待ち焦がた者side
悪戯の神の後日談的なのです。
余計なものを書いた気はあるんですけど、こういうの書いてみたかったんです。
そこのところは多目に見てくれれば幸いです。
気付いた時にはおれは見知った白い世界にいた。
いつもの夢の中のだ。
なら、おれは死んでないのか?と疑った。
「おはよう、久しぶりね。悪戯の神…いいえ『アレク』。」
おれの背後には夢の中でいつも会う顔の思い出せない女が声をかける。
しかしおれはそのまま背を向けたままで話す。
「なんだ幻影、おれはお前の顔を思い出せない。だからぼやけているからお前はおれの嫁の『カナ』じゃない。」
「いいえ、私はあなたの嫁のカナよ。こっちを見なさい。そうすればわかるわ。」
仕方なしでおれは胡坐をかいたまま背後を振り向く。
すると驚いたことに女、カナの顔が、輪郭がはっきりと見える。
綺麗に整た目鼻立ち、コバルトブルーの知性の高さがうかがえる瞳、流れる水のように風を受けなびいているスカイブルーの長い髪。
気づけば俺の目から涙が溢れていた。
「お、お前なのか…カナ…なのか?」
「そういっているでしょう?まったくおかしな人なんだから。」
いつものカナの口調、しぐさ。完全に本物だ。
それと同時におれは自分がやってきたことを思い出し猛烈に後悔していた。
夢の中でおれはカナにあらゆる暴言を吐いてきた。
殺そうともしていた。自分のありもしない快楽の為に…
「カナ…ごめん…ごめんよ。おれ…おれ…」
「知っているわ。全部。その元凶も。」
アレクが悪戯の神となった元凶がいた。悪逆の限りを尽くしたのは、その元凶のせいであったためであった。そのことはアレクは誰にも言わなかった。いや言えなかった。
その元凶からの制約によって。
「どうして知っているんだ?おれはだれにも言わなかったはずなのに…」
「いいえ、いえなかったのでしょう?制約によって。」
「どうして知っているんだ」
「私は死んでからもあなたのそばでどんな時にでも支えようとしていたのよ。救世のときにも、世直しの時も、荒れ狂っていたときも。ずっとずっとあなたのそばにいたの。」
カナは笑顔でおれの目をみて言っていた。
しかし、夢の中の女がレナだとわかった今、新たな疑問が浮かんだ。
「最期の夢、あれはおれから別れを告げる夢じゃなあったんじゃないのか?」
するとカナは頬を掻き
「そのつもりだったの。精神が完全に穢れたんじゃないかって思って…でもあの子…シズヤっていう子かしら?あの子がこっちに送ってくれてはっきりしたの。あなたの心は穢れてなかったて。」
カナは続けて話す。
「あの子、あなたを埋葬するときに泣いていたわ。あなたの代わりに生きるって、あなたの代わりに強くなるって。」
「シズヤくん…」
「…あなた…あなたにはたくさんの人を殺した罪があるの。だから、然るべき報いを受けなければならないわ。」
「………ああ。おれのこの魂で償えるなら安いものだ。」
「けれども、あなたを慕っている人たちはたくさんいるの。殺されて一度は恨んでいたひともいたけど、あなたのその悲劇を見ていた人も同情していた。元凶を許さないって…。
可笑しいわよね。殺した張本人ではなく元凶を恨むなんて。」
「…」
「さぁ、あなた、あなたのつくった王国の国民みんなが待っていますよ。あなたがくるまでみんなまっていたのよ?」
「…」
「あなたが居て、なにをするもあなたの挨拶がなければ死ぬにも死ねないって。」
「…」
「さぁ、あなた…いえアレク王。いまこそ臣民の前へ行き、挨拶を。」
おれの視界は涙で何も見えなかった。
愛してきた、愛している者の顔も涙でぼやけてしまうほど。
おれは声を殺して泣いていた。
「レナ…お前がおれの…わたしの嫁で本当に良かった。
こんなわたしを最後まで見て来てくれて、ありがとう。
さいごまで、支えてくれてありがとう。」
涙声でおれはレナに、嫁に心から感謝を述べた。
白い世界のわたしたちがいる場所の前に大きな扉が現れる。
「さぁ、臣民もお待ちかねです。待ち焦がれていますよ。」
さぁ、わたしの最後の大仕事だ。
臣民みんなを送り届けるんだ。
「あぁ、行こうか。」
ありがとう。これが最期でも文句はない。