悪意の神戦 その3
静也が選んだ選択は
魔法<傘スプラッシュ>で傘を飛ばす、というものだ。
以前、『起死回生の神』が静也の身体に憑依した時に使用した技であり、ディームとの二度目の依頼の時に会得した魔法だ。
スプーンと同等のサイズの傘を召喚することができ、相手を牽制する意味でも大きく役立つ。
当たってしまえば、相手を一方的に攻撃し続けられる。
だが、やはりよけられてしまう。
動きを阻害しているとは言えども、傘の起動を読んでしまえば簡単に避けられる。
だから神気の解放を許してしまう。
『この俺を怒らせてしまったことを後悔するがいい!中級神から許される技だ!』
「ノーナ!」
《うむ!わかっておる!》
『悪意の神』の神気が溢れ、膨張し、収束する。
褐色の肌に浮かぶ緋色の紋様が形を変え、より禍々しい紋様へと変貌する。
身体のあちこちが裂けた、と思えば蛇や百足、カタツムリか何かのような粘着性を持つ触手が生え、より一層化け物に磨きがかかった。
動きが読めず、攻撃を許してしまう。
顔面に一撃、鼻が折れて血が流れる。
顔面を殴ったときの勢いそのまま地面へと叩きつけられる。
地面に叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出され、同時に吐血する。
堪らずノーナは魔法を発動し、『悪意の神』に当てるが効果がない。
それはそのはず。
中級神から使用を許可される神技、それは魔法無効である。
それはノーナの阻害の魔法もそうだが、火や水といった属性の魔法は勿論、魔法という分類に所属しているもの全てだ。
それにノーナと静也が気付いたのは、すぐのことだ。
魔法が当たったと思えば、まるで効果がなかったかのような動きをするのだがら。
変わりに火、水、風、土、闇の属性の攻撃魔法を当てるも、まるっきし効果がない。
魔法が効かないと分かったノーナは尻をつき諦めていた。
得意な魔法が効かないのだ。倒す手段が無くなったとおもったからだ。
敗けを認めたのだ、頭だけでなく、心でも。
それを見た『悪意の神』は下卑た笑みを浮かべて、ノーナに攻撃をしようとしているのを静也は遠退いていこうとする意識のもと見たのだ。
いや、見えてしまった。
見てなければ気絶していただろう。
見えてしまった、だから、静也は自分の身体に鞭をうち、気力だけで意識を覚醒させる。
歯を食い縛り、歯にヒビが入ったのかと、思うくらい食いしばり、奮起する。
そして、融合傘を投擲する。
『悪意の神』は静也が気絶したものだと思っていた為、完全に気を許していた。
そのため、『悪意の神』の右肩に傘が貫通した。
それだけでは終わらず、右腕が肩から落ちた。
傘で攻撃した場合、傷が拡大するため、右腕を落とすことができた。
『…まだやる気力が残っていたか。』
「生憎、ノーナを殺させないからな。」
『そんなにカッコつけたって、出せるものは死への切符だけだぜ。しかも、すでに切られているやつだがな。』
「なら、切符を渡せないように両腕を落とすことにするさ。」
『悪いが、もう何度も落とさない限り、お渡ししないといけないんでな。』
「は、言ってろ。俺は死への観光列車に乗る気はないから、キャンセルを申し込むさ。」
『残念ながら、もうすでに死への観光列車は出発しているんだよ!』
『悪意の神』の右腕に触手のようなものが生え始め、それが束なり腕を形成し始める。
禍々しく、なにより気色悪い。
妖しく光る眼光で睨み付けられる気分は良いものではない。
脳が揺れ、平衡感覚がおかしくなり、正常に立っているのも儘ならない。
呼吸の荒れを整えるように深呼吸を繰り返す。
半年の地獄の訓練の賜物か、回復にはそこまで時間を要しなかった。
『悪意の神』とノーナとの距離、およそ十メートル。
静也と『悪意の神』の距離、二十メートル。
静也は傘を両手に持ち、構える。
『悪意の神』は好戦的のため、静也に向かって走り出した。
走ることによって得られる推進力と、『悪意の神』の持つ腕力が組合わさった渾身の一撃が迫り来る。
静也は両手の傘を右手に一つの融合傘として持ち、『悪意の神』に向かって走り出した。




