静也の昇格試験 その2
―――ダンside―――
シズヤめ…滅茶苦茶強くなってやがる…
だが、それでもまだまだだ…。
対人戦闘経験が少ない証拠が、俺の上半身ばっかりみているのが何よりだ。
スキル<剛力>が昇華し、スキル<剛腕>になり、さらに昇華したスキル<鬼腕>で振るう大剣をあしらう技術も驚きだが、やはり、甘いな。
ダンは静也と対戦している最中にも冷静に相手の情報を読んでいた。
相手の視線、筋肉の動き、呼吸、足裁き。
隠れて言葉に表しがたい苦行を経て得た動体視力、判断力。
必ず勝つと誓い、励んだ賜物である。
静也になくてダンにあるものは、多くあるが、特にこの試験でよく出てくるのは体術、身のこなし、自身の限界の認識の差である。
ダンは、体術と剣術を併用しているため、二つのスキルの効果をおりあわせている。以前とは比べ物にならない位の一撃の重さを傘越しに受けている。
それでも倒すまでにはいかないと、そこまでには至らないとダンはわかっている。
今試験は、実戦形式、つまり、生きるか死ぬかを想定した試験だ。
しかし、試験だ。
「参った」と言えば命は保証される。
しかし今のダンにはその「参った」と言う気はさらさらない。
最初から全力、最初から殺す気持ちで静也と対戦している。
パワー勝負は五分五分、若干静也の方が劣っているが。
スピードは静也の方に分がある、という状態だ。
大剣は磨耗し、歯溢れを起こしている。使い物にならなくなるのも時間の問題だ。
だから
「その前に倒すまでだ!」
最後の切り札を切った。
―――ダンside 終わり―――
「その前に倒すまでだ!」
ダンの怒号が体を震わせる。
そして、ダンの体が変化を起こす。切り札を切ったことが伺える。
「くそぅ…!こんなのを隠してたのかよ!」
静也が悪態をつくもダンは攻撃を止める気はない。
「いくぞ!スキル<猛攻>!」
「スキル<傘融合>解除!」
静也は傘を二つに分け、盾と槍へと変える。
攻防共に全力で、先ずは相手の出方を知る。
対人戦闘において素人の静也の考えた最善。
しかし、これが裏目になる。
「どぅおらぁぁぁ!」
「ぐぅぅぅ!重すぎるって!」
ダンの大振りの横凪ぎを盾で防ぐが、あまりの強さに体が横にずれる。
攻撃の来ている方に意識を向けていると、反対側の方から鋭く、そして鈍い衝撃が走る。
ダンの蹴りだ。
静也はたまらず距離を取ろうとバックステップをするが、ダンの脚力ですぐに追い付かれ、目の前にダンの拳が迫る。
咄嗟に傘を迫り来る拳の前に召喚し、防いだが、それもまた裏目になる。
拳は目の前に迫っていた。そこに傘を召喚すると視界が傘で塞がってしまう。
そこを突いたダンは高速で静也の後ろに回り込み、背中に向けて飛び蹴りをかます。
背中の方向へ折れ曲がり、くの字になるも直ぐ様後ろのダンのいる方へ傘で凪ぐも、空振りに終わる。
ダンは静也の懐に低い体制で潜り込んでいた。
ダンの拳が横腹に入る。
スキル<防御強化・傘>があるが、ここまでの痛みは悪戯の神以来だ。
過信していた、傘を。スキルを。
今になって後悔が脳裏を過る。
いかに強力な武器、スキルがあれど担い手が強くなければ意味が無い。
通用するのは格下まで。
しかし、静也も覚悟は決めている。
この世界に来てから、ピンチや危機に見舞われ、生への執着を覚えた。
生きる為、死なないため。
強くなった筈だ。
無論、強くなった。
しかし相手は自分を遥かに上回る。覚悟も、戦い方も、生への執着も何もかも上だ。
勝てる見込みは低い…いや、無いのだ。
「うぅおおおおあああ!!」
「うぉっ!あぶねぇ!まだこんなの放つ余裕があるのかよ!」
静也は蹴りを放つも、回避される。
静也の内臓は痛み、吐血させる。
口膣内に血の味が広まり、不快感を覚える。
それ以前に、静也はここまでの痛みを知らなかった為、痛みでまともに動けそうにない。
今すぐにでも転げ回りたい。降参したいという気持ちが身体を襲うが、初めてここまで意地になった。
「シズヤ、お前、いい顔になってるぜ。」
「はは…この状態はあまりかっこよく無いでしょうが…」
「いや、お前はいままでより一番格好が良くなってるぜ。俺が保証するさ。意地でもって顔だ。」
あたりです。
「でも、俺は手加減しない。それが俺がお前に対してする、最大の敬意の表しかただから。」
男らしいですね、ダンさんは…
「お前は強くなれる。目を覚ましたら修行付けてやる。」
お願いしますね。でも、加減してくださいね?
そして俺の意識は、ダンさんの手によって断たれた。
それと同時に俺の本当の異世界生活が始まるのだった。
次回から、静也の主観で物語を創作していきます。
問題があれば気軽に教えてください。