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説得 その2

地下牢は光ひとつ差し込まない暗い空間。

壊れかけの魔石ライトが不規則な点滅を繰り返していた。

他の牢に入っている囚人の唸り声やいびき、場合によっては叫び声や奇声が聞こえてくる。


≪シズヤよ、もしもの時は妾を言い訳に使うのだぞ。≫

「そんなことはしませんよ。言ったはずです。俺があなたを守るって。」

≪しかし…妾のせいで、お主にまで迷惑が掛かってしまっては、はやり申し訳がつかぬのだ…≫


一枚の布が二人を近づけていた。

衣服は没収され、代わりにボロボロの服を貸してくれた。



「起きろ、村長が来ている。」


冷たい石畳の上で二人は身を寄せ合い、眠っていた。

地下牢で一日を過ごしていたようだ。

お陰で、体が痛い。



門番が来て牢から出る事を催促する。

二人は牢から出て門番についていく。


「面会室だ。くれぐれも問題は起こすなよ。」

「はい。ありがとうございます。」


鉄製の大きな扉は監視二人で厳重に守られている。

静也が門番に頭を下げると、ノーナも静也をまねして頭を下げる。

その様子に看守2人と門番は驚いていた。

魔族はどうのこうのと偏見をしていたが、少しだけ変わったのだ。


大きな鉄製の扉が開き、入る。




「…シズヤ、お主は何をやったのかわかっておるのか?」

「ノーナを匿おうとしました。」

「…その魔族の名前がノーナかどうかは置いておくが、お前は魔族をこの村に無断で連れてきたのだ。この村、私の村にだ。勝手なことは許さない。」


ザークの表情は怒りで真っ赤に茹で上がったようになっていた。

肩を震わせ、声に怒りを込めて聞いていた。


≪シズヤ…そやつが何を言っておるのかはわからぬが、怒っておるのだろう?妾が謝らねばならぬのだろう?≫

「そんなことないですよ。」

「おい、シズヤ、そいつと話せるのか?」

「はい。私が通訳しましょうか?」

「……頼む。」


それから、数時間、静也はノーナの通訳を続けた。


「…ふむ…よくよく考えてみればここ何十年も魔族を見ていないし、襲っても来ていない。魔族との友好は何かと便利そうだ…。そもそも私が生まれるよりも前の話だしな、魔族が大事件を起こしたってのは。」

≪シズヤよ、そやつは妾達を偏見していたようだの。分かり合えそうかの?≫

「はい。分かり合えますよ。ね?ザークさん。」

「あぁ…だが、私が認めても、ほかの者が全員、認めてくれるわけではない。一応私からも伝えてみよう。…だが、あまり期待するなよ。私が伝えてから3日は人目に出してはならぬぞ。」

「わかりました。本当にありがとうございます!」

≪本当に助かった。≫


ノーナも頭を下げるとザークは驚いた表情をしたが、すぐに平静になる。


それから、ザークは村中に張り紙を張り、魔族との友好を呼び掛けた。

賛成するものはやはり少なく、それでも、わかってくれる人がいるということに当時の静也は喜びを覚えていた。


賛成者の中には、服屋のクローザも入っていてその理由は「魔族に服を着せられるのはすごくイイ!どんな服が合うのか研究したい。」とのことだった。


魔族が全面的に認められるのは遠い未来の事だろうけど、これで魔族と手を取り合える未来を作れるのだと考えたなら、ゆっくりと歩みを進めているのだと考えたなら、満足のいく結果だと言える。




静也とノーナが釈放されたのほ、ザークと面会してすぐのことだった。

やはり村長命令は強いのか、門番に書類をすぐに処理させ、釈放に至った。


「それで、シズヤよ、その…ノーナとやらはどうするのだ?」

「私は家を借りるので、そこで暫く匿おうと思います。彼女が魔族の集落に戻りたいというのでしたら、帰しますし、私以外の他の誰かの家に行きたいのなら、そこに行かしますよ。」

