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飛び級試験

今回は少し長めです。

組合に着くと何事かと多くの人たちが静也たち一行を見ている。

ホライン亭で食事をとっていたりと少しの間しかお邪魔していなかったが組合では結構人数が減っていた。

今現在、受け付け業務はエリナが行っている。


「邪魔する。組合長に合わせてくれ。「ザークが来た」といえばわかるだろう。」

「は、はい。組合長に通してまいりますので、しばしお待ちください。」


とんでもない速さでエリナは戻ってきた。


「組合長に通してきました。二階の組合長室へどうぞ。」

「うむ、ご苦労。」


静也はザークについていかされた。



「おい、ロドム入るぞ。」


と言って、許可がでていないのにザークはどしどしと入っていく。それを静也はついていくことしかでなかった。


「まったく、そういう前に入っておるだろうが…で、なんの用じゃ?っておぉ、シズヤ君か、よくきたの。」

「おじゃましてます。」

「話を続けるぞ、このシズヤ殿は魔牛『アングリーブル』のスタンピードの単独阻止成功者だ。そんな者が木級冒険者にとどまっているのはおかしいから、率直に言う。この者の級位を上げてほしいのだが。」

「ほう?単独でか?それはまたすごいことをしたのぉ。」


と、ロドムは静也を見る。


「で?上げるのか?上げないのか?」

「儂も上げるつもりでおるよ。じゃが、冒険者の規定があって級位の向上規定上ではまだ達していないのじゃよ。だから上げられない。」

「そうか…なら『村長権限』を使うほかないな…」

「ちょっ、お前それはないだろぉ…」


ロドムが狼狽えた。

自分の意見のない中、勝手に話が進んでいるのを目撃している。


「あ、あのぉ」


そこでやっと意見をだす。


「規定は規定なので、そこは順守するべきだと思うのですが…」


双方から互い違いの視線をうける。


「そうじゃそうじゃ、きまりは守るもんじゃぞ?」


ロイドの嬉しそうな目と、


「村長が良いと言っておるのだ。構わんのだ。」


ザークの複雑そうな目。


「じゃが…スタンピードを単独阻止…か。ここは考え物じゃ…」


ロドムは顎の立派な髭を撫でながら考えている。


「そうであろう?!そんな奴が木級でおさまっていたら他のやつになめられるであろう!?」

「…それなら…飛び級試験を作るか…その第一号にシズヤ君、君にやってもらい、納得したら飛び級させるなんてどうだ?」

「おぉ!お前さんはやはり話の分かる男だと思っておったわ!」


また勝手に話が進められていく。


「と、いうことじゃ、さっそく準備してくれんか?」

「…拒否権は…」

「「ない」にきまっとるだろ」


静也はがっくりと首を垂れる。すこしそんな気がしていた静也がいた。


「じゃぁ、試験官はダンにしてもらうかのぉ。話しておくから、準備しておくんじゃよ?」

「あの、魔獣の買い取りをしてもらいたいので、そっちを先にしても…」

「準備しておくように」

「…はい」


(有無を言わさずに…か。くそったれ!)


静也は心の中で悪態をついた。



裏の広場で飛び級試験を行うことになっており、試験官はまたもダンであった。

観客も多く、ざわざわしていた。冒険者だけでなく一般の人もいる。噂の広まり方が尋常じゃなく早いのは前世の世界でも同じようだ。

開始の合図はないとのことだ。


「あー、話は元老(ロイド)から聞いている。正直俺も相手になる気はしない。だが、端から全力で行くぞ!」


その一言で気合が入ったのか、ダンのもともとあったその盛り上がった筋肉が更に肥大化した。

それと同時にとんでもない圧が静也を襲う。

前までの静也なら硬直し、隙をつかれていただろう。

しかし今の静也は隙がない。

そのことに試験官のダンは少し驚いていた。

いや、正しくは感心していたのかもしれない。


ダンは静也との距離を渦巻きを描くように詰めていく。

じりじりと、慎重に。決して静也から目を離すことせず。

一方、静也は傘を構えていた。

その頭の中では、どう相手を傷つけず倒すかを考えていた。


(この傘で思いっきり叩いたり突いたなら、ダンさんはミンチになってるか風穴があいてるか…)


