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003・第25回記念アースFES(3)

ご注意 : この小説には地震をはじめとした災害の描写があります。



                ―*―*―*―*―*―

 日狩密 風雪『ついでに、申し上げると、アースFESの演出の(かなめ)の中の(かなめ)、「カウントダウンシステム」の構築許可も”オテンキ裁判”でもぎ取っているんですよ』


佐藤アナ『えー。”アースFES”解説番組らしく「カウントダウンシステム」について、ご説明いたします。


 「カウントダウンシステム」とは、

 震源近くの”VGVDU”、通称”モグラ”から送られてくる微細振動のデータを瞬時に検証して、地震が発生する時刻を秒単位で予測するシステム。

 地震発生の15~20秒前に出力され、「アースFES”統合”事務局」の「カウントダウンアプリ」をインストール済みの携帯と各アースFES会場の電光掲示板に、即時表示される。

 ただし、カウントダウンが表示されるのは震度3以上の揺れが発生する区域のみ』


鈴木『ウィキペディア読んでいるだけじゃん。


ちなみに、震源近くの”VGVDU”ってのは、日本の陸地と海底に埋設されている、200万基の”VGVDU”のうち、震源近くの1基から5基ぐらいの”VGVDU”ってことね』


日狩密 風雪『これ、気象庁の「精査」とやらを受けないんです。そんな時間無いですからね』


鈴木『20秒ぐらいだからね。「精査」なんてできない(笑)。

 ま、元々、気象庁の「精査」なんて「一晩寝かす」と同義語ですからね』


佐藤アナ『建前ですからね。あ、言っちゃった』


日狩密 風雪『つまり「カウントダウンシステム」は通常の予報システムとは別系統のシステムなんです。

 ”モグラ”に余計な負荷がかかるんです。

 ”モグラ”からしたら通常業務とは別に闇営業させられているようなもんなんです』


佐藤アナ『風雪さん。例え方が闇がかってますよ(笑)』


鈴木『アナウンサーが、結婚式の司会という金のいい副業をするのと一緒……が良い例えだね』


佐藤アナ『その例えも止めてください(笑)』


日狩密 風雪『私が言いたいのは、オ社は”オテンキ裁判”で結構なものを得たということですよ。

「アースFES開催権」なんて金のなる木ですよ』


佐藤アナ『えーえーえー。編集さん今の発言にピー音をかぶせてください。

 ……生だから無理かー』


日狩密 風雪『今日のアースFES、各会場の参加者の合計は、少なく見積もって200万人ですよ。

 参加費が一人5万円ですよ。


 地元の人は参加費無料ですけど、それは各自治体が肩代わりして払って、その上で国が自治体に補助金を出すんですよ。

 ステージ、機材、すべて各自治体が金出して用意するんですよ。


 運営スタッフは役場の職員、公務員ですよ。

 オ社の持ち出しは僅か(わずか)で、1回のアースFESで1,000億円の純利益ですよ。

 それが、年8回で8,000億円ですよ』


佐藤アナ『日本は震度5弱以上の地震が年に8回前後ありますからね』

                ―*―*―*―*―*―



 ルウイ「(ですよ。ですよ。ってその8,000億円は”EFAシステム”の年間管理費用で全部使っちゃうんで・す・よ!

 ”VGVDU”1基につき、軽自動車1台分の維持費がかかるんだよ!

 オテンキ・ウェザー社を悪徳企業みたいに印象操作すんな!!バカ風雪!)」


 心の中で風雪を罵ったら、フロントガラス全体が一瞬ピンクに光って消えた。

 すぐさまエンジン音がし、今度はキレイな青色にフロントガラス全体が覆われた。

 バス全体が身ぶるいした。

 だぶん、自動運転システムとつながった。

 バスが自動で動き出した。

 フロントガラスの青色が徐々に薄くなって、空と同化した。



                ―*―*―*―*―*―

佐藤アナ『一応フォローしますと、グッズの収益は各自治体に入ることになってます。

 即完売レベルで売れますから、結構良い収入になっているんじゃないでしょうか』


鈴木『『M6.4 DOUSIMURA 2033 08 02』の公式ロゴ入れると、オ社に版権料めっちゃとられるけどね(笑)』


佐藤アナ『はい、負けませんよ。

 グッズ内容の詳細は”アースFES統合事務局”の公式HPを是非ご確認ください。


 定番のTシャツ。パーカー。

 あと面白いのは開催する市町村ごとの特色のあるグッズですね。

 地酒にお菓子。自動車メーカーがある所だと、記念の特別仕様車とか。

 今回は記念の第25回ということでグッズの種類も多いですね。


 とても紹介しきれませんが、珍しいところでは静岡市に国内工場のあるフィギュアメーカー、”ゴッド・ママイル”社の、け……。

 ”ゴッド・ママイル”社のオリジナルキャラクターのフィギュアですね』

                ―*―*―*―*―*―



 ルウイは携帯で今日の気温を調べる。

 今の気温25.4℃。最高気温は33.9℃。


 やっぱり帽子は要るな。会場で帽子買えるかな。

 ”アースFES統合事務局”のHPにいく。

 グッズのページを見る。あった。


 四角い長いつばがカッコいい。お洒落なワークキャップ。

 「M6.4 DOUSIMURA 2033 08 02」と横に刺繍が、目立たない色で入ってる。

 色ちがいの5種類。紺色にするか。あえてのベージュか。


 <収益の一部は被災地の復興費用に充てられるます>ふんふん。

 値段は1万2千円。買えるかバカ!


