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15 黒き者の城

ワゴン車は首都高速から都外の別荘地へと進んでいく。


「サヤ、随分と都心から離れるのね?」

「はい、お姉様。支部は各所に有りますが、教祖様は【お城】にいらっしゃいますので」

「【教祖様】ねぇ。どんな御方おかたなのかしら?」

「とても・・・美しい方で、私達に魔法を与えて下さるのです」


ミストレアには、既に魔法授与のカラクリを理解しているが、これは【言わぬが華】であろう。


高速を降りて、しばらく進んだ森の中に、監視カメラ付きの重厚な門が見えてくる。

勿論、表札などはない。


彼女が運転席にあるリモコンを操作すると、門は自動で開いた。


門の内側には、花で飾られたアーチが有り、そこに団体名らしきものが書かれている。


「【愛の魔女教会】ねぇ」


襲撃者が皆、女性だったのも、納得の団体名だった。

そして、森や噴水つきの庭園を抜けて見えてきたのは、浦安にある様な【白亜の城】だった。

周りの囲いなどを考えると、こちらの方が豪華かも知れない。


白馬の王子様でも出てきそうな状況だ。

しかし中は、かなり近代的で、城門を潜ると地下収納型の立体駐車場が目に入る。


パーキングエレベーター前のターンテーブルに車を停めると、サヤは車を降りて、ミストレアが降りやすい様に後部ドアを開けた。


「お姉様、こちらになります」


駐車場入り口に隣接された、豪華な自動ドアを通り、高級ホテルを思わせるラウンジに至る。


見上げれば、数階分の吹き抜けに、巨大なシャンデリアが輝いていた。

ソレを見上げている隙に、二人の女性が薙刀なぎなたの様な物を持って、彼女達の行方を塞いでいた。

サヤと同じ、民族衣装の様なものをきている。宗教関係だとすると【法衣】なのだろう。


そして、この二人はおそらく警備の者だ。


「堕落者と異端者め!ただでは返さんぞ」

「ちゅっと、お待ち下さい。私たちは・・・」


サヤが言い訳をしようとした瞬間、二人の警備担当は膝を付き、そのまま倒れ込んだ。


「働き過ぎなのね?いきなり倒れるなんて。サヤ、先を急ぎましょう」

「は、はいっ!」


ミストレアの言葉に、サヤは疑問も覚えず先に進んだ。


そう。彼女の体内には、ミストレアの放った赤い霧状の物が侵入し、視覚に依らない【魅了】にかかっているのだ。


「こちらが近道です」


サヤが進む先は、ホテルの廊下の様になっていて、左右に幾つもの部屋が並んでいる。

廊下に入ると、お香のかおりが立ち込めていた。


「この香りは、媚薬と・・・麻薬?」


ミストレアは部屋のドアを幾つか開けて、中を覗いてみた。


中では法衣を着た女性と、一般の服を着た女性が熱い抱擁をかわしていた。

他には、全裸で御互いを舐め合う姿まである。


「これは、何と言ったかしら?確か【百合】とか【レズ】とか?」

「純愛です!お姉様」


ミストレアの言葉に、サヤが強く反発した。

確かに【愛】には様々な形がある。


生殖を伴う男女の行為を、汚らわしく、ケダモノと蔑む者達にとっては、性交を伴わない親子愛や兄妹愛、友愛などは美しく見えるのだろう。


だが、それらも視点を変えれば、【人間の遺伝子】を後世に残す為の行為であり、生殖行為と結果的には変わりがない。


むしろ命を繋がない、これらの行為こそ、異端で汚らわしい筈なのだが、この【お香】のせいで、根本的に狂ってしまったのだろう。


「そうね。純愛ね!」


いちいち論破をしている暇はなかったので、ミストレアは同意してみせた。

そして、何度か髪を手櫛で払うと、空気中に赤い霧が流れてく。


エレベーターを通り、大きな扉を抜けて、祭壇のある大講堂へと出た彼女達は、そこで行われていた儀式に出くわしたのだった。






祭壇に立っていたのは、ウエストが引き締まった、美しく女性だった。

長い黒髪と全身を包むシースルーの黒ドレスが、美しい顔と全裸の肉体を白く浮き上がらせている。

年齢は二十代後半だろうか。


彼女が教祖のマリアだった。


マリアの前には全裸の女性が十二人居たが、うち二人は既に床に倒れている。


今まさに三人目が、教祖の抱擁を受けていた。


むさぼる様な、激しいディープキッスに、相手の少女は意識が完全に跳んでいた。


残る九人は羨ましそうに、横目でソレを見ながら立っている。


離れた唇からは、粘っこい唾液が糸を引きながら、少女は床に倒れ落ちた。


入信者ニオファイトの儀式中に無礼であろう!」


マリアは、いきなり入ってきたミストレア達に、睨みをきかせる。


「マリア様。御命令通りに、御客様をお連れしました」

「サヤか?命令は抹殺のはず!それに御前は堕ちているではないか?」

「はっ?そんな筈は・・・堕ちるって?」


サヤは記憶違いが理解できずに、頭をかかえだした。


「虫ごときが、大層な巣穴を作ったものね?そこらじゅうが真っ黒だわ!」

「派手な赤い煙が目に痛いったら、ありゃしない。赤の一門が今更、現世に何用なにようなのかしら?」


現世への介入は、一時期は頻繁に試みられたが、とうの昔に辞められた行為だ。


「物見遊山に決まっているじゃないの」


それでもミストレアの様に、変化の激しい現世への視察が有るのは、いまだに続く転移者に対応する為の情報収集と言う名目だ。

実際には、娯楽として用いられる事が無いとは言えないが。


「【マリア】って言ったかしら?実体化までして、導師の養成とか、維持の為の供物とか手間だったでしょうに・・・」


グージャスの様に自動書記や、夢枕での御告げの形で、時間をかけて現世で導師を複数養成し、本格的な常世からの実体召喚をしても、短時間で維持できずに消滅か帰投してしまう。

現世で常世の生物を維持するには、憑依以上の大量な魔力か生命エネルギーが必要となり、労力が引き合わないのだ。


「まあ、ソレなりに大変だったけどね。本当は、御互いに騒ぎは避けたいとは思うのだけど、眷族に手を出されては、黙ってはいられないわよね?」

「これだから虫頭は嫌いなのよ。先に手を出したのは、貴女の眷族の方だと言うのに。しかし、現世で出会う同郷が【シーヴァス】と【ヴァイス】とは呪われているのかしらね」


ミストレアのコノ言葉には、マリアも同意してあきれていた。


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