考えたら身が震えていた。


「どうした…と余裕の言葉も言えるのもここまでか…?」


(どうする?相手を気絶させる程度に抑える…てか、俺前にアレンさんと戦ったとき滅多打ちにしたのにミンチになってなかったじゃん…どうしてだ?もしかしてだけど…いや…わかんないけど、試してみるか…)


「さぁ、シズヤ…お前とまともにやっても俺が負けるのが見えている…むしろ死ぬんじゃないかって思っている。」

「流石に殺しなんかしませんよ。」


最後に「多分」と小さく呟いた。


「はっ!そうだったな…、手加減してって泣きながら言いたい気持ちだ。」


(ダンさん、すいません。うまく何とか気絶させます!)


「いきますよ!」

「こっちもだ!」


走りながら距離を詰める。

ダンの武器は一見、両手剣のようだが、手には籠手をはめているところから格闘もやることもうかがえる。

前までのように相手の動きがスローに見える、というわけではない。

スキルのことを理解すると、その効果の発動条件が変わってしまうようで、今では死を覚悟した場合にのみ発動するようになった。

もちろん、このことは静也自身知っている。魔牛『アングリーブル』討伐時にもこのようなことになっていたからだ。

流石に死を覚悟したときにはスローにみえたが。


「うぉおおお!<羅刹・金剛化>!」


ダンが叫ぶと、体から赤と金の混じった湯気のようなものがダンを纏う。


「最初から奥の手を使わせてもらう!<剛力>!<鬼人化>!」


ダンの見た目、いや、雰囲気が一変する。肉体は艶がでて金属さながらの光沢がでている。

姿はまさに『鬼』の一言に尽きる異常な外見は肉体は赤く茹でられたようで、全身の血管が浮き出ており、口からはちらちらと鋭くとがった八重歯が見える。


「コノスキルヲ使ウノハ…イツ振りカ…ナ」


シズヤは息を呑んだ。背中から嫌な汗が噴き出てきた。それほどまでにダンが豹変したからだ。


「おい…ダンのもう一つのやつじゃねぇのか!?」

「あぁ…!ダンのもう一つの異名って確か…」

「知ってるぞ。『羅刹のダン』だったな…あいつ、初っ端から本気だぞ?!シズヤってやつ死ぬんじゃねぇのか?!」


ダンの咆哮が広場に響く。ざわざわとしていた喧騒が一瞬に凍り付く。

もはやダンは人間ではありえない気を纏っていた。

眼は充血しており、ダンのいたるところが真っ赤に染まっていた。

髪はゆらゆらと揺らめき、炎のようだ。

刹那、ダンの持っていたであろうその両手剣が飛んできた。

避けると後ろからとてつもない轟音が響く。土煙が舞う。


(観客に怪我はない。広場が広くて助かった。)


