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なんとなくで

組合長室の前に着くとノックをならす。

入室の許可を得ると静也は一言かけて入室した。


「失礼します。先日の件での答えが出たのでここに来させていただきました。」

「うむ、入ってよいぞー」


と、軽い口調でロドムが返答する。

組合長室の扉をゆっくりと開けるとダンとロドムの二人がいた。

ザークは村長なので、そっちの仕事もあるのでいないのだとか。

ダンに至っては顔面蒼白で、冷や汗をかいている。


(どうしたんだ…ダンさんは…)


「まぁ、座りなさい。」


ロドムの声はどこか優し気な感じがする。

素直に従い椅子に座った。


「それで、お前さんはどうするんだ?組員になるのか?ならないのか?それを答えにきたんだろう?」


とダンが聞いてくる。

前世の面接を思い出すような感覚に思わず背筋を伸ばした。


「はい、その件の答えを出しにきました。」


若干強ばって、思考がうまく回らないまま返答をしてしまう。

会社に受ける為に、基本的なことを先生に叩き込まれたので、条件反射的反応をしてしまった。


「まぁ、そこまで強ばらなくていい。して、その答えは?」

「はい、組員になりたいと思っておりますます。」


それを聞いたロドムは嬉しそうに頷き、膝の上にガッツポーズをつくった。


「よし、それが聞きたかったんじゃ。それじゃ、組員になったのと同時に銀級冒険者の冒険者カードを発行させるわい。…ダン」

「はい!わかっております!すぐさま作らせて参ります!」


と言い、組合長室を疾風が如く走り去って行った。



「それでは…シズヤくん、話したと思うが組合の契約があるのは話したかね?」

「はい、他言無用の秘密だったと思います。」

「その通り、死んでも話すことを許されないものがある。それが『マルナ村組合保有極秘情報録』じゃ、長いから儂は『ナイショ話』って言ってるんじゃが、何でか気にいらないようなんじゃよ。ダースのやつ…ダンは良いって言ってるんだけどな…」


(ネーミングセンスが酷い…ダンさんは…可哀想に…)


何となくで理解できたので、静也は心のなかで合掌していた。


「まぁ、それはいいんじゃ。その『ナイショ話』の中には決して住民には話してはいけないものや、他人に言ってはいけないものがあるんじゃ。」

「それはわかりましたが…万が一、組員の中では誰かに漏らそうとする輩がいるのでは無いでしょうか?」


人の口に戸は立てられないとも言うように、情報を漏らす輩は必ずいるのだ。


「あぁ、それは大丈夫じゃ。ある儀式に参加してもらうからの、もし喋った時の保険にの?そうすれば話そうとしても話せないってことになるから情報が漏れることもないわい。」


ロドムの顔は笑みを浮かべていたが目は笑っていなかった。

思わず喉をならしてしまうほど、異様な感覚に襲われる。

廊下から物凄い物音を立てながらこちらに近付いてくる者がいた。


「元老!発行して、きました!」


ダンは息を絶え絶えの状態で入ってきた。

瞬間、見えないナニかがダンの額目掛けて飛んでいった。


「入るときにはちゃんとノックせんかい!全く最近の若いのは…シズヤくんを見習いたまえ。」

「酷いですよ元老…押し印を投げる必要ないじゃ…いえ、何でも無いです。」


正面にいるロドムのダンへ向けた視線を間で受けて静也は完全に動きを止めていた。むしろ動けないのである。

蛇に睨まれた蛙が如く身動き一つできなくなり、戦慄が走り、尚且つ「覚悟」をするほど、ロドムの睨みに怯えていたのだ。

いや、正しくは強制的に強ばらされていたのかもしれない。そんな錯覚を体が感じた。息苦しい。

睨み付けが終ると体の硬直が解かれまともに空気が吸えるようになった。


(お、おしっこちびるかと思った…怖っ…ってか、人に向ける目じゃないぞ…あれ)


ロドムは笑顔を静也に向けると


「おお、すまんすまん、すこしビビらせてしまったかの?」

「(少しどころではないんだが…)…大丈夫です…多分」



ごほんと咳払いをして気を取りなおす


「あー、話を戻すが、本当にシズヤくんは、組員になるんだね?その覚悟はできているんだね?」

「はい。あります。」


静けさが、重苦しい空気に駆り立てる。前世の面接さながらの空気、凍り付いたような空気をこの世界でも感じることになったのだ。

そしてロドムが口を開いた。


「……確かにシズヤくん、君は強い。強いが…君にはあるものが欠如している。」


今まで見たことのないロドムの真剣な表情に静也は思わず息を呑む。


「君は確かに強い。その力量は儂にも計り知れん。魔牛の群れを、『スタンピード』の阻止をしてくれたのにも感謝している。村を救ってくれたのにも感謝してる。じゃが、君の目には『決意』というか『決心』というか…『死ぬ覚悟』がない。」

「死ぬ、覚悟…、自分は死ななきゃいけないんですか?」

「そういうわけではない。じゃが、君はどこか抜けておる。脳天気というか、お散歩気分というか…まるっきし隙しかないんじゃ。誰もが感じる危機を君は感じていない。」


(話が掴めない…どういうことだ?何が言いたいんだ?)


「あの…言いたいことが分からないのですが…」

「つまるところ、君はまるで別の何かを見ているようだと感じるんじゃ。どこで生きてきたのか、どこで生活していたのか、わからないが、君は別の世界を今、見ているような、そしてなんとなくで生きている。」


その言葉に静也は胸がえぐられるような感覚を覚えた。

『なんとなくで生きている。』その通りだ。今を生きているだけだ。

『なんとなくで』生き、『なんとなくで』死ぬ、そのことを責められ思わず、その言葉で心が塞がる思いになった。

『なんとなく』で生きているんじゃダメなんだと、先人から、生を受けてからの先輩のやけに重みのある言葉に心が揺らいだ。

そしてロドムが静也に聞きたかったであろうことを投げかける。


「折角だしついでに問おうかの。君は『インタクロ文明人』なのか?」

「はい?」


思わず間の抜けた声が漏れた。


「その、いんたくろ文明人って何ですか?」

「はえ?違うのかい?」

「はい、自分日本人ですので。」


間の抜けた風が吹き抜けた。


「…その『二ホン人』というのも聞かんが…違うのかぁ…」


ロドムは残念そうに頭を垂らしていた。

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