アレンと依頼 その1
魔樹海はマルナ村を出て西へ二時間歩いた所にある。
ちなみにハナル平原はマルナ村の南に一時間位で着く。
アレンはそろそろ足がほしいといっていた。それもそのはず、マルナ村の周りには何もなく街に向かうのにも歩きでは何日かかるかわからないと言うのだから騎馬か騎竜(かなり贅沢なことをいっている)が欲しいところだと言っていた。
(確かに、移動に便利なものはあるに越したことはないな…現代人の移動手段はほとんど車だからな…歩きはきつい…)
小言をはさみながら二時間過ぎたころに魔樹海が見えてきた。
「さて、仕事に取り掛かるか…目標はとにかく魔物だ。自分の手に負えないやつが出たらとにかく逃げる。いいな?」
「わかった。目標はどうする?」
「一人5体、ってところか…まぁ無理はするなよ?」
とドヤ顔でいってきた。
静也は薄々感じていた。ここは<バーサークモード・傘>で気を失ったところなのでは、と。
傘を召喚し、<常時警戒・傘>を発動させる。
(もう、あの時の俺じゃないんだ。……あ、でもちょっと怖い…)
静也のへっぴり腰は治ってはいないままだった。
___アレンside___
(さて、シズヤのほうも心配だが…あ、いや心配する必要はないか…あいつ、俺を倒すほどの男だからな…しかも爆炎のダンを倒す程の男だからな…)
アレンと静也は二手に分かれ行動していた。
討伐数を増やし、報酬の増加を図っていたからだ。
今のアレンの得物は片手剣である。魔樹海の魔物はほかのところの魔物と比べ数段も違うほど厄介だからだ。正直背中に背負っている両手剣を使うことはないだろうと思っている。
だが、背中に両手剣を背負い続けるのには理由があった。
今は亡き仲間の形見であるからだ。
死んでしまった理由はアレンの判断ミスからだったので殺してしまったのほうが正しいだろう。
その時のことを忘れないため、自分に何かを言い聞かせるため背負い続けている。
それで死んでしまっては元も子もないのだが。
その話はまた別のお話になる。
魔樹海の外でもかかわらず放たれる禍々しい魔力に背中から嫌な汗が流れる。
魔樹海の周りを歩き、出てきた魔物を狩る魂胆だが一向に見つからないので若干興覚めしていた。
(シズヤのほうは倒せてるのか?こんなに出てこないんだから、あいつのほうも倒せてないだろうけど…もしかすると…)
ちょっと気になって静也のところを覗き見をすることにした。
静也なら、もしかすると、という期待をしながら。
___アレンside end___
一方の静也は魔樹海の入り口を『先っぽだけ』状態で行ったり来たりを繰り返していた。
魔樹海の入り口あたりには比較的弱い(魔樹海産魔物の強さ的に弱いほうの)魔物が出現する。
スキル<常時警戒・傘>が常に発動しているため危機を察知できる。
(さっきから小さい魔物ばっかりだ…奥の方にもっと強いのがいるのかもしれない…怖くて行く気も起きないから行かないけど。)
ただのチキン野郎だった。
静也の感覚では出てくる魔物が弱すぎて話にならならないので、傘の能力、もとい傘自体を調べることにした。
先ずは傘の種類から、今まで黒塗りの長傘を使っていた。
他の傘も出せないかと考えて、透明なビニール傘を召喚できないかと試してみた結果、可能だった。
日傘も召喚できないかと試してみたら出来た。
(どうやらスキル<傘>は雨傘、日傘両方召喚可能なようだ。もしかして性能に違いが有るか?試しに投擲してみるとして…獲物は…)
回りを見渡し獲物を探す。
スキル<探索・傘>があるのも忘れている。
すると、目の前に三匹の刃の生えた兎(長いので『刃兎』と呼ぶ)が現れる。
両手に傘をもち、それと同時に投げ、二匹の刃兎を仕留める。
威力、殺傷力、速さ、どれをとってもほぼ同じ。
つまるところ性能は変わらないようだ。
残りの一匹を仕留めようとしかけるが、敵わないと感じたのか逃げだした。まさに脱兎の如く。
<傘の極意>の影響もあり、刃兎にも追いつく脚力を持っていた。
後ろから捕まえ首を掴み押さえつける。もう刃兎は逃げられない。必死に逃げようと後ろ脚が忙しなく地を蹴る。刃兎は怯えていた。
(なんか…罪悪感がしてきた…動物を一方的に殺しているのに申し訳なくなってきたな…)
心が痛まっているが、生きるために…と考えている。傘を召喚し突き刺そうとするが、手が震えてどうしても殺せなかった。良心が痛んだからだ。
しょうがなく、魔樹海の比較的入り口から少し離れた深部になるべく近いところに帰した。
その行為は偽善行為であり、いずれ人に害をなす行為にもなることに静也は気付いていなかった。
静也が討伐した魔物は先ほどの刃兎二匹に加え、大きい蜘蛛、大きい蜥蜴などの虫類が多かったりする。
刃兎は中央方向へ走り去っていったのを確認すると、もう来るなよ、と一言かける。
魔物に人間の言葉が伝わるかはわからないが。
するとアレンの声が遠くから聞こえてきた。
「おーい、シズヤーどこだー?ったく、どこにいるんだー?」
どうやら自分を探しているようだったので、足早にアレンのところへ、魔樹海の外へ向かっていった。