神代わりの日
「ただいま、ノーナ。」
「うむ、お帰りだ。これでようやく普通の生活にもどれるのぉ。」
「ははは…ほんとうにな。」
最近はずっとゆっくりすることがなかった。
半年、気絶したり、苦痛に耐えたり…
あれ?ろくな目にあってないな…
「シズヤの兄ちゃーん!遊びに来たよー!」
「ッチ…ティアが来たぞ。」
「ん?今舌打ちしなかったか?」
「気のせいではないだろうか?」
「お、おう、そうだな。入っていいよー!」
ノーナの笑顔が怖い。
と、言うかドロドロとしたオーラが漂っているんだが…。
「こんにちは!シズヤの兄ちゃん!」
「あぁ。いらっしゃい。ティア。」
「よく来たの。」
「お邪魔しますね。」
ノーナとティアの笑顔が今日日こんなに怖いと思った日はない。
二人の間になぜかバチバチと火花が飛んでいるような幻覚までする。
疲れてるのかな?そうに違いない。ははは、半年も修行してたら疲れるもんなぁ…。
シズヤの兄ちゃん。お昼もう食べた?」
「ん?いやまだだな。」
「そっか!じゃぁ、私が作ったご飯あまったから食べて?」
「おお。ありがとう。」
「そうだ。シズヤの兄ちゃん。今日は『神代わりの日』だから、一緒に教会に行こうよ。」
「ん?その『神代わりの日』ってなんだ?」
「何って、兄ちゃん疲れてんの?一年の交代の日だよ。毎日修行ばっかりしてるから。」
「ははは。そうだったな。ははは。」
勿論知りませんでしたとも。
前世で言うところの元日ってやつか?四季がないから区別がつかない。
つまり、神代わりの日ってのは、簡単に言えば参拝しに行く日ってことか…。
「シズヤよ。妾も行っても構わぬか?」
「ん?いいと思うよ。何かあっても俺が守るから。」
「ぬ、う、うぬ。任せた、ぞ。」
「何赤くなってんだよ。」
「し、シズヤの兄ちゃん、私も守ってほしいなぁ…」
「おう。任せろ。」
「わーい!シズヤの兄ちゃん大好きー!」
「な!」
「おいおい。困ったなぁ。」
ティアの発言でノーナはメラメラと真っ黒でドロドロの、嫉妬の炎を燃やしていた。
ノーナよ…そんな人を殺しそうな目でティアと俺をにらまないでくれ…。
話をそらすように俺がティアに質問をする。
「と、ところでティア、教会にはいついくんだ?」
「別にいつでも、今日中に行けばいいから。」
「そうか。じゃぁ、お昼食べてから行こうか。」
そうしてその場は穏便に済んだのだ。
女性のご機嫌取りって大変なんだなぁ、と初めて思った日であった。
「さて、食べ終わったことだし、行こうか。」
「うん!」
「何か持って行くものはあるのかの?」
「何もない。」
「なにかマナーみたいなのはあるのか?」
「本当に大丈夫?膝を着けて祈るだけでいいんだよ。」
「…は、ははは。ホント疲れてるんだよなー。大丈夫、何があっても大丈夫。」
「ほぅ、人間はそのように祈るのか。」
「ん?ノーナは違うのか?」
「うむ、妾達魔族は、決まった方向に向いて、暫し祈りを捧げるのだ。」
うーむ、どうにも宗教の匂いがプンプンするな。
こんなことで、喧嘩とかしないよな…?
「へぇ、そんな祈り方があるんだぁ。」
良かった、宗教がらみの争いとかにならなくて…
地球じゃ、宗教がらみの争いは、古今東西あったから、この世界は比較的安全なんじゃないか?
「でも、その祈り方はこの村でもやらない方がいいよ。過激派の人達に何されるか分からないから。」
残念ながらこの世界にも宗教絡みの争いはありました。
何も起きなければいいのだが…
「ようこそいらっしゃいました。参拝はご自由です。」
狭い教会の中には、既に何人もの人が祈りを捧げていた。
終わった人は、次から次へと教会から出る。
「ノーナは、周りの人の動きを真似てくれ。」
「うむ、わかった。」
俺達(俺とノーナ)は、周りにいる人の動きを傍目に祈りに入った。
祈りを捧げるって言ったって、何を思えばいいのか…
前世は、神社や寺で賽銭箱にお金を入れて、お願いしてたから、お祈りとは言わないし…。
とりあえず、ティアが立ち上がる時に俺も立ち上がるか。
ティアが立ち上がろうとしている。
もう参拝は終わりだろう。
俺も立ち上がろうとしているのを傍目にしているノーナも立ち上がろうとした。
「ふぅ、たくさんお祈り捧げちゃったよ。シズヤの兄ちゃんも?」
「あ、あぁ。俺もたくさんお祈りしちゃったよ。」
ティアの祈りが終わるまで待ってたから何一つ祈りを捧げることができなかったなんて言えない。
「それじゃぁ、帰るか?」
「うん!」
「お帰りですか?」
「あ、はい。祈りも終わったので。」
「そうですか。神の加護があらんことを。」
「ありがとうございます。」
俺達は寄り道がてら屋台に寄ってから帰った。
今日は元日、もとい神代わりの日なので祭りがあり、暇になることはなかった。
中央区にある広場で、演武があったり、魔法によるショーがあったり、面白かった。
俺も魔法を使いたいよ。傘じゃなくて、火とか、水とかのやつ。
なんか、格好いいし。
そんなことを祭り中に思っていました。