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<傘融合>

静也が目を開け、最初にとった行動は、嘔吐を耐えることだった。

鼻孔に残る激臭、えずいて、涙腺から涙が出てくる。

頭がぐるぐると回っているような状態が続き、正常になるのに夕方までかかった。


「やっと治ったかい、こんぐらいで気を失ってどうするんじゃ。」


ディームが静也に呆れた目をして言う。

静也はこの人がある意味でただ者ではないことを再び認知させられた。


「まぁ、よい。お主とは楽しめたしの、それじゃあの~」


ディームは背中を見せ静也の前から消えていった。



茜色の空は人の気持ちを重くさせる。

しかしこの村にいると、不思議とそんな気持ちにはならない。

村の人たちの賑わう中にいると自分も楽しくなったり、嬉しくなったり。

情緒がある意味不安定だ。


作戦開始の時間はあと少し、それまでに少しでも性をつける。

酒場の飯も旨いが、屋台の飯もこれまた旨い。

手軽に食べられ、尚且旨い。

似たような屋台の出し物だが、少し違った味がして食べ歩きが楽しかったのか時が過ぎるのを忘れていた。


空の半分が暗くなり、そろそろグールデンに向かおうと思った。

するとちらりとあることを耳にする。


「おい、聞いたか。この村に高位の呪術師がいるって話。」

「なんだそれ?聞いてないな。どんな話だ?それ。」


気になったものだから静也は足を止め、聞き耳を立てる。


「どこで何をしているのかはわかんないんだがよ、ある人がその呪術師に占いをさせたらよ、この村に近々、でかい厄災が来るらしい。」

「本当かそれ?!…だったら、この村から出ないとな…」

「あぁ…どこが安全なんだろうな…」

「ここよりも安全なところってなると、かなり遠いんじゃないか?ここより近い王都ですら、歩いて一週間かかるんだぞ…、王都も最近いい話聞かないし…」


静也は一番に気になったのは厄災のことだった。

なにが起こるのか、何が来るのか、地震、津波、台風、考えられることを考える。

この世界でもそういうことが起きるのかと思って、それの備えをしようと思った。



グールデンに入るとガランが出迎える。


「よし、来たな。とりあえず、これを着てくれや。身元がバレるん嫌なんやろ?隠密着っちゅう特殊な素材を使った服や。認識阻害、存在薄利の効果があるんや。まぁいちいち口で説明するんも面倒や。着たらわかる。」


渡されたのは、フルフェイスマスク。目元だけが開いたものだ。

黙って被ると、自分自身が少し薄くなったような気がした。

実際、体は薄くなったわけではないのだが、気持ち薄くなったような気がする。


「ほな、準備がすんだな。お前ら、本腰いれぇや!?」


怒号が小屋を震わせる。体の芯が響くような感覚を味わう。


「聞いてもいいですか?その宝物庫には何があるんですか?」

「身体強化類のマジックアイテムや、俺たちはもともと情報屋として裏で動いとった。料金が高いから代わりにマジックアイテム類でも引き受けよったんよ。そんなかに、強力なマジックアイテムもあってな、獣系の魔物の力を一時的に自身の身に宿すことができるんがあるんよ。腕力、俊敏さ、防御、どれをとっても段違いに強うなるんや…それを取られとったら、もうバランでも勝てへん…」


静也は不思議と自信があふれていた。


「大丈夫ですよ。根拠はないんですけど、勝てる気がするんです。」

「ホンマか?!イケるんやな?!」


静也は無言で頷く。


「わかった、ほんなら作戦はあのとき話とったアレでかまへんな?」


バランも頷く。その眼には決意が見えた。



静也達は、ある建物の前に着いた。

周りには住宅に囲まれた、太陽が決して差し込むことのないところにある。

ひとつの金属製の扉がぽつりとある。

そこに静也たちは立っていた。


「ピッキングできる奴は?」

「っへい!お任せくだせぇ!」


見た目は筋骨隆々とした巨漢、手先が器用には思えない。


「へい!終わりやした!」

「早っ!」


ものの数秒でピッキングを終わらせた。人は見た目によらないのだと思わされた。


「いくぞ、あいつらは罠を仕掛けてるかもしれへんから罠探知、解除できる奴、頼むわ。」

「わかりました。」

「おいっす。」


二人は協力しながら罠を解除する。

どちらかが欠けてしまえば出来ないような技を次から次へと繰り出す。

その甲斐もあってアジトには一時間も掛からないで着いた。



アジトは地下にあり、時折水が浸入する。その時に水滴となり地面に滴り落ちるときの音が何とも言えない不気味さを醸し出す。

何も知らない者が入ってきたのなら、一種の心霊スポットなのではないかと思うほど、暗く、じめじめとしている。勿論、幽霊が居るかどうかは静也にはわからないが、静也は幽霊を信じてはいなかったので少し怖いなと思いながら足を進める。

