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人間と魔族の架け橋へ

目を開けるとそこには柔肌があった。

太股に挟まれ、一種の幸福感をかんじている。


《目覚めたかの…どうだ?起きた感想は?》


女性が顔を覗かせる。

やはり肌は青色、虚無の影響ではないのか、と思っていたがどうも違うようだと考察する。

が、すぐさま彼女の太股から飛び抜け、土下座の態勢に移る。

あまりの早さと態勢に女性は唖然としていた。


「す、すいませんでした!不本意とはいえ女性の太股で眠るなんて行為を行ってしまい、誠に申し訳ありませんでした!」

《…なんだ、そんなことか。人間の価値観はわからん故、何故謝るのかはわからぬが、妾がしたくてやったのだ、恩返しを兼ねてな。でなければ生命か精を吸って死なせておったわ。》


ケタケタと女性は楽しそうに笑っている。

しかし、不思議と本当のことだと理解してしまう。


《して、お主の名を聞いておらんかったな。名を何と申す。》

「これは失礼しました。私は水鏡静也と申します。お名前を聞きしても大丈夫でしょうか?」

《なにもそこまで卑屈にならなくて良い。妾の名は『ノーナ・ヒルデバラン』、ヒルデバラン領の淫魔族の長、そして、サキュバスクイーンの名を持っておる。が、ヒルデバランの名はもう無い。妾の国はもう無いのだ……虚無に呑まれ無くなったのだ…。》

「そうだったんですか…」

《その原因も妾のようなものだ。妾は今、何十万の魔族の魂の上に立っておる。申し訳の無さで潰れてしまいそうだがな…》


ノーナは静也にぎこちない笑顔を向ける。

しかしノーナの体は震えていた。

自責の念と、怨み、哀しみにうちひしられ、精神的に限界がきていたからだ。

魔族と魔物の違いは心の有無。

知性とは違う。

悲しいときには泣き、嬉しいときには笑う。

人間と何一つ変わらない、見た目が違うだけ。

ノーナは大人びた雰囲気を醸しているが、中身はまだ未成熟。

ましてや、家族や仲間を失って、なおかつ赤の他人すら自分のせいで殺してしまったとなれば、その心には大きな、大きな亀裂が入る。


静也は彼女をそっと抱き締めることしかできなかった。

彼女の心を癒せる気の利いた言葉を出せない静也は彼女を前から抱き締め撫でてやるしかできなかった。

彼女が哀れでしかなかったからだ。つまるところ同情だ。


もしも自分が彼女の立場に立っていたなら、心が詰まって苦しい思いをしているのなら、どれ程誰かにすがりたいという気持ちになることか。静也には容易に察することができた。。


《な、何をしておる?!は、離さぬか!妾は虚無を生み出したのだぞ!もしかすると、また現れてお主を殺すやも知れぬぞ?!》

「その時は、俺が虚無を倒しますよ。さっきのように…」

《妾は、魔族なのだぞ…。少なくともお主達人間の敵対関係なのだぞ…。》

「そうだとしても、俺は貴女を放っておけないですよ。」


ノーナに対して庇護欲が湧いたのだろう、守ってあげなければ、守らなければという使命感にも似た感覚に襲われる。

それは勿論彼女の、サキュバスクイーンの能力ではない。

静也の気持ちだ。

誰かの英雄になりたい。誰かの正義になりたい。

その気持ちは大人になろうと心の中に生き続けている。


『…シズヤ…お前はこの世界の常識を外れようとしているんだ…。人間と魔族は相容れない関係を永い永い間続けてきたんだ。それをお前は、その関係を壊そうとしている。簡単に言うと、世界の理を変えようとしているんだ。』


起死回生の神が静也に呟く。

世界の理を変える。それは人間の行って良いことではない。

世界は常に均衡を保っている。

巧いことバランスを保っているのだ。それをぽっと出の何かがそれに干渉し大きく変化を与えたのならば、世界のバランスは傾き、次第にその傾きは大きくなり崩れる。

世界のバランスが崩れると向かう先は終焉。世界の終わりだ。


そうさせないために、神は使徒を使い世界のバランスを保っている。また、神が直々に天啓を与えている。

起死回生の神が静也に呟いたのは天啓にあたる。



「起死回生の神様…俺はそれでも一人の女性を助けられないのは嫌なんです。でも、もっと多くの人が死ぬのも嫌です。我が儘なのはわかっています。だから、神様にお力添えをしていただきたいのです。」

『………』

《シズヤ、お主、誰に何を言っておるのだ?》

「神様にお願いをしているんです。人間と魔族が仲良く出来るようにって。」

《シズヤ…》

『シズヤ、お前の言いたいこと、思っていることは分かる。だが、最下級神の俺に力添えを頼んだところで、出来ることなんかないんだぜ?悪いが、手を引いた方がいい。』

[いいえ、手を引く必要はありません。シズヤさん。愛に種族など関係ありません。]


透き通るような女性の声が起死回生の神の発言に被さるようにかかる。

ノーナにも聞こえているようでどこから発せられたのか声の主を探している。


『…愛の神…中立神でありながら高位の神…なぜこんなところに…』

[あら?起死回生の、いたのですね?神圧が小さくなっておりますわね。少しだけ分けてあげますわ。]

『げっ…いや、いいです…』

[あらあら、いいのよ遠慮しなくても。私の神力は愛から貰えますもの。そーれー♪]

『うぼぼぼぼ!うひぃぃい!』


二柱(ふたり)の話を聞いていて、神々の会話はこんなのだろうかと思ってしまう。


[そられはそうとシズヤさん、貴方は魔族との共存を望んでいるようですね。それは起死回生の神の言うように世界の理を変えようとすることなのです。貴方にそれほどの覚悟がありますか?]

《シズヤ…なにもそこまでしなくともよい。気持ちだけでも十分だ。妾はお主の心意気だけで励まされた。有難う。…それじゃあな、また会えたならよろしく頼むぞ…》


ノーナが背を向け去ろうとした。

哀しさの溢れる背中、一瞬見えた泣きそうな顔が、静也を咄嗟に動かした。


「あ…、違う。別に気遣っているとかじゃなくて…俺がそうしたいだけなんです。貴女の力になりたい、そう思ったんです。それだけなんです。」

《シズヤ、よいのだ。妾はお主に会い、話せただけでも十分だ。人間にも善いやつは居るとわかった。だからそれだけで十分なのだ。もう、離してはくれぬか?》

「離しません!貴女が自分を責める気持ちもわかりますが、死にそうなひとを放っておくほど自分は落ちぶれちゃいません!」

《よい、止せ。妾は魔族なのだ、人間と魔族は相容れない。お主にも迷惑をかけたくないのだ…だから、もう離してくれ。》

「だから…だから俺が人間と魔族の架け橋になります!人間と魔族が仲良く出来る世界の架け橋になります!」



静也の決心はもう固く、崩れそうにない。


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