≪むっ!≫「ふむ…じゃがノーナの態度を見るからに、お主にべったりではないか。魔族にモテるとは、隅に置けぬやつよ…」


ザークはニヤニヤとしながら静也とノーナを見る。

ザークがそういうのも、静也がノーナをどうするかというのを言ったときにノーナが静也にくっついて歩いていたからだ。

ノーナの気持ちとしては静也と離れたくないという気持ちが強いのだろう。

静也はそれを捨てられると思っている犬と同じ気持ちなのだろうと思っていた。


「お主は鈍感なやつだ。魔族の恋愛というのは皆目見当はつかんが、見ている限りでわかるのに…」

「ははは…」

≪そやつは今何といったのだ?≫

「自分が鈍感なやつだと言ってます。魔族の恋愛はわからないとも言ってますよ。」

≪鈍感だの…それと妾に恋愛を問われたら困るのでな、そこは黙秘させてもらう。≫


地下牢から出る前にノーナに外套を着させ、村に戻った。

一日日の光を浴びなかっただけでこんなに太陽が愛おしいと思ったことはない。

この世界に来てか、それとも地下牢にいたからかは定かではない。


「お、シズヤ、よく戻ってこれたな。俺は戻ってこれないとばかり思ってたぞ。」

「いえ、話せばなんでも分かり合えますよ…きっと。」


一番に出迎えてくれたのはデカルトだった。

ザークが直々に来たときには永久追放か処刑かどちらかだと思っていたようだ。


「俺の仕事仲間には一応全部伝えてるから、融通は利くだろうけど…あまり期待しないでくれよ?」

「いえ、話してくれただけでもうれしいです。」


門番全員には話は付けているが、それでも魔族を嫌う者がいる。

全員が全員治るわけもない、何事も100%というのは不可能だ。


デカルトに礼を言うと、ノーナも頭を下げる。

すると門番全員が驚いていた。魔族が礼儀を知っているということが噂になり広まっていく。

関所を後にし、不動産へ向かっていく。


「いらっしゃいませ。あ!シズヤさんお待ちしておりぃッ!」

「あ、どうも…、一昨日伺っていた物件を借りれることになっていると思うのですが、大丈夫でしょうか?」

「あ、はい、勿論です…しかし、なぜ村長様がこちらに?」

「私の事は気にしなくてもよい。」

「は、はい。」


ザークがいることで緊張しているようだ。

静也と一緒に来ている理由は、借りた物件の場所を知るためだ。

ノーナがこの村にいることは認めたが、もしものことがあった時に対応できるように知っておくようだ。


「まず、こちらが、物件の場所を記した地図です。次にこちらが物件の鍵となります。紛失しましてもこちらでは責任は負いかねますのでご了承ください。合鍵を作ってくださっても構いません。」

「はい。ありがとうございます。」

「それでは、本日よりこちらの物件はシズヤ様のものとなります。それに伴い今月分の家賃をお支払いいただけますか?」

「はい。月の家賃はこちらに支払えばいいのでしょうか?」

「はい。家賃はこちらまでお支払いいただければ。もし、その月に払えないようでしたら来月に回していただいても構いませんが、3か月滞納されましたら強制的に退去させますので、ご了承ください。滞納金も含めその月にお支払いください。」

「わかりました。それではお納めください。」

「………確かに受け取りました。」


物件を借りる事ができ、これでノーナを匿う準備はできた。

あとは、家具をそろえていかなければならない。


「家具はどこに売っているのか…エリナさんかサラさんに聞いてみるか…」

「家具を買いそろえたいのか?」

「あ、すいません、独り言がうるさくて…」

「よい、して家具を買いそろえたいのだろう?」

「はい。」

「なら、私がいいところを知っているから紹介しよう。」

「本当ですか?!ありがとうございます!」


ザークに家具屋を紹介してもらえることに喜んでいる静也、ノーナはそうでもなかった。

静也が独り言を呟いたとき、エリナとサラの名前が出てきた。

その時にノーナはその名前の主が女では無いのかと疑っていた。

簡単に言えば、焼きもち、嫉妬だ。


聞くタイミングを逃してしまったノーナはいつ聞こうかと悩んでいたが、聞くこともできず不動産から出てしまった。

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