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底上げ

ランクアップに失敗して、医務室に運ばれた次の日のこと。

俺とノーナは組合にやってきた。


「こんにちは、シズヤさん、ノーナさん。今日はどう言ったご用件でしょうか。」

「ダンさんに修行をつけてもらいに来ました。」

「妾は、ランクアップの講習とやらがあるので、そちらに来たのだが。」

「畏まりました。ノーナさんは二階に上がって右の突き当たりの部屋に入ってお待ちください。シズヤさんはダンさんを呼びに行かせて参りますので、あちらの席でお掛けになってお待ちください。」


受付は軽く会釈をし、控えへと入っていく。


「なら、ここで一旦お別れだな。妾の方は話を聞くだけだから、先に帰っておくぞ?」

「あぁ。わかった。手持ちは大丈夫か?」

「妾は金銭の扱いができぬ童ではないぞ?それに家計簿を組んでいるのは妾だということを念頭に置いて欲しいものだ。」

「すまんすまん。」


ノーナの母性が強すぎることは置いておいて。

ノーナは物事を覚えるのが早い。いや、飲み込みが早いのだ。

『才能』という一単語で終わらすのは簡単だ。

しかし、俺は知っている。

ノーナが陰ながら、知らないところで勉強を、努力をしているところを。


「それじゃぁ、妾は先に行かせてもらうぞ。」

「あぁ。行ってらっしゃい。」

「お待たせ致しました。ダンさんを呼んで参りました。」

「よう、シズヤ。早速だが動きやすい服に着替えて、広場に来てくれ。」

「わかりました。」

「今日は武器は一切使わない。体術だけだからな。」

「あの、傘はもっちゃ、駄目ですか?」

「あ?当たり前だろ?お前の強さは、傘での能力底上げだろ?地を鍛えないと駄目だ。」

「ははは…そうですよねぇ。」


俺は落胆しながら、そう言った。

そして、俺は広場に、着替えて来た。


「よし、じゃぁ先ずは準備運動だ。徐々に体を慣らすように走れ。」

「どのくらいですか?」

「んー、頃合いを見ないとわかんねぇからな。良しと言うまでだ。」

「え」

「わかったらさっさと走る!」


ダンさんは模擬剣で地面を叩く。

まるで一昔前の体育教師だ。




「おい!チンタラ走ってんじゃねぇ!スライムでもまだ速く走れるぞ!」

「は、はひぃ!」

「なさけねぇなぁ!もっと腰入れて走れ!」

「ひ、ひぃぃ!」


現在大絶賛スパルタ教育(される方)中である。

息も絶え絶えでもまだ走らされている。

視界がホワイトアウトしそうになる。

目眩と頭痛、吐き気、おまけに喉が渇いている。


汗でベタつくし、ダンさんが後ろから模擬剣を振り回して追いかけてくる。

ダンさんが本当に鬼に見える。




「あだだだだだ!いたい!いた、いたたたた!ダンさんもっと優しく押してください!」

「うるせぇなぁ!これが俺の最大の優しさだ!これでも俺は天使並みに優しくしてるぞ!」

「天使に会ったこと無いでしょうが!あだ!あだだだだ!ちょっ!何で強くしたんですか!」

「お前がごちゃごちゃうっせぇからだろうが!」


そして次は柔軟である。

現在大絶賛スパルタ股割中である。

股関節が外れそうだし、背骨が飛んでいきそうな痛みを伴いながら、柔軟に励んでいる。


「お前、本当に傘が無いと何もできねぇんだな…」

「は、ははは。何でだろう。今誉め言葉にしか聞こえないです。」

「あー、もう脳にまで来てんな。」

「もう、やめですか?!」

「あ?ナマいってんじゃねぇぞ?これからだろうが。」


俺は声にならない声を上げた。




気付いたときには無理やり意識が戻されていた。


「あー、起きたか。筋トレするだけで気絶するなんてな。」

「は、ははは。すいません。」

「まぁ、伸び代があるってことだ。最初から誰もが最強って訳がねぇんだ。誰よりも人一倍、いや、人十倍努力したから強くなれた、認められたんだ。」

「…俺も頑張れば、守れるようになるんですか?」

「あ?誰をかは知らねぇが、そりゃぁ、守れるだけじゃぁねぇ。惚れさせることもできるぜ?」


ダンさんはなにやら意味ありげな顔でニヤニヤと見ていた。


「さて、じゃぁ最後にもういっかい柔軟して終わりだ。」

「はい。」


最初よりかは幾分か柔和になった身体をほぐし、上着を脱ぎ、広場のすぐにある水浴び場で頭から水を浴び、ざっと汗を流した。

汗でベタベタだった肌が冷たい水を浴び、歓喜している。


「シズヤ、お前は成長率が人よりかは多少良い方だ。うまく行けば半年で単体でワイバーンを倒せるようになっているかもな。」

「ワイバーンですか?なんか強そうですね。」

「知らないのか?まぁ、こんな田舎じゃワイバーンどころか、ゴブリンすらいねぇわな。森は近いけど。」


ワイバーンは名前だけなら知っている。

学生の頃、中二病を煩っていた友人がそんなことを言っていたのを覚えている。

俺の親は教育に悪いから、といってパズルゲームしかやらせてもらえなかった。

まぁ、そのかいあってか、長時間の作業にも慣れやすい、言わば、社畜体質になったが。

ライトノベルとやらも教育によろしくない、と言われ完全に隔てられていた。


まさか、ラノベ知識が問われる世界にやって来るとは思いもよらなかったが。


「まぁ、お前を鍛練していてわかったが、傘の強化率は半端ない。力は農家よりも劣り、体力はギルドの受付よりも多分劣る。そんなお前が傘一本握るだけで俺と同等に渡り合える。…まじでこんなやつ育てていいのか?って思ってる。」

「…」

「お前はまだ謙虚で、誠実だ。だが、力をつけたらどうなる?」

「どうなるんですか?」

「大抵の奴は調子に乗ってしまう。慢心し、周りに敵を作って孤立する。最悪、大きな犯罪に手を染めるかもしれない。」


俺はこの話を聞いて、『悪戯の神』のことを思い出した。


「だから俺がお前を育てる!犯罪なんかに手を染めないように育てる!もしも染めてしまったら…俺の拳でぼこす!」

「ひぇえええ…」


マジの目だ。マジでやる人の目だ。

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