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迷いびと  作者: fengleishanren
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【第一回】地球人類、宇宙へ躍進し、精霊族は異次元で潜伏す


【第一回】地球人類、宇宙へ躍進し、精霊族は異次元で潜伏す


 さぁて皆様、お立ち会い。

 ま、そんなこんなをふまえつつ、時代は更に歩みを進め、よう

やく本題へと入ります。


 あまた人類ある中で、とりわけ今度のお話で良くも悪くも活

躍するのが地球人類という者どもでした。まずはその始まりか

ら語るとしましょう。


 とある時代、所は地球。慣れた言い方をするなら、銀河系辺

境の恒星系の三番めに位置する二連星でした。ここにとある人

類が、実験生物として原始的な人類を植え付けました。これが

後に間接的に地球人類の祖となります。


 実験環境装置地球は多彩なイベントを発生させて、劇的な変

化を自身にも棲まう生き物にも与え、興味深い実験データを生

み出しました。実験者は検体がどんな反応を起こすか、つぶさ

に観察しました。そう。何億年もかけて。


 幾多の試行錯誤を重ね、絶滅を繰り返す事数知れず。そして

とうとう地球人類は、星の外にまで到達する程文明を栄えさせ

る事に成功しました。観察者もひとしきり感心しながら見てい

ると、地球人類はあろうことか、仲間同士で争いはじめました。


 高度に発達した科学力を備え、億を数える人口を持つ国家同

士で大戦争を起こし、すったもんだの末自分たちの母星を、大

気圏と外殻ごと吹き飛ばしてしまいました。その様子たるや、


  欲と怒りに身を任せ闘う挙句の暴走で

 我が故郷ごと敵陣を破壊し尽くす愚かさよ


とでも言うのでしょうか。このとき、地球にいた人々は当然な

がら一人残らず消滅。文明も喪われ、たまたま宇宙に出ていた

僅かな残党がもうひとつの地球に降り立ち、かろうじて生存を

確保していったのです。彼らはこの星を月と呼び、何故か非常

に神聖視して、ほとんど手付かずの状態で放置してきたのです

が、事ここに至っては、もはやそんな事は言ってられません。


 人類は残された大地に移り住み、ほそぼそと営みを再開した

のです。ただ、人類ならではの浅はかさ。といいますか、彼ら

は新たな大地を地球と名付け、かつての母星を月と呼び、愚か

な歴史を記憶の彼方に閉じ込めてしまいました。


 しかし、母星を喪った今、どんなに体裁を取り繕っても、生

き残ったわずかな艦船の装備だけで、高度な文明を維持するこ

とは出来ず、ほどなく消滅してしまいました。


 「あーあ、結局また自滅しちゃったよ」

 「しょーがないね。またやり直しかぁ」


と、観察担当の声が聞こえてきそうです。


 その後も730万年ほど経過すると、来ました、来ました。

またも文明が育ってきたのです。この人類も、余所に遅れはし

たものの科学技術を磨き上げました。そして、隣の「月」まで、

太陽系の中、なんてみみっちい事に留まらず、ついに銀河の外

の宇宙への進出までも果たし、大いに気勢を上げました。外宇

宙から限りない資源と安価な労働力を、せしめた地球人類は、

更に版図を拡大し、そこから上がる恩恵を独占したのでありま

した。


 そして後更に数千年も過ぎた頃、あまねく悪評轟かす大帝国の

様相を呈する様になった地球人類の無節操な在り方はまさに、


 すべてのこの世の理不尽を、体現し尽くす傲慢さ。

 欲に任せて突き進む際限知らぬ先の先。


といったところ。


 いまや世界は、様々な種族の者を同居させ、地球人類の横暴に、

ただ耐えるだけの日を強いる歪んだ社会になっていました。それ

だけでなく、上から下まで、誰一人変える事など出来ないと信じ

るまでになりました。洗脳社会といいますか、、、。


 「こんにち、繁栄繁栄というが、それは我々が大航海時代に経

験した歴史を、今度は宇宙規模で際限したに過ぎない」とのたま

う歴史家も、いた事はいたのですが、世の大多数はそんな苦言に

は耳を貸す事すらなく、地球人類はひたすら傍若無人を貫いてい

ました。まあ、一般大衆の意向なんて、いつもそんなもんです。


 とはいいながらも、格差社会が刻み込む溝の深さは留まる所を

知らず、人々の心は自覚のない所で破壊尽くされ、昔は尊ばれて

いたわずかばかりの美徳も価値観も喪われ、上の階層の者でさえ、

