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12 深夜の儀式

真夜中の倉庫には、激しい放電と轟音が起きていた。


とても電子レンジでは起きない様な、その雷は、周りの供物を瞬時に灰にし、蝋燭を溶かし、動物の血で描かれた魔方陣を焦がして消し去るほどに激しかった。


中央のベッドに横たわる男の身体を囲む様に発生した雷は、魔方陣内の物を消し去りった後にやっと治まった。

続いて、静かになった倉庫内に天から金色の光の球が降りてきた。


女は防護網の中から、その神秘的な状況を見つめて呼吸を忘れていた。


天窓から射し込む満月の光りに照らされて、ベッドから全裸の男の体が浮かび上がり、光の球と一つになると、その身体に流れる様な深紅のラインの入れ墨の様な物が刻まれ、腹部の傷あとが消えていく。


大きく一回の深呼吸をすると、男は浮いたまま目を開いた。

一瞬だけ瞳が赤く輝くが、すぐに消えてしまった。


女は防護網から出ると、赤い法衣のフードを外して、男の顔を見つめたのだった。


『この男の魂は既に無い。望むならば、我が汝の願いを叶えよう。復讐か?逢瀬か?それとも・・・・』

「ああ、愛しいあなた」


女は中央のベッドまで来ると、法衣の首もとの結び目を解いた。


赤い法衣の上で月明かりに浮かび上がる、その裸体は美しく輝いていた。

その胸元には術者である証の魔方陣が描かれている。


男は自分の下半身の変化に気が付き、ベッドの上にゆっくりと降りてくる。


「肉体の方が覚えているらしい。汝の望みを叶えよう」


男は、目を閉じた女を包容して唇を重ねた。




それから、まる二日。

女は全身を汗まみれにしながら、呻き声だけをあげていた。


男の放つ不思議な力で、眠る事も気絶する事もできず、全身が熱く興奮を続けて数倍にも増加した感覚に、白目をむきながら狂いかけていた。


だが、その顔からは歓喜の色が見える。

『今一度、あの男の腕に抱かれてから死にたい』が女の望みだったのだ。


死に追いやった交通事故の相手への復讐を考えなかった訳ではない。

だが、その死を彼女が見る事は叶わないだろう。


望みが叶えば、彼女は死ななければならないのだから。


女の全身が、何十回目かの痙攣をし、過呼吸を起こしはじめた。


『そろそろ、契約満了か』


女の胸の魔方陣が光を放ち始めた。

男の両腕が女の首を押さえると、そこから全身に向かって赤い入れ墨が延びていく。

同時に男の入れ墨が消えてゆき、その肉体は灰となって女の裸体に崩れ落ちた。


荒れていた呼吸を整え、女がゆっくりと目を開く。

その瞳は赤く、髪も白くメッシュが入っていく。


「これで、安定した肉体で動き回れるわ。とは言え、あと五日かぁ」


女は、倉庫の水道を生き物の様に操ってシャワーを浴び、風を呼び、衣服を着て財布の中身を確認した後に倉庫を出ていった。



グージャスが自動書記の術で女に授けたのは、魂を呼び戻す反魂の術ではなく、魂の召喚と憑依の術式だった。

勿論、彼女の胸元に刻ませたのも、その肉体を奪う為の憑依の魔方陣だ。


そもそもグージャスが彼女を見つけたのは、比較的に連続して起きる【転移】を監視しての事だった。

彼女に降り掛かった【転移】を阻害して、その歪みを利用しての魔法による通信回廊パスを形成したのだ。


人生を放棄したまま異世界へと運ばれたのと、望みを一つ叶えて現世で死ぬのと、彼女にとって、どちらか幸せかは歴然としていただろう。

メッセージを無視すると言う選択肢も彼女には有ったのだから。


かくして、ミストレアは現世での仮りそめの肉体を手に入れた。


彼女にとって、人間の肉体を改変する事は難しくはない。

現世にも多少は残っている【力】を利用する器官を再構築し、肉体を活性化させる事によって、外見は二十代前半にまで若返った。


下位の人間とは異なり、彼女等上位種は肉体への依存度が低く、精神力で物事を改変できる存在だ。

ただ、その力も、この現世では消耗が激しく、肉体を増幅器アンプとして使う様にとグージャスに言われていた。


人間の村での憑依実験も経験している彼女ですら、【現場】で状況を見ながら調整しなくてはならない事が、幾つかあった。

彼女の家系は、現世への介入に前向きではなかったので、この手の情報が不足していたのだ。


「先ずは、スイーツ食べ放題しなくっちゃ」


手に入れたその肉体は、非常に疲弊していたが。




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悪魔憑き


精神病的には、二重人格とも診断される症状。

元より人間の思考回路は複数を使い分けている事が多い。


仕事の時の思考回路。

家庭での思考回路。

自動車運転の時の思考回路。


冷徹なギャング王と呼ばれたアル・カポネも、孫の前では良いお爺ちゃんだったらしい。


車のハンドルを握ると荒っぽくなる人は漫画にもなる位に多く居る。


この複数の思考回路の為に、人間は間違っていても悪行を止められないし、愛情面で心にも無い言葉をエゴの心が吐き出したり、自分が悪いと解っていてもプライドが怒りをぶつけてしまうのだ。


大半は、同一の記憶を使用しているので【別人】と言うほどの変わり様ではないが。


ただ、極度の自己嫌悪や現実逃避、薬物による機能不全やループ思考で思考が停滞すると、脳は思考機能を停止したり、普段は使わない思考回路ネットワークを使って、保全を図ろうとする。


この二つの対応策のうち、普段は使わない回路を使う際に、十分な記憶を共有できずに【人格分裂】が起きる様だ。

その予備回路を拡張中に、特定の情報を与え続けると思考が片寄り、【洗脳】と呼ばれる行為となる。


その洗脳が人為的か、魂魄などによるオカルト的な物かは別として。


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