002・第25回記念アースFES(2)
ご注意 : この小説には地震をはじめとした災害の描写があります。
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鈴木『それに、大陸の情勢が様変わりしたからねえ。
いま、日本にちょっかいを出す余裕はないでしょう』
日狩密 風雪『いや、そんなことはないですよ。
むしろ、敵国をつくって国内の不満を外に向かせる、は常套手段。
また、隣国を日本と戦争させて疲弊させ、漁夫の利を得る、なんてことを考えているやも知れん。
領土的野心だけが戦争をしかける理由ではないんです。
肝心なのは、日本が舐められないこと、舐められない力を持つこと、ですな』
佐藤アナ『わかりましたか。国際政治学者の鈴木さん……でしたっけ(笑)』
鈴木『いえ。……わたくし、しがないTV屋でございましたが、色々とありまして、風雪師匠とともに落ちぶれておる者です。
……って、言わせんなコノヤロー(笑)』
日狩密 風雪のふーっと息を吐く音。
佐藤アナ『風雪さんは落ちぶれてなんかないですよ。失礼な。
今のジヨアイ文化を創り上げた立役者なんですから。
ご自分と一緒にしないでください(笑)。
”EFAシステム”を”ジヨアイ”と命名したのはもちろん、”VGVDU”のことを”モグラ”って命名したのも風雪さんですよね』
鈴木『「VGVDU集積・制御所」を「ホコラ」と命名したのも、だね』
日狩密 風雪『いや、そんな大したことでは。
”VGVDU”は自律ロボットで、地面に穴を掘って進みますから、まさしく”モグラ”。
「ホコラ」は、……東北のとある場所の”VGVDU集積・制御所”。
そこにはお供え物と、フェンスに注連縄がしてあったんです。
近隣の住民の方がそうされたんだと思いますが。
それを見たら至極自然に祠だなと。
東日本大震災で大変な目にあわれた所ですから、”地震予知AI”に対する強い思い、ご期待がおありだったんでしょう』
佐藤アナ『胸の熱くなるエピソードが、一つの言葉を作ったんですね』
日狩密 風雪『あっ、すいません”地震予知AI”じゃなくて、”人工知能地震予報システム”だったですね』
鈴木『面白いな(笑)。教祖』
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順調。高速道路よりスピードが出ている。
途中、自衛隊車両とすれ違った。
パトカーじゃなくてホッとした。
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佐藤アナ『余震に関する情報をつづけます。
震源は、北緯35度28分20秒、東経139度0分55秒の深さ22キロメートル点。
震源地は、御正体山の東側、山梨県南都留郡道志村と神奈川県山北町との境ですが、余震は神奈川県山北町側の地点です。
地震の規模は、マグニチュード5.1。
主な会場ごとの震度は、
道志村会場が震度5弱。
富士吉田会場、都留会場、小山会場が震度4。
甲府会場、山北会場が震度3。
静岡会場、小田原会場が震度2。となっております』
鈴木『解説はさんでいい? 解説者として来てるんだからいいよね。
これね、変わらんのですわ。
なにがって、今言ってる予報ね。
これ、昨日出た地震予報なんだけど。
2年2か月前に出た地震予報と変わらんのですよ。
2年2か月前に完璧な予知ができてるんですわ。
もちろん、これから実際の地震で答え合わせ、せんといかんけど。
外れたためしがないから先に言っときますわ。すごいでしょって』
佐藤アナ『ほんとすごすぎです。怖いくらいです。
ただ解説じゃなく、ただの感想でしたね(笑)』
紙をめくる音。
佐藤アナ『注意していただきたいのが、余震の「時間帯」ですが、本震と重なっております。
つまり余震の「時間帯」も7時45分から10時45分ということです』
鈴木『これ。これ。
本来なら本震、余震て言うとるわけだから……。
たとえば、富士吉田会場は震度5強と震度4の揺れが来るけど、”時間帯”が同じなんだから、本来どっちが先に来るかわからないはずじゃないですか。
でも震度5強の方を本震、つまり先に来る。
震度4の方を余震、つまり後に来る……ってなんで言えるんかって話』
佐藤アナ『いや、大きい地震の後にそれより小さい地震が来るって、いたって普通じゃないですか』
鈴木『『前震』って言葉知ってる』
佐藤アナ『ぜんしん? ……あ、思い出しました。
僕が社会人1年目の年でした。
熊本城の石垣が壊れたり、甚大な被害がでた』
紙をめくる音。
佐藤アナ『2016年ですね。熊本地震。
はじめて、”前震”って言葉が出てきたんでしたね。
後に起きる地震の方が大きいという』
鈴木『そう。だから震度4の後に、震度5強が来ることも十分あり得るわけ』
佐藤アナ『確かに、そういうことになりますね』
鈴木『教えたるわ。
俺ら、”ジヨアイ様”の予知は3時間幅の精度やて思うとる。
今日の「7時45分から10時45分の間のどこか」みたいな。
けど実際は、15分幅でわかるらしいんよ。
たとえば「9時00分から9時15分の間のどこか」みたいに。
本当は、はるかに精度高いんよ』
佐藤アナ『ほう、そうなんですか!