部品としてしか存在を認められない世の中になりました。


 それでも「最大多数の最大幸福」とやらを求めた結果、それに

些かの疑問すら唱える人はいませんでした。それがこの時代の人々

の世界常識、共通認識だったのです。そう。真実が多数はの中に

在る事は決してなく、常にマイノリティ、少数派の中にこそそれ

は在るのです。ここだけの話ですが、「みんな言ってる」「みん

なそう思う」の「みんな」って誰の事でしょう? そうやって発

言者の責任をはぐらかす論法が流行したのもこの時代の特徴でし

た。


  猫も杓子も「みんな」と言うが

  どこの誰だか分かりゃせぬ


 物事が見えてる人から見れば、まさにこの通りでした。そんな

得体の知れない者の言う事に従う道理はありません。


 このような当然の帰結が、しかしながら、大多数の者には理解

すら出来なかったのです。社会通念とか多数派の意識なんてもの

は、こうした性格を持つものであり、それに迎合出来ないからと

いっても何らひけめを感じる必要性はないのです。言論思想の自

由などと言いながら、その実一定の枠からはみ出る事を許さない、

これが人類の限界なのでしょう。


 考える事を放棄した大多数の人々は、「みんな」という決まり

文句が出れば、それですべて解決しました。しかしもう一方で、

ここから生じる集団暴力に泣かされた少数派の良識ある人々は、

陰と言わず日向と言わず、不遇の辛酸を舐め続ける事になったの

でした。ただ、注意しなければならないのは、少数派のすべてに

必ず真実が宿るというわけではない、ということ。流石人類の浅

はかさ。これを勘違いして、単に社会を斜めに見ていきがってい

る輩が実に多い、というのはまた別な真実。


 話を戻しましょう。この様な内情でしたが、地球の勢力圏内は、

地球人を頂点に、各種ヒト種と亜人種と、その他の知的生命が階

層的に入り混じり、まがりなりにも一定の秩序を成しておりまし

た。


 地球人類の手から逃れた精霊族。別次元へと旅立ってそこで平

穏を得ています。魔と呼ばれた主戦派の精霊属も、それとは違う

別次元に潜み、再起を目指しています。地球人類そのものも、一

枚岩ではありません。下の階層で苦しむ者はやはり存在していて、

異種族や精霊族を頼って人類社会から抜け出す者は、決して少な

くはなかったのです。


 効率と機能の時代。それはまた、結果が全ての時代でもありま

した。技能や才能、財産や権力を持つ人々が優遇されて、その他

は言わば歯車と同じ程度の扱いを受ける事が普通でした。繰り返

しますが「大切なのは最大多数の最大幸福」の名の下に、地球人

類は数を頼みに宇宙各地に進出し、異種族を少数派に追い込んで、

自立と誇りを奪い去り、支配を強めていったのです。地球の常識

は宇宙の非常識。それこそが彼らの宇宙の常識になっていました。

流石の実験者もただただ苦笑するばかり。



----


 さて、一旦は別次元に避難して難を逃れた精霊族。その精霊族

に縋ってついてきた異種族と一部人類。彼らの中には横暴の限り

を尽くす地球人類に一矢報いようとする志を立てた者もいた事は

先にお話した通り。


 彼らは独自のテリトリーを作り、反撃の狼煙

を挙げる日のために虎視眈々と機会を狙いつつ、地力を養ってお

りました。彼らは口々に


  地球人類

 何するものぞ

  独りじゃ何も

 出来ぬ奴


などとつぶやき、徒党を組まなければ何も出来ない奴が偉そうに

している、と揶揄したものです。当の地球人類側では「一人の力

はちっぽけでもみんなの力を合わせれば云々」「人と人の絆が云々」

などと唱え、同調しない者には「読めない奴」だの「自分勝手」

だの「コミュニケーション不全」だの、一方的なレッテルを貼り

付けて蔑む、もしくは哀れみ理解ある素振りを見せつつ見下す傾

向にありました。ホント、嫌な時代ですね。


 もっとも一人じゃ何も出来ない種族であればこそ、集団で固ま

る事は生命線で、それに合わない者は異分子として排除する必要

があった分けで、その意味では彼らも存亡を賭けていたのです。

また、ホントに自分勝手な者、読めない者もいないわけではない

のでそこはそれ、人の生態とは難しいものです。


 精霊族は持ち前の「チカラ」を使い、次元の狭間から地球人の活

動圏内を攻撃し、少なからず被害を与える様になりました。但し、

彼らとて無差別に襲ったわけではなく、同じ現場に居合わせた場合

ですら、被害を被る者と、無事に済む者がいた事に、人類側で気づ

いた者はいませんでした。


