薬物の入った【お香】を使って精神と身体を蝕み、財産を吸い上げ、労働を課していた。

オマジナイグッズや本、魔術用品の販売は、今も続いている。


初動調査の時とは違い、薬物入りの【お香】の匂いは、ほとんど消えているが、代わりに消毒液の匂いと、看護婦の姿がある。


寮の個室を覗き込むと、やつれた女性がベッドで点滴を射たれていた。

元から二人部屋だったが、今では点滴を射っている者と、比較的健康そうな娘が居る。


本庁刑事が出入りしているせいか、騒がれる事は無かった。


通報があった直後では、病人は居なかった。そして・・・・


「おいっ、お前!何をやっている」


本庁刑事の一人に肩を掴まれた。


「何って、捜査に決まっているだろう。ここは県警では俺の現場だ!」


あからさまに、嫌な顔をした。

県警に地元に詳しい応援要員を要請したのは、彼等なのだから。


俺は、奴が怯んだ隙に問い質す。


「それより、どうなってるんだ?この病人達は。更には要監視対象が、丸っきり入れ替わっているじゃないか?」


確かに寮内に女性は居るが、その顔ぶれは通報直後のものとはまるで違っていた。


「お前達には関係がない話だ」

「関係ないで済まされるか?関係者を逃がしたとなれば、いくら本庁だからと言っても放っておく訳にはいかない。県警が全面的に介入させてもらう事になるぞ」


警察内部には、警官を監視と処罰する部署もある。

本庁刑事は無線で色々と話していたが、やがて言い争う様にして無線を切った。


「事情は後で、ちゃんと話すから、今日は帰ってくれないか?」

「明日になったら、関係者も物証も無くなっているって事か?帰ると思うか?」


御互いに『一晩でもぬけの殻』と言う経験をしてきただろう二人には『納得する訳が無いだろう』『納得する訳が無いよな』と言う感情が通っているのが、よくわかる。


暫く考えた末に、本庁刑事は口を開いた。


「まず、この教団には薬物で洗脳された信者と、各支部や活動拠点がある事は知っているよな?」


俺は、頷く。


「現在ここにいる大半が、薬物の影響の治療を受けている者達だ。可能な限り外部には知られたくないので、ここと警察病院に分けて収容している。ここに居た信者達は症状が軽かったので、その欠員の穴埋めとして支部等に行っているが、勿論、監視は付いている」


俺は、この現場しか見ていないが、調査資料には各支部や活動拠点の情報が確かに有った。

本庁が、ソレ等を監視や調査していない訳が無いだろう。


「一応は、筋か通っているが、証拠が無いな?」


これまでの行いから、一癖も二癖もある奴等だとわかっている。

話を鵜呑みにする程に馬鹿ではない。


「その話は、本当です」


二人の話を聞いていた、ベッドで点滴を射たれていた女が、声をあげる。

まあ、これらの女達が本庁の用意した【仕込み】でない保証はないが、ソレにしては数が多い。


本庁刑事も、真顔で頷いている。


「だが、ソレが【今日は帰る】理由にはならないだろう?何を隠している?」

「・・・・・それは、・・・」


本庁刑事の顔が曇った時に、その場内アナウンスは流れた。


『信者の皆さんは、至急に自室へと戻って下さい。只今、【魔女様】が参られました』


本庁刑事の顔が『マズイ』となり、ベッドの信者は喜びが浮かんでいる。


「【魔女】?教祖が帰って来たのか?」

「最後に、もう一度だけ警告する。『立ち去れ!』我々は、何も強要しないが以後の全ては御前の自己責任だ」

「事件の真相を確かめないで、何が『警察官』だ?勝手にやって良いなら、やらせてもらうさ」





この後、俺は厄介なものを目にする事となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