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また依頼を受ける。

宿に帰り眠りについたその経緯は語るまでもなく何もなく終わった。

それは静也が組合の登録した時の試験時、見に来ていた観客の何人かが静也のことを話していたからだ。

静也の噂は口から耳、耳から口へこの村内で広まりつつあり、知っている人が多くなっていた。

多少背に尾ひれがついた噂だが静也にちょっかいを出す輩はいなくなるほどその噂が浸透していた。

肉体は転生時に用意されており、魂がその依り代に入る形をとっていたので、転生前とは全く違う骨格のため顔つきは全く違うのは仕方のないことだと自己解決した。


話は逸れてしまったが、この噂は買い取り、解体屋のおばちゃんも会った初日に気づいていた。

勿論アイナも知っていた。

この事に静也は気づいていたいなかったが、後々気づいていくと思われる。



後日、起きて身支度を終えると組合に向かった。

勿論、依頼を受けて報酬を貰い稼ぐのもあるが、もうひとつに家を買いたいので不動産的な役割を担っている場所を伺いたかったからだ。

そろそろ宿に寝泊まりしている状態では不便なところが出てきたからだ。

それは宿で寝泊まりしているときによく隣の部屋から物音が聞こえてくるからで、とても迷惑極まりなく思って宿主に止めるように言うと、隣の部屋には誰も居ない、と言って、不気味に思い宿から家へと考えた訳だ。

しかし静也は家の相場を知らないのだ。

だから、受付嬢にでも聞こうと考えた訳だ。


「すいません、お伺いしたいのですが、家を買いたいのですが、不動産はどこにありますか?」

「不動産は…」


聞くところによると、不動産は村の中心辺りにあるらしく、家の相場は安いところで50万ルターもするらしい。

なんやかんやあって、静也の所持金は16万ルター。

依頼をこなしていくしかない。

しかし、静也は討伐して18万ルター近く稼ぐ方が苦しいことを知らない。

冒険者の平均取得ルター料はだいたい6万ルターが良いところだ。つまり、はじめての狩りで3倍程の収入を手に入れている静也は異常だということだ。

しかし、問題はこの収入が安定するかだ。

冒険者は危険と隣り合わせの仕事、普通に働いている人と比べ収入の良いときと悪いときとの差が激しく、安定しない。

逆に商売等をしている者はかなり安定した収入が見込める。

商才にもよるが…

何日、何ヵ月と積み重ね、やっと欲しいものを買える。

しかし、静也の場合は近日中に買える。ということができるのでズルしたと言っても過言じゃない。

しかし、生きるためにそんなことも言っていられないということには変わらない。


依頼の張り出されているボードを眺め、おもむろに依頼の紙を剥ぎ取る。


「この依頼を受けたいのですが、構いませんか?」


その依頼とは、『農家の収穫の手伝い』だった。

勿論これは慈善活動で、冒険者級位を上げるためである。

本当の目的は『魔牛アングリーブルの討伐』である。

報酬は討伐数から計算される出来高制だ。


「『収穫の手伝い』はまだしも…『魔牛の討伐』はいささか早いと思いますが…どうしても行くというのならば私共からはなにも言えまさんので、自己責任でだいじょうぶですね?」