 持ってきたタオルを頭に巻くからいらない!



                ―*―*―*―*―*―

佐藤アナ『それでは、”避難区域”と”避難対象者の数”をお知らせします。

 これは予報ではなく、行政の判断ですね。


 山梨県は、北杜市(ほくとし)を除く26の市町村の住民、約75万人。

 静岡県は、伊豆市、伊東市以北から静岡市の清水区以東の15の市町村と区の住民、約100万人。

 神奈川県は大和市、藤沢市以西の25の市町村の住民、約325万人の合計500万人です。


 該当する市町村の方々は、昨日までに避難区域外の市町村へ退避したうえで、「アースFES契約バス」に乗って会場入りしておられます。


 「アースFES契約バス」とは観客の輸送に関し、”アースFES統合事務局”と契約した運行会社のバスで、略して「契約バス」と呼ばれています』


日狩密 風雪『この契約料も”オテンキ裁判”で……』


佐藤アナ『”オテンキ裁判”の話は、また後でしましょう。教祖。

 時間も差し迫ってきましたし。


500万人が地震前に避難し、その内、約半数が地震を体験するため、早朝に”契約バス”で戻ってきている。

 なんとも面白い時代です。


 もちろん、避難民だけではなく、日本全国からアースFESファン。

地震を楽しむために来日された海外からの観光客。

 皆さん既に”契約バス”で現地入りされています』


鈴木『海外からの団体ツアー客は震度3の会場へ行かはるらしいですな。

 外国の人は、それこそ生まれて初めての地震だからね。

 震度3でも十分腰ぬかしますよ。

 反対に、日本人は上級者として震度5弱以上の会場に行かんとね』


佐藤アナ『震度1の東京にいる人が、なにを(あお)ってらっしゃるんでしょうか(笑)』


鈴木『仕事だから、仕方なく東京にいるだけだし』


佐藤アナ『鈴木さん、現地中継の仕事を断ったって聞きましたけど(笑)』


鈴木『だって、俺に道志村に行けって言うんだぜ。

 それも、震度6弱の会場じゃなくて、6強のほうの会場。殺す気かと。

 行くやつはアースFESファンじゃなくて、頭のおかしい地震フリークか動画配信で稼ぎたい命知らずのバカだけ!』


佐藤アナ『言いすぎです(笑)』


 紙をめくる音。


佐藤アナ『えー。警察庁から住民の皆様へ、ご協力のお願いです。

 本日の零時より、一般車両の走行は禁止されています。


 避難区域内を走行できるのは、”契約バス”と緊急車両のみです。

 ”契約バス”はフロントガラスに通行許可証を掲示することが義務付けられています。


 避難区域内で通行許可証のないバスを見かけられましたら、警察にご連絡をお願いいたします。

 無許可営業車、あるいは窃盗団の可能性があります』


佐藤アナ『つづきまして、各自治体からのお願いです。

 各自治体の建造物損壊調査が終わる、明日の夕方まで、ご自宅へ近づくことは禁止されています。

 皆さんご自宅の様子が気がかりでしょうが、安全のため、ご協力をお願いいたします。』

                ―*―*―*―*―*―



 フロントガラスに”通行許可証”はあったっけ。

 ルウイはラジオの注意喚起が気になっている。

 このバスが”契約バス”なのは間違いない。ないと思うけど。


 おじいちゃん運転手は夜中、フロントガラスに足のせて寝てたからなあ。

 ちょうど足のせてた所に通行許可証があったはずなんだけど。


 今パトカーに止められたら致命的(ちめいてき)だ。

 おじいちゃん運転手の頑張りが無駄になる。


 よし、確認するのは、一番前に座っているものの責務(せきむ)だ。


 首を伸ばして確認しようとするルウイ。

おじいちゃん運転手の体で死角になって見えない。


 お尻をずらして右の隙間から試みるが、顔半分を窓にくっつけても見えない。

左にお尻をずらすも運転手席で見えない。


 しょうがないから、立ち上がった。あった。


 <信号で止まってから、席をお立ちください>機械音声に注意された。

 もう信号消えてるんだけど。


 乗客の視線が僕を向く。恥ずかしい。

 さも最初からそういうつもりだったかのように、トイレに向かった。


 視線の先に、中学生らしき連中がいる。

 通路側の席にいるのは白人の少年だ。


 博多から乗ったんだろうけど、今気づいた。

 失くした帽子に気をとられて、その時は気づかなかった。


 友達になれるかも。


 白人少年に、ぎりぎり間に合いそうだね、と声をかけるため、右手をあげかけたとき、相手が先に声を発した。


 「おい。マスかきにいくのか、チビ黒」



<つづく>


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