なんで、そっち教えてくれないんですか、気象庁は!』
鈴木『なんで、教えんか。ここだけの話やで。
国防上、正確な時間が敵に知られんよう、隠しとんのよ。
そんで世間一般には3時間の時間幅で公開してんねん、わざと。
地震に乗じて敵が攻めてきたらまずいやろ。
日にち、バレてんのはしょーがないとしても。
ちょっとでもこっちが有利になるようにや。
だから、自衛隊とか、国のお偉いさんとかは知らされてるんよ。
「15分刻みの時間帯」を!ドヤ!』
日狩密 風雪『ショーとして成立させるためですよ』
鈴木・佐藤アナ『『えっ!? 』』
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バスは、富士吉田市の市街地に入る直前に、スピードを落とし、路肩に停車した。
おじいちゃん運転手が鍵をさっきとは逆方向に回し、ハンドルを元に戻した。
さらに鍵を逆方向に回すと、ラジオの音、座席の広告画面が復活した。
わかりずらいが車内照明もついてる。
おじいちゃん運転手、今度はズボンの尻ポケットから財布を取り出し、中から、くっしゃくしゃのメモを取り出した。
メモを、じっと見た後、ルウイに「ここの数字なんに見える?」と指をさして聞く。
ルウイは「アルファベットの”B”です」と言ってメモを返した。
おじいちゃん運転手は操作パネルのボタンを、メモを見つつ、暗号をブツブツ口にしながら、押していった。
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日狩密 風雪『鈴木さんは先ほど、いきなり7時45分に始まることもあるとおっしゃってましたが、実際のところ、いきなりどころか、今まで”時間帯”の開始30分以内に地震が発生したことありませんでしょ』
鈴木『そう、です……かね』
日狩密 風雪『観客は”時間帯”の開始直前に集まりやすいです。
まだ、接触しないように他人との距離をとれてない、だとか。
一緒に来た人を見失った、だとか。
震源地はどの方角だったっけ、だとか。
そんな、心の準備の整わない状態で、いきなり強い揺れが来たら大怪我しかねません。
地震を経験したことのない外国の人だったらパニックになるでしょう』
鈴木『まあ、そうなりますわな』
日狩密 風雪『いままで、開始1時間以内に地震が発生したのは第1回目と第5回目のアースFESだけで、第6回以降は全て1時間以上たってからですよ』
紙をめくる音。
佐藤アナ『そう、で、すね。あ、確かにそうです。
第6回から前回の第24回まで、地震発生が1時間以内なのは一つもないですね』
鈴木『さすが、風雪師匠。でも、なんで知ってるんですか』
日狩密 風雪『”オテンキ裁判”の裁判記録・和解調書に記載されていますよ。
特に隠されているわけではないですよ。
調書によると、
世間に公開するのは「3時間幅の時間帯」だけ。
「15分幅の時間帯」を知り得るのは、自衛隊の上の方の幹部と政府の要人の数名のみ。
例外が一人いる。
「オ社(オテンキ・ウェザー社の略称)」のK.K.さん。
EFAシステムの開発者ですから特例扱い』
鈴木『Kの名前は出さんといて。トラウマなんですわ』
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おじいちゃん運転手が暗号を入力して30秒経った。
バスはまだ停止している。エンジンも動いていない。
暗号は正確に入力できた?
バリバリバリバリバリ。報道ヘリが上空を通り過ぎていく。
<つづく>