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お休みの前に その1

宿に戻る前に酒場で飯をとる。やはりと言っていいほど大変大にぎわいだ。酒に酔うもの、その場の雰囲気に酔うもの、飯を楽しむもの、と人それぞれだ。

組員の人、受付の人、冒険者だったりよく探せば知っている顔がいる。やはり村の中心部なだけあって知り合いを見つけやすい。



「同席、いいかな?」


そう言って話しかけてきたのは一人の女性だった。


「どうぞどうぞ、構いませんよ。」


目の前の美人を目の前によく挙動不審にならないでいれたものだと自分自身を内心褒めまくっていた。

目の前の女性は胸元が開いたレザージャケットを着ている。やはり視線は自然と開いた胸元に向いてしまう。

悟られまいと顔を下、斜め下、横、と一周くらいする。どう考えても、この行為自体挙動不審だ。

それを面白そうに笑う目の前の女性。

やっと自分のしたことがおかしいと気付いたのか下を向いてしまっている。童貞臭い。


「君がシズヤ君だろう?探したよ。」

「自分に、ですか?何かご用ですか?」

「なに、君の噂を聞き及んで実際に会ってみたくなったのだよ。あ、ボクは『レナ』。よろしくね。しかし…こうやって見ると…普通の男だね。本当に強いのかすら疑わしいくらいに…ね?」


レナの目の奥には闘争心という焔が轟轟と揺らめいている。俗に言う『戦闘狂』である。

全身くまなく眺められる。観察、考察されている。レナの目を見れば一瞬にしてわかる。

加えて、簡単な挑発、人間としての器も試しているのだろう。

そのこと自体何の問題はなかった。軽くあしらう、もしくは無視すればいいのだからだ。


静也の場合、反応はするが返答はしない。無視をすることを選んだ。

しかし、レナもあきらめてはいないようだ。

というのも彼女を育てた親に問題があったからだ。


レナはこの村にいるレナの父にあたる人物が冒険者時、遥か東方の一つの島国に漂流したことがあった。

そこは蛮族の島、想像する通りのような、衣服は魔獣、獣の皮を裁縫した簡素なもので、男女共に裸同然の格好、食べ物も簡単につくれるようなもの。武器は鋭利な石と木の棒、それを組み合わせた原始的な槍であったり、蔦も使ったスリングであったりと原始的なものばかりだ。

現地の者たちは珍妙な格好をしたレナの父を警戒し、捕縛。

なんやかんやあって、当時かなりの実力のあったレナの父はある女性と結ばれた。


それが、彼女の母であった。両者が合意して、というものではなく、襲われてその成り行きで…的な流れでだ。

―この世界の人間の価値観は強い者が格好がいい。という価値観のもと結婚、付き合いをするようだ。―


その母の血が色濃く出て生まれていたのがレナ、ということらしい。


どうやってこの村まで着いたのかというと、いかだをつくりそれを漕いで帰ってきた。とのことらしい。

レナが生まれる前の事らしいので真偽のほうは定かではない。


そんなことを知る由もない静也はしつこく「闘おうよ~」と言いくっつくレナを鬱陶しそうに、それと嬉しそうにしていた。

べったりとくっついてくるものだから、レナの立派に実った豊穣の果実が当たり、その弾力に思わず顔を緩ませるのだった。しかし、それでも頑なに断る静也に痺れをきたしたのかレナは穏便な最終手段を使う。

