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11 反魂の魔術

彼女の恋人は交通事故で死んだ。


最愛の男性で結婚間近だったのだ。

全てが無意味に思え、生きている意味を失い、衰弱して病院に収容された。


定期検査から部屋へ運ばれる途中で、他の病室で見られていた映画が、彼女の視界に入った。


「あんな事ができたら、命なんか要らないのに」


それは、オカルト映画で恋人を黒魔術で甦らせるものだった。

過去に見たことのある映画のテレビ放映。

その時は、全てが乾いて見えていた。


病室に戻った彼女の手元には、問診票が置かれていたが、過去にも手をつけた事はない。

上体を起こされ、膝の上に置かれているが、彼女の意識は朦朧として、ここには無い。


パリン!


小さく何かが割れる音がしたが、彼女は気が付かなかったし、病室内は何も変わってはいない。


時おり意識がハッキリして周りを見回すが、いつもは何もないソノ行為に今日は変化があった様だ。


「これは、どういう事なの?」


問診票の紙に、大きく書きなぐった様な、歪な文字?


『甦らせたいか?』


彼女には、そう読めた。


問診票の横には、書き終えてペンを離した左手が見える。

リストカットして、腱を痛めて動かなくなった左手が。


彼女の心が久々に波立った。

恐怖?驚き?期待?愛情?

それらの思いが、一斉に彼女を埋めつくし、目は見開かれて毛は逆立ち、頭に血がのぼって全身が震えだした。


「ついに、気が狂ったのね?」


時間を掛けて落ち着いた彼女は、そう言いつつ右手でペンを拾うと左手に握らせてみた。


『男の魂は既に無いが、別の魂で肉体を一時的に甦らせる事はできる』


彼女の見ている前で先の文字に上書きする様に、左手は【文字】を書き加えて、再びペンを離した。


どうせ狂っているならと、彼女は事の顛末てんまつを見たくなったのだ。

再び、ペンを握らせた。


「対価は何なのかしら?」

『男の肉体で、汝の望みを叶えた後に、汝の肉体を欲する』


彼女は考え込んだ。

自分の命を差し出す程の【望み】とは何が有るのか?


「本当に面白い妄想ね」

『妄想ではない。じきに男が来て花瓶を割る』


彼女の病室には、女性の看護婦しか来ていなかった。

病院には看護師も居るが、彼女の部屋には来た事がない。


「来たら、面白いわね」


歪んだ笑顔を浮かべた直後、病室をノックする音がした。


トントン


入って来たのは、男の看護師だった。

彼女の目は、再び大きく見開かれて看護師を見た。


「すみません、問診票を回収する様に言われて・・・・あれ?落書きしたんですか?」


心の病でもあると聞いていたのだろう。

看護師の対応は柔らかだった。


幾重にも書き重ねられたソレは、書いている途中を見なければ、既に文字にも見えない。


看護師は問診票を回収すると、彼女の視線を気にしつつ、部屋を出ようとして、手にもつ問診票をドアの縁にぶつけて飛ばしてしまった。


パリン!


手を離れた幾つかの問診票の一つが、壁にぶつかり、部屋の隅に生けていた花を直撃して・・・・・・・


「ふふふふ・・・・はっはははははは・・・・・」


彼女が、その様を見て、いきなり大声で笑い出す。


音と笑い声に駆け付けた他の看護師達が、彼女の急変に目を丸くしながら、割れた花瓶の後始末をはじめている。


「いいわ、いいわよ!その条件を飲みましょう。はははは・・・・」


それまで点滴生活だった彼女は、その後に普通に食事をはじめ、運動をして体力を取り戻すと、一週間後に退院をした。





「で、次は何をすれは良いのかしら?」


彼氏の死体を、倉庫に設置された大型の冷凍庫に収納した彼女は、温度設定をしながら大きめのメモ用紙を引っ張り出した。


身寄りの無い男の遺体は、婚約者である彼女の退院まで警察で低温保存されていた。

形だけの葬式と通夜を終えて、火葬場へは持っていったが、金とナイフを使って、棺を空焚きさせたのだ。


全ては、左手の指示を彼女が現代風にアレンジしたもので、退院前から行動を起こしている。


*肉体が腐らない様に保存。欠損や破損があっても構わない。

*日の光が当たらず、人目の無い広い場所に、供物と魔方陣を用意する。必要な供物と魔方陣は・・・・


ここまでは、用意ができた。

期日が指定されていたので、親戚や知人に無理を言って、私財も全てを注ぎ込んだ。


彼女にとって、今見ている全てが妄想による幻覚でも構わなかった。

その【願い】が叶うなら、映画の結末の様になっても、地獄に堕ちても、彼女には高笑いしていられる自信があった。


「次は、『業務用電子レンジを同型で八台と、同時稼働させる為の電力と細工』って、随分とミスマッチな要望ね?」


完全に古きオカルトだと思っていたら、いきなりの電磁調理器だ。


だが、彼女はもうめるつもりはない。

いや、完全にんでいるとは言えるだろうが。


そして、夜の倉庫に女の声が響く。

近所で噂になる位に暫く続いたのは、彼女の発声練習だ。


意味の分からない呪文を繰り返し、蝋燭の炎が揺らめくのをビデオ撮影して、左手に指導を受ける。


「『喉を潰さない様に、数日は休んだ方が良い』ですって?そうね。失敗したら元も子もないわよね」


電器の専門家にも相談して、レンジの電磁波から身を守る金網も用意し、期日までに全ての準備ができたのは、彼女の執念と言って良いだろう。




---------


都市伝説となっている【フィラデルフィア計画】と言う物がかある。


1931年にニコラ・テスラがチームリーダーとなった米海軍のレインボー・プロジェクトの一環であったとする噂が囁かれている。


当時、レーダーは「船体が発する磁気に反応するシステムである」と考えられていたので、「テスラコイル(高周波・高電圧を発生させる変圧器)で船体の磁気を消滅させれば、レーダーに映らない」と考えていたという。


他にも、1939年か1940年にアインシュタインなどが統一場理論の軍事的利用を念頭に置いて、海軍に持ち込んだアイデアを元にした軍事的実験だったとの説もあるらしい。



1943年にペンシルベニア州フィラデルフィアの海上に浮かぶ軍艦【エルドリッジ号】を使って、大規模な実験が秘密裏に行われた。


テスラコイルの高周波によってレーダー波を無効化する為の装置としてエルドリッジの船内には多くの電気実験機器が搭載されており、そのスイッチを入れると脈動性の共振電場によって強力な磁場が船を包み込むように形成され、駆逐艦がレーダーから認められなくなったと言う。


実験は成功したかのように見えたが、理解できない現象が起こった。

実験の開始と共に海面から緑色の光が湧き出し、次第にエルドリッジを覆っていったのである。

次の瞬間、艦は浮き上がり発光体は幾重にも艦を包み、見る見る姿はぼやけて完全に目の前から消えてしまった。


その後、2,500km以上も離れたノーフォークで発見されエルドリッジ号は、更に数分後に、またもや発光体に包まれて、艦はもとの場所に瞬間移動したと言う。


UFOによる誘拐事件とも、電磁気による空間転移とも言われているが、詳細はわかっていない。


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