後ろに気をとっていると、真正面にはダンが迫っていた。

もうすでにその拳は静也の顔面に到達しそうになっている。

間髪入れず静也は傘を盾に受けと、体ごと飛んで木造の木箱に突っ込み土煙が巻き上がる。


またダンは咆哮する。勝利に酔ったようなその咆哮。

すると静也の飛んだ方向から一筋の黒い光が走る。

その正体こそ『傘』である、が当たるであろう部分は石突きではなく手元だった。

手元はダンの顔面に向かっている。

ダンは避けるのが間に合わないと無意識的に判断したのだろうか両手で守りに入った。


しかし、その守りを貫通する勢いで傘はダンの顔面に手越しに押し付けられている。

手の甲は顔面にめり込もうとしていた。

ダンは体をそらし、傘の軌道を逸らす。

ダンの鼻は曲がり、鼻血が流れていた。口も切ったのか血が垂れていた。

態勢を持ち直し、シズヤの飛んだ方向を睨む。


「ククク…、ヤル、ナ…シズヤ、」


ダンの理性はもうほとんどなかった、スキル<鬼人化>の影響で理性は徐々に破壊の衝動に侵される。


「思った通りだ。手元なら致死攻撃にはならない…でも、アレンさんの時には生地のほうで滅多打ちにしていて…まぁいいや、これで思いっきりやれる。」


歓声が沸く。

その歓声だけで小規模な地震がおこるほど、沸き上がった。

静也は傘を召喚すると生地を持つ。ことはしなかった。なぜなら先ほどの傘の投擲であるスキルを習得したからだ。


《スキル<手加減・傘>を習得しました。》


習得したときのアナウンスが聞こえた途端にすぐに効果を自己開示を行い見た。

その効果は相手を殺すことがなくなり、気絶させる。

この上なく都合のいいスキルはないと思った。

静也は無意識的にだろう不敵な笑みを浮かべていた。

戦闘狂の血筋でもあるのではないかと疑いたくなる。


(あとは、距離を詰めて直接ぶん殴るだけなんだけど…)


先ほどからダンは息を荒げており、多少はダメージを与えたと思われる。

しかし、ほぼ理性のないダンに痛みにいちいち反応するということをすることはなかった。

あるのは破壊の衝動のみ。目の前にいる者をただ壊し、殺すことを悦ぶ。

完全に理性をなくしたのなら、体力が尽きるまで破壊をやめない。

そんな彼が金級の冒険者になれたまでの経緯はまた別の話になる。


(負傷を覚悟して突っ込むか…でもまた殴り飛ばされるのも痛いし…)


静也もスキル<傘の極意>や<傘使い>があるとはいえ、痛みがないわけではない。

常人に比べ痛みを感じにくいだけで、痛くないわけではない。

攻撃を傘で受け、ダメージを軽くしたというのにだ。

傘でダンの攻撃を防げたが、地面との衝突の痛みはそれなりに痛かった。


(ダメージを負わなければいいんだ…(武器)ならいくらでもだせる…)


目の前には怒り狂った鬼が攻撃しようとこちらに走っている。

なにを思ったのか静也は傘を広げ、正面に構えた。


《スキル<防御・傘>を習得、それに伴い傘変形<アンブレラシールドモード>が使用可能》


ダンは傘を何も疑わずに殴った。もはやダンは考えるほどの知能をもっていない。

傘は飛んでいき、その方向をダンは眺め、勝利に酔っている。


静也は勿論傘と一緒に飛んで行ってはなかった。

傘を広げると、低い姿勢になる。ほぼ賭けのようなことだった。

闘牛のようなものを思い浮かべたのだ。

知能が低下しているのでなによりひっかけやすかった。

ダンが傘を眺めている間に傘を召喚し、スキル<手加減・傘>を発動させる。

上を眺めるダンの死角にもぐりこみ、傘を握り、傘を思いっきりダンの胴体に振る。

無防備の状態のダンのボディに手加減してあるとはいえ、異界の能力の計り知れない傘のフルスイングがどれほどの威力なのかは誰も図りようがなかった。


ダンの体は宙に浮き、無防備の体に測りようのないほどの強力な一撃を受け、口からは吐瀉物がまき散らされる。

痛みにより気絶するのには十分だった。

傘を振りきったころには広場の地面にはダンの体で描いた一本の太い線が描かれていた。

ダンは完全に気絶している。起き上がる気配はなかった。肌の色がもとに戻ったのが何よりの証拠だ。

暫くの沈黙の後、


「勝者、シズヤ!」


勝利を告げたのは、ザークだった。

ザークが勝利を告げると観客席にいる者たちは、一気に沸き上がった。

勝利を告げられ、会場の歓声を一点に浴びた静也は心が浮き上がるのを感じた。

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