「えぇ、大丈夫です。」


静也の瞳から自信と決意の光が漏れていた。

渋々ながら受付嬢は了承した。



先ず静也は『農家の収穫の手伝い』に行く。

実は傘の能力の一つ、回収能力(?)が畑の収穫物にも使えるか試す意味も含めて依頼を受けたのだ。

目的地は農業区、北方面にある中規模の畑をもつ農家のお宅、実は、農家の方が腰を痛めてしまい、代理人の奥さんに頼み、組合に依頼を頼んだのである。


「収穫の手伝いにきたものですが、どなたかおりませんか?」

「おぉ、よく来てくれた。儂が依頼を頼んだ『オイン』じゃ。」

「自分は木級冒険者『水鏡静也』です。よろしくお願いします。」

「おお、礼儀のええやつじゃなぁ、どっかの貴族さんかぇ?」

「違いますよ、ごくごく普通の一般人ですよ。」

「そうかそうか。なら良か。んじゃぁ、さっそくやって(収穫して)もらおうかの。」


仕事内容は依頼名と同じく作物の収穫の手伝いだ。

しかし、問題があった。それは育てている作物だ。

育てている作物は『サラン』と呼ばれるこの世界ではポピュラーな作物らしい。

見た目はジャガイモにそっくりで、収穫時には多く収穫できると、この特性もそっくりである。

しかし、このサラン、厄介なことに収穫せず放置していると、土壌が変異してしまう厄介な特性をももつ。

なので収穫するときには土を掘り一個残さず収穫せねばならないのだ。

ここで、傘の能力を試す。

土の中のサラン一個残さず収穫できるかをだ。

念のためにシャベル、スコップ、を持っていく。


手の内にいつものビニール傘を召喚する。

そして収穫することを念じる。『傘ストレージ』は発動済みである。

『傘ストレージ』内にサランが表記されていて、土の中にサランが残っていなかったら、成功である。


土を穿り(ほじくり)返したところ、一個たりともサランがなかった。成功である。



「いやぁ、ありがとうね、とても助かったわぁ。」

「いえいえ、自分も自分の能力(傘の)が試せてよかったですよ。それがたまたま役に立ったまでですから。」

「そうかそうか、謙虚なのはいいことじゃが、行き過ぎはよくないからの?自信を持つことじゃ。ほんじゃ、依頼完了証じゃ。組合の口座に納金するけん、明日か、明後日には達成料をもらっといてなぁ」

「はい、ですが…腰大丈夫ですか?痛んだ腰で行くのは苦労しますよ?」

「んんんー…そうじゃが…」

「直接達成料をもらえますか?今日が無理なら明日にでも伺いますから。」

「お?ええんかい?」

「はい。もっとお体を大切にしたほうがいいです。」

「そうか…ありがとうのぉ、んじゃぁそうしてもらおうか。」


そういって、オインは家に戻っていく。

時刻は日が真上にも届かない時間。一度少し早い昼食をとろうと考えていた。


「おぉ待たせたのぉ、報酬じゃ。」


貨幣を手渡しする。


「ありがとうございます…あれ…少し多くないですか?」


張り紙には達成報酬は230ルターだったのだが、渡されたのは250ルターだった。


「少ないが、受け取ってくれ。」

「ちょっ!多い分は返します!ただでさえ腰を痛めていて大変な状態だっていうのに」

「いや、受け取ってくれんか?」

「だめですって、ちゃんとした分は貰います。」

「感謝の気持ちじゃ、受け取ってはくれんかぇ?」


返す言葉がなくなった、それは相手の感謝の気持ちを無下にするのではと思ったからだ。

しかし腰を痛めている人から金を余分にもらうのは、如何せん搾取している気持ちになってしまうのだ。

どうしようもない気持ちになってしまい固まる。



結局、断り切れず貰ってしまった。

どうしたらいいか受付嬢のエリナかサラに聞くことにしようと思ったが、その前に昼飯にすることにした。

ここは簡単に屋台のを食べることにした。

楕円形のパンに切り筋をいれ、そこにブロック状の小さい焼き肉を何個か挟んだものだ。

ボリュームもあり、力の出る食べ物だ。肉もジューシーで腹持ちもいい。

お値段なんと一つ7ルター。お買い得。なお組合の地図よりお高い。


二つ食べて村をでて、西に出て目的地『ハナル平原』に到着する。

遠くには何匹もの牛のようなものがいた。遠くから眺めていても軽く百匹は居そうだ。

眺めていると、多くの牛がこちらに走ってきていた。

よく見ると、こちらに気づいたようだ。

驚きを隠せない静也。距離はかなりあったはずなのに、と思っていた。

それもそうだ、その牛は普通の牛ではない、『魔牛アングリーブル』だからだ。

魔のつくものは普通ではないことをまだ静也は知らなかった。

普通の牛よりも五感が鋭く、何よりその凶暴さだ。人間をもひき殺すほどだ。

相手は一匹や十匹ではない、軽く百を超す凶暴な魔牛だ。

戦慄が走り同時に走馬燈が見えた。


異世界で何度目かの『死』を覚悟した。

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