ある程度進んでいったら、小さい光が見えた。


「あそこがアジトや、今はマグルが率いる『溶岩の手』のアジトになっとる。」


もうすぐアジト奪還の争いに俺も一緒にやるのかと思い、心臓の鼓動は早くなる。

固唾を呑み、呼吸を整える。

傘を召喚し、いつでも戦えるよう準備を整える。

静也以外の者たちはずいずいと進んでいく。静也も遅れを取らまいとついていく。



アジトの中はきれいに整備されていた。

地面もきれいに均されて石粒ひとつない。壁も床と同じくきれいに均されている。

アジトの中は、薄っすらと光る魔導電球を使っている。

一見妖しい雰囲気を醸し出す。


酒を呑んでいた後もあり、酒臭い。酒の瓶も割れていて、アジト内は御世辞にも綺麗とは言えない。

唐突にバラン達が来たので驚いている『溶岩の手』の者たち。

互いに罵り合い、罵倒をしあう。


「おいおい!ここはおめぇらの来るところとちゃうぞ?!ガキどもはかえって糞して寝てろや!」

「糞して寝るのはどっちや、おん?雑魚共はさっさと散れや。『石ころの手』?だっけか?」


罵倒のしあいはすぐに終わった。『溶岩の手』達が先に仕掛けてきた。


「ぶっ殺してやるわ!かかれ!」

「シズヤはん!あいつがマグルや!バランと一緒に頼むで!」


静也は<手加減・傘>を発動し、向かってくる者を薙ぎ払い、マグルのいるところまで進む。

バランも軽やかな身のこなしで敵の間をくぐり抜け、マグルに向かう。


「こいやあ!」


マグルの怒声、一瞬にしてその場が熱くなるほどの熱気を放つ。

徐々にアジト内は熱気がこもり、サウナのような暑さになる。

アジト内にいる者は汗を流しながら戦う。フルフェイスマスクをしている静也はなおのこと熱い。


徐々にマグルとの差を詰め、遂に静也とバランはマグルと対峙する。


「ぐぽぽぽぽっ!久しぶりだな、バラン!あの時よりは強くなったんだろうなぁ、おん?見ない顔がいるってことは…変わってねぇってことかなぁ!むしろ弱くなってんじゃないかァ?」


マグルは肥満体型で、脂っこい肌をしている。

存在が薄利しているのにも関わらず認識できるところから、油断はしていない。

対峙しているのにも関わらず、ずっと椅子に座っている。


「…殺すぞ?」


マグルはバランに挑発をする。バランの額には青筋がいくつも浮き出ている。

すぐさま構えバランはマグルに向かって、ダッキングする。完全に単独行動だ。


「ま、待て!作戦通りに!」

「もう遅い!まずはバランからだ!」


バランはすでに右フックを放っていた。

マグルの左脇腹に完全に入った、と思った。しかし、体の一部が服ごと液化している。

攻撃は完全に吸収された。

すかさずバランは左ストレートを放つ。バランの手には風が纏っている。

液化している部分を吹き飛ばすつもりだったが、すぐに手を止めた。

右手がマグルの体にめり込み、抜けないようだ。


「ぐぽぽぽぽっ!前は俺のスキルの一部しか見せていなかったが、今日でお前は最後だ。サービスでイイモノ見せてやる!」


そうマグルがいうと、マグルの体から湯気が湧き出す。徐々にマグルの体は赤くなっていく。


「ぐぽぽぽぽっ!俺のスキル<溶岩化>だ!俺以外のやつが触ろうものなら皮膚はおろか、筋肉も、骨も融かすぜ!」


バランは苦悶の表情をする。


「…あっつい、な…」


と、愚痴をこぼす。

静也もすかさず傘を<アンブレランスモード>でランス状態にする。

そして傘で突く。スキル<傘突き>の補正もあるので、生半可な防御は貫通する。

マグルはランスで攻撃してきたものだと思い、そのまま受けるがすぐに違和感を覚える。

遅れてねじれるような追加攻撃が不規則に遅れてやってくる。

その理由は魔法<傘操作>の行使で傘の部分だけ高速で回転できるようにしたからだ。

身体を硬化したのならだ、傘がめり込んだ状態になるが、この回転が来たのならば、自分の体はタダでは済まないだろうと思ったマグルは、バランを放すが溶岩状態でいる。


「ぐぶぶぶ…、お前、強いな…、その様子じゃ、まだまだ本気じゃないだろう?」

「…はい。」


本気でやってしまえば殺してしまうだろうと思い、スキル<手加減・傘>を行使している。


「お前と一対一で戦っても勝てはしないだろう…だが…」


バランのほうを見るマグル。

なにかをブツブツとつぶやいていると思ったらマグルの体から炎のような魔力が噴き出ていた。

スキル<危機察知・傘>でマグルがバランを殺そうとしているのに気づき、傘を<アンブレラシールドモード>に切り替えバランの前に立ち守りに転じる。もう一方の手にも小型の傘を召喚し、それもシールドモードに切り替える。

これで<双盾使い・傘>の補正もかかり堅牢な守り役になる。


「これでも喰らえ!魔法<溶岩龍>!」


ドロドロに溶けた溶岩が龍を形作り、あたかも生きているかのように静也達を襲う。

うねりながら、全身でぶつかってくる。


「防ぐのは無理や!避けるんや!」


ガランが叫んで、防ぐのをやめて回避しろと警告する。

しかし静也はその警告を無視し、スキル<傘融合>で自身の手と傘を融合させる。

それでも防ぐのには不十分だと思い、もう一方にある傘を召喚解除し、さらに大きな傘を召喚し、それを手と融合させる。

そして、傘同士を融合させる。

ちょっとした思いつきだったが、これが革命だった。


傘の生地に紋様が浮き出てきた。青く儚く発行するその紋様。しかし奥に秘められた力強い魔力を感じた。

力を入れると、紋様の光が強くなり、大きくなる。

溶岩龍がぶつかると、溶岩が飛散する。魔力で作り出されたものなのでその場には残らないが、熱が地面を溶かし、焦土を作り出す。

しかし、その現象は静也よりも前でおきていた。

後ろにいるバランはおろか、『溶岩の手』の者たちにすら被害を出してはいなかった。

暫く防ぐと、溶岩龍は消えた。

マグルは魔力を使い切ったので溶岩化が解け気絶した。

リーダーが敗れたとこで、『溶岩の手』の者たちは士気が下がり呆気なく終わりを迎えた。






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