  精霊族の分別は、心を読める事にある

  清き心の人にまで、刃を向ける事はない


と謡われたのは後になってからのこと。


 もちろん、この時点で地球人類側には災いの正体が精霊であると、

解明出来る者はおりません。地球人たちは謎の攻撃者を「魔」と呼

んで、持ち前の人海戦術と物量に物を言わせて徹底的に調査、研究

を重ねて正体を突き止め、やがては殲滅する対象に指定しました。


 そんな中、地球人類の間でも変化が起こっておりました。ある種

の精神的な能力を顕著に有する者がいて、人の心や運命の問題を解

消するというのです。


 それ自体は昔から存在し、人類の中でも様々な名称で呼ばれ、半

ば迷信、半ば伝統文化として民族毎に受け継がれてきたものでした

が、ここに来てその存在感が急速に高まったのには、理由がありま

した。昔の迷信の類から一歩抜きん出た技量を持ち、時代にも適合

した術者が登場した事です。


----

 どんな技術革新も、人類の潜在能力をすべて把握するには至らず、

結局古代から脈々と生き続けてきた、なんだかよく分からない、し

かし確実に存在する力に招来を委ねる結果になってしまったのです。

それはまさしく、


  宇宙時代に

  魔法を使う

  術者が世界を

  跋扈する


ともてはやされた通りでした。


 しかし当然偽物も沢山登場するに及び、多くの人が騙されて、時

には命を落とす事もあり、時の政府は種族を問わずその手の行為を

ライセンス制にして、安全性と品質を確保する様になりました。そ

れは地球内部だけでなく、やがて周辺諸国までも波及し、国際ライ

センスが作られました。


 このライセンスを受けた者は、太古の地球に存在した異能者の、

国家における仮初めの職業名に因んで「儒者」と呼ばれました。た

だ、この「儒者」になるは、ジャンルを問わず精神世界の問題を扱

う全ての職能から専門とする分野ひとつについての圧倒的スキルと、

人間性、言い換えれば適正審査に合格する事が必要とされました。


  真実を愛でる心を常に持ち、己を律して行動し、

  人に傲らず侮らず、信義にあつく嘘言わず。

  共に語れば教養と誠意に満ちた温かい言葉に誰もが

  心酔し、別れを惜しみ涙にくれる。

   儒者と会い、浸る至高の時は過ぎ

    戻る世俗の何とお粗末!


なんてふざけた、けれども本音丸出しの歌謡がもてはやされたのも

事実でした。教養深き好人物。けれども一分の隙もない。それが犯

すべからざる儒者の人間像でした。ただ、この時代の「儒者」は、

とある大陸のとある古代国家にもいた、あの「儒者」とは異なる事

を、ここでは申し添えておきます。


 儒者の存在は、どこの人類、異種族、精霊であっても、見過ごせ

ない存在感をもって受け入れられました。儒者の方でも敢えて他者

の営みに干渉する事はなく、微妙な均衡を保つ事になりました。


 儒者を育成する事は至難の技です。ここ数百年の間にも、幾度か

専門教育の機関が作られ試されて失敗続けておりました。儒者を育

てられるのは、儒者だけ、というのがこの当時、共通にして唯一の

認識事項でありました。自分一代限りと決め込んで、後進育成に興

味を示さない儒者もいましたが、通常儒者は弟子をとり、次世代の

儒者を育てるというのが標準的な在り方で、儒者は儒者の弟子たち

の中から誕生する事がほとんどでした。


 儒者は常人にはたどり着けない場所に洞、あるいは堂を構え、そ

こに内弟子や使用人と共に住むのが普通で、丁度その様は昔でいう

仙人の様な物であるといえます。


 次元の狭間にある彩雲洞も、そうしたうちの一つです。彩雲洞は

その昔、地球人類が宇宙に出ていくよりも前から地球辺境に存在し

続け、宇宙時代に突入した後は謎の異空間ともつながり、実態がど

うなっているのか誰にも分からない様になっていました。


 彩雲洞の儒者たちは、揃いも揃って凄腕で、依頼をしくじる事が

ない、と言われる位。彼らは宇宙各地に拠点を設け、次元間回廊で

結んで複雑なネットワークを形成しているといわれ、拠点間の通信

と、移動は自由に出来るらしく、このため彩雲洞の儒者は行動も情

報収集も格段にスピーディ、と言われておりました。勿論すべて風

聞と推測妄想の類で、真実は外部の者には分かりません。


 彩雲洞の名が出たところで迷いびと、第一回の読み切りといたします。



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