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静也の昇格審査 その1

ノーナとオーリンの戦いが終わって一時間位あとのこと。

静也の招集がかかった。

心臓の鼓動が忙しく響く、血潮に打たれる心臓が張り裂けそうだ。


時間は昼前。観客席は冒険者の昇格審査の熱い戦いっぷりを見てヒートアップしていた。他の冒険者もランクアップの為に全力で試験に取り組んでいた。

その中でも異様な人気を出したのが、銀級昇格試験だ。

石級とは正に格が違う戦いかたをする。


体術と鞭術を組み合わせたものや、変わった武器を使用した冒険者も中には多くいた。魔剣の類いが少数だが使われる。

時折、何が起きたかわからないような技も見られ、観客席は熱気に包まれていた。

あまりにも暑くなりすぎなので、組合の組員が、配水をしたりして脱水症状を防ぐ取り組みを行っていた。

静也もそれに参加していたが。



静也の昇格試験の相手はダン。

一度勝ってはいるが、負けたままでいるダンではない。

組合での仕事をこなしながら、自主訓練を行っていた。


時には村の外へと出て、短時間だけ魔樹海に入って出て、入っては出てを繰り返し、体内魔力量、魔力の質を高めていた。

以前のダンとは比べ物にならない威圧感、見ている観客ですら感じ取れるほどの威圧からくる重圧感。

観客席の空気が冷たくなり、脱水症状の予防にはなった。


「前はお前に負けた。だが。そのままでいられる程、俺は落ちちゃいない。」

「はい、私も覚悟はできてます。幾つも戦いをしてきたんです。命をかけた戦いもしましたからね。あのときの私とは比べ物にならないくらい強くなってると思いますよ。」

「そこは断言しないんだな…」


断言できる程実感がないからだ。

誰しも強くなった実感なんぞ感じられるものではない。

対戦して初めて気付くものだ。


「それでは、合図をかけます。双方共に全力で、殺さない程度にお願いしますね。」


サラと交代してエリナが合図をかける。


「双方、構え!」


静也は傘を召喚し、左手に傘の盾、右手に傘の槍を構える。

かれこれ、結局これが一番しっくりしているのだ。


一方のダンは、手甲を着け、剣を構える、以前と同じスタイル。

剣術、体術共に秀でているからこそできることなのだろう。


ダンと静也はにらみ合い、エリナの合図を待つ。

双方共に微塵も動かないが、常に脳内では相手をいかに早く倒すかというイメージがされていた。


「始め!」


エリナの合図と共に双方は、ぶつかり合い、一瞬にして強烈な突風を起こした。

観客席から悲鳴が聞こえたが、二人はそれでも、押し合いせめぎあう。


戦闘経験はダンが圧倒的に有利。技も、スキルも、読みあいも、圧倒的にダンが有利なのだ。

しかし、その差をどう埋めるか、それは静也の傘の能力だ。

異次元の力を持つ傘ならば、その差を埋めることはできる。

よって、あとは傘を使う担い手だ。


長く持ち続けているため、多少は使い勝手がよくなっている。

元々頑丈だったが、なお強固となり、難壊の能力の名に恥じぬものとなっている。


「ぐぅおおおお!」

「ああああああ!」


鍔迫り合いの本質は相手の武器を使用不可能にすること。

剣ならば、刃を欠けさせ折れやすく、もしくは折るため。

槍でも同じだ。


ダンは流石にまずいと思い、バックステップで距離を取った。


「ふはは!やはり強いな。いや、強くなっている。覚悟ができている。この短時間で、ここまでの覚悟があるとは…恐れ入ったぞ!」

「ダンさんこそ、つよくなってます…」


それはお世辞ではなく事実だ。

ダンがバックステップしたときの後が未だに手に残っている。


「ここからが本番だ!いくぞ!<羅刹・金剛化>!<鬼腕>!<身体能力上昇>!」

「はい!」


以前とは比べ物にならない位のオーラが静也にぶつかる。

打撃のように強烈で、刺突のように痛烈なそれが静也の体に覆い被さる。

静也も負けじと切り札を切った。


「<傘融合>!」


ダンと試験をしたときよりも後、習得したスキル

いざというときの切り札であり、勝利をもたらす確約された勝利だ。


今のところ傘が破壊されたこともなければ、折れたこともない。

それが更に強くなるのだ。

人の価値、感覚からすればその傘は、破壊不可だろう。

それほどの強度を持ち、強さを持つ傘だ。




戦いにおいて、大事なものは何か。

筋力か、柔軟性か、それともセンスか。

武器の強さか、仲間か。

それらでもあり、それらでもない。

答えは準備である。


ダンは対静也戦において、あの一件以来、本腰を入れて望んできた。

今日の試験があってもなくても、静也とはいずれやりあうつもりだった。


雨の日も、風の日も、ただ、静也との対戦を胸に自分を追い込んでいた。

自分に渇を入れていた。

負けたのが悔しかったからだ。引退し、『元』というレッテルの貼られたままいるのが悔しかったのだ。


得意を伸ばし、苦手を克服する。

隙の無い強かったあの頃へ、もう一度戻って静也を倒す。

それだけが、ダンを突き動かしていた。

弱音は吐かない、手を抜かない。



そう、心に誓った。

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