マッチ
-1-
今思えば碌な人生を歩んできませんでした。
私の人生には、青春の煌めきも、炎のように情熱的な恋も、夢のように甘い時間も、
何一つ存在しませんでした。
ずっと心の奥底では「それ」を望んでいながらも
表層にいる私が
「そんなものはくだらない」
「ああゆうのは頭の緩い馬鹿どものすることだ」
と遠ざけてきたのです。
今思い返すと恥ずかしい限りなのですが
当時の私はそれが正しいと信じてやまなかったのです。
ただ、そんな私にも幸せな記憶はあります。
これはそんな私の一人語りです。
信じるも信じないもあなたの自由、ただの戯言と取って頂いても構いません。
さて、前置きも長くなってしまいましたがそろそろ語ると致しましょう。
こほん、それでは、始めましょう、自分語りの始まりはこうと相場が決まっています。
「これは私の体験した話でございます。」
-2-
あるとき、私は人助けをしました。
といっても道に迷っていたおじさんに道を教えてあげた程度の事なんですが
ええ、私は普段から人助けをするようなできた人間ではありません。
むしろ色んなものが欠落している、そんな人間です。
ほんの気紛れでした。
ですがそのおじさんはとても嬉しかったようで
「今時の若い子にも君みたいないい子がいるんだねえ」
「おじさんちょっとうれしいよ」
なんて話をしていました。
そのおじさんが別れ際に
「ちゃんとしたお礼もできなくて申し訳ないがこのマッチをあげよう」
「おじさん趣味で古物商をしていてね、変わったものが好きなんだ」
「そのマッチは幸せをくれる不思議なマッチなんだよ」
「辛いことや悲しいことがあったらそのマッチで蝋燭に火をつけてごらん
きっと君が前に進むための力をくれるよ」
といって古ぼけてはいるものの綺麗な細工が施してあるマッチ箱をくれました。
それまで見たことのあるマッチ箱とは雰囲気が違っておりました。
私はお礼を言い快くそれを受け取りました。
当然その時はそんなマッチではなく
おじさんが私にできる最低限のお礼だと思ったのです。