それが、『酔わして勝手に話を進めよう作戦』だった。

そんなことを知らない静也は出てきた料理をうまいうまいとどんどん食べる。酒もうまいうまいとぐいぐい飲んでいく。


結果は火を見るよりも明らかだ。レナの作戦は大成功。酔た静也に一方的に約束を結ばせる。

覚えているかは知らないが、これで確実に「えー、いいよっていったー」と言えるのだ。

勿論、それで約束したと思っていない者は頑なに断るが。

その場合、彼女の穏便でないほうの最終手段が待ち受けているのだ。

レナは冗談半分に「じゃぁ、いまから戦わないか?」と言ってみたら、酔った静也は軽々と了承する。

そのすぐ静也は会計を済ませ、レナを連れ広いところへと向かう。

あまりのことでレナは困惑していたがすぐに戦えることに気づき張り切って静也と出かける。

静也の足取りは覚束なく、千鳥足と言えばいいのだろうか、まっすぐに歩けていない。

それを傍目で見ているレナは仕方なしで肩を貸している。


闘う場所とは村の外だった。

夜行性の魔物が多いのもあって殆どの者は夜に外に出ようとは思わないが、レナのような戦闘狂は頻繁に力試しにいったりするらしい。

今回の静也は酔って勢いか、はたまた無意識かわからないが外で戦おうと言ったのだ。


「俺が勝ったらなんでも言うこと聞いてもらうぞ~」


まだ酔いが覚めていないのか静也はレナにそんなことを提案する。

前世ならセクハラだ。


「勿論、全然かまわないよ。もちろんボクが勝ったらシズヤ君も

なんでも言うことを聞いてもらうからね。」


相当自信があったのかレナは軽く承諾した。静也もまた了承したのだった。




夜のあたたかな風が二人を撫で、草花が揺れる。

月が浮かぶ草原の下、二人の人間が対立していた。

一人は頬が紅く紅潮し、足取りも覚束ない泥酔している男、静也。右手には傘を持っている。

もう一人は際どい服を着て妖艶な肌を晒している女、レナ。ダガーを両手に持っている。よく見れば投擲用のナイフも備えている。


レナはけん制に一本ナイフを投げ、それと同時に静也に向かって走る。

静也はナイフを体を右に逸らし避ける。しかし酔っているせいで右に倒れ、片手をつく。

レナはその隙を突くように右足の踵落としをする。

レナの踵は静也の頭に落ちるが、静也は傘で身を守る。

静也の傘の能力を知らないレナはそんな傘へし折ってやるといわんばかりに思い切り踵を傘もろともに落とす。

しかし、傘は折れるどころか歪みもしない。傘を持っている静也も全然重そうにはしていなかった。

幾たびの戦闘をしてきたレナの自慢の踵落としを泥酔している静也にいとも容易く、片手で受け止められたことに衝撃を受けたが、その表情は嬉しそうだった。


楽しいとレナの顔はそう言っている。右足は自身の攻撃の反力で浮くが、静也の傘を持つ手を蹴る。

レナの蹴りは静也の手に直撃、痛さで傘を放してしまう。

傘は地面に落ちると消えたので、そのことにレナは驚いていた。

静也の手は蹴られたせいで指が何本か変な方向に曲がり傘を持てなくなっている。しかも痛みに慣れていない静也は痛みで悶えていた。


そのことからレナは静也が戦いなれていないことを察する。

次の攻撃で静也を狩れることを同時に察して拍子抜けだと思い肩を落とした。

しかし、静也のうめき声がピタリと止むと静也の方から異様な気配を感じた。

背中に嫌な汗がべたりと流れ、粘着質な油が足元に流れるような感覚。

静也はゆらりと起き上がる。

折れている指のある手をを無理やり握るとべきり、ばきりと嫌な骨の音が聞こえた。

指は青くなっているのが分かる。どこからか現れた傘を握ると、石突きに近いほうの生地を持ち、投擲する。

レナはその傘をかろうじて避ける。投擲するモーションが短く、あまりの速さに反応が遅れたのもあった。しかしそれだけでは静也の傘投擲は避けられない。

避けれた理由は、レナの回避スキルの重ね掛けにある。

レナは何とか避けれたがすぐに静也を見る。同じように傘が握られているのを見て戦慄する。

今度は避けられないかもしれない、そんな恐怖を感じるがレナの表情はこれまでしたことがなかったであろう笑みだ。口角はこれでもかというほど吊り上がっている。

静也も傘を投擲し、それと同時にレナに向かい走る。

投擲された傘をレナは片手のダガーでいなす。しかしその代償としてダガーが折れてしまった。

向かってくる静也をどうやって対応するか脳内でシミュレーションする。

その間約一秒、レナの考えた結果は静也に向かって走るだった。

静也もレナに走って向かっているので距離は徐々に縮まっている。


二人の距離が1メートルくらいになったとき、レナはスライディングをする。

静也の脚目掛けてのスライディング、レナの視線は自然と静也の脚に向いていた。

確実にスライディングが入った。と思った瞬間レナはまるで巨岩にでもスライディングしたのではないかと錯覚してしまうほど、微動だにできなかった。

上をゆっくり見ると、静也の赤い眼光が見えた。


その瞬間、レナの意識は闇へ落ちていった。


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