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14 悪魔憑き狩

翌朝、ホテルで朝食をとったミストレアは、タクシーに乗り込んだ。

ホテルのテレビで、ドラマやニュースを見続けたお陰で多くの情報を得られたが、基礎知識や不明瞭な点が多々あったのだ。


「いろいろと調べ物をしたい時は、何処に行ったら良いかしら?」

「御客さん、スマホを使わないのかい?」


【スマホ】と言うのは、長一郎も持っていた手の平サイズの機械で、色々な情報を見たり書いたりできるものだったと、ミストレアは思い出した。

一応は女の荷物にも有ったが、パスワードが面倒なのと、アプリと言うのが理解出来なかったのだ。


「私、ああいったのは苦手で」

「機械に弱い女性は多いからね。じゃあ、ネットカフェもダメだろうから図書館だな。本なら大丈夫でしょ?」

「ええ。本ならば」


言語同様に、文字も理解する事はできる。

うまくいかなければ、誰かに読ませれば良いのだと彼女は考えた。


タクシーの運転手に【魅了】は使わない。

感覚の一部が麻痺する上に、頻繁にミラーなどで顔を見られていては、事故に繋がるからだ。


タクシーは、ホテル前から渋谷駅の東口側へと向かった。

駅から東へ一キロ未満の場所に、渋谷区立渋谷図書館は有る。


既に食べ歩きで複数の建物を見て回っていたので、自動ドアやエレベーターなどに戸惑う事もない。

不明瞭な点は、【魅了】を掛けた相手から説明を受けている。


ミストレアは、まず【案内】と書かれたカウンターへと向かった。


「社会や経済の基本的な事を学ぶには、どの本が良いかしら?」

「基本的な事ですか?漠然としていますね。幾つかの本が有りますが、インターネットでの検索が分かりやすいですよ。二階に端末がありますから、ご利用下さい」


この時代の大きな図書館では、インターネットを使って色々な情報を収集する事も出きる様になっていた。

ただ、閲覧スペースが個室にはなっていないので、いかがわしいサイトを見るには適さない。


「【インターネット】ですか・・・・『この世界は、どこまでインターネットとかに依存しているのかしら?』」


ミストレアが閉口するのも致し方ない。

この国には、インターネットを使わなければならない買い物や案内、登録が多々ある。

『詳しくはWebで!』などは常套句じょうとうくだ。


「『機械が苦手なの。手伝って下さらないかしら?』」

「それはお困りですね、少々お待ち下さい」


ミストレアは【魅了】を使った。

出来なければ他者にやらせるのが貴族の常識である。

それに、技能を身に付けるには、彼女には時間があまり無かったからだ。


受付嬢は、内線電話で他の職員を呼びだし、受付を交代して二階のインターネットルームへとミストレアをいざなった。


「えーと、では何から調べましょうか?」

「まずは、現代の民主主義と自由経済の概念と問題点を・・・」


二人は椅子を並べて、一つのモニターに目をやった。


民主主義は、東加茂憲明の時代には無かった概念だ。

昔の他国にはあったが、差違があるかも知れない。

日本のソレに関しても、長一郎の話だけでは十分に理解が出来なかったのだ。

勿論、他の国の他の思想についても順次に調べていく。

長一郎の場合は憲明が居たので緩衝材として使用できたが、ミストレア達と相入れない思想体系だった時に、理解が及ばなければ争いになるからだ。


他にも、長一郎がグージャスの質問に『分からない』と答えた点を可能な限り調べていく。


多岐にわたる検索は時間が掛かり、既に数時間が経っていた。


そして、キーボードを打っていた受付嬢の手が急に止まった。


他のパソコンを操作する音も一斉に止まり、静寂が訪れている。


「んっ?現世の導師ですか。三人?いや、四人居ますね。何やら腹黒い気配を感じますが・・・・」


周りを見回すと、少し離れた場所にフードを被った人影があった。

パーカーなどではなく、揃いの、民族衣装にも見える。


「四日目にして、やっと見付けたぞ悪魔憑きめ!その者を解放して魔界へ帰れ」


どうやら、召喚魔術を感知できる導師が現世にも居る様だった。


ミストレアが立ち上って移動すると、それらも間合いを保ちつつ移動してくる。

視界の三人が、等間隔に位置して彼女を囲んでいる。


「魔方陣の配置フォーメーションですか?無知ではない様ですね」

「くっ!上位悪魔か?」


何かの力を発してはいるが、彼女を束縛するには至っていない。

ミストレアの方も、相手がフードの内側に目元を隠すベールを掛けているので、この距離での【魅了】は使えない。


「もっと大技は有るのでしょうか?振るいやすい様に場所を変えてあげましょう」


ミストレアは、インターネットルームを出て、更には図書館からも出て中庭へと移動する。


何らかの魔法が働いているのか、他の人達からは見えていない様だった。


「舐めるなよ悪魔め!」


囲む三人が、それぞれ別の印を結び光を放つが、それらはミストレアを素通りしてしまう。


「どこを見ているのでしょうか?」


気が付くとミストレアの姿は囲みの外にあり、笑いを浮かべている。


「なぜ?いつの間・・・・」


言い掛けて、三人は一斉に倒れた。




「いったい、何が?」


四人目は図書館の駐車場に停めたワゴン車で、液晶モニターを見ていた。

バックアップと報告用に、襲撃班に付けたカメラで記録と監視をしていたのだ。


「大丈夫よ。お友達は休んでいるだけだから。女性に手荒な事はしないわ」


運転席に座っていた四人目に、後部座席から身を乗り出して耳元で囁く姿があった。


ミストレアだ。


四人目は膠着こうちゃくした。動けなかった。


「コレは邪魔よね?」


ミストレアが運転席シートの後ろ側に手を当てていた。

途端に、四人目の胃袋を激しい吐き気が襲う。


「うぇっ、ぐふぉつ!ゴホンゴホン」


何かを吐き出した様だが、涙目になっている間に黒い煙となって消えてしまった。


「さぁ、貴女達の偉い人の所へ連れていってくれるかしら?」


運転手に頬を近付けるミストレアの口元からは、赤い霧が漏れている。


「はい。お姉様」


四人目は口元をハンカチで拭うと、何事も無かった様に車を走らせた。


「貴女、なんて名前だったっけ?」

「嫌ですよ忘れたんですか?【サヤ】ですよ」

「そうだったわね、サヤ。運転をよろしくね」

「お任せ下さい」


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