生きてゆくというとこ その2
スキル<傘使い>の謎に近づけた気がした。
だが、使い方も分からないのだから、この世界で生きていくのに苦労をする。
なら知っておいた方が今後のためになる。
スキルの恩恵もあることで、スキル<傘使い>、<傘の極意>、<傘>の理解をしつつあった。
狩った魔物共が自動的に傘に入るということで、狩りを続行し更に稼ぐ。
だが、独占は良くないと考えて後5匹倒したら帰ろうと思った。
明日からは依頼をこなしながら、狩りを行うつもりでいた。
身体能力がスキル<傘の極意>により上がっているのには何となくで気づいていたが、無意識的に生前の全盛期の脚力が少し?よくなったくらいになっている。
ものの、30分で深緑の樹海の見えてくる地点にまで到達していた。疲れはなかった。
樹海の近くにやって来ると冷えた油のようなへばりつくような気持ちの悪い感覚に襲われた。
静也は知らないだろうがここは『グロール魔樹海』であった。
魔の付く地帯では魔力が増えていくので、長時間人間がいると爆発四散することは常識だった。
そんなことを知るよしもない静也はどんどん魔樹海に侵入する。
「少し力が溢れる。やれるはずだ。」
魔力が増えているとは知らず静也は魔樹海に入っている。
静也は知らないだろうがここはグロール魔樹海。大事なことなのだ。
凶悪な魔獣や魔物が住み着いている。
さらに自然の魔力により魔物が生まれたり、獣が魔獣化するのだ。
そして一部の魔族も住む。
樹海の中を進んでいくと人間と同じくらいの大きさの蜥蜴が表れた。
傘を閉じたまま武器にする。普通の傘ならば一回叩いたらへし折れて使い物にならないだろうが、静也の傘は異界の傘である。
性能も能力も計り知れないものである。
その事は静也もわかっている。
だが、静也はこんなにも大きい蜥蜴に面と向かって驚きを通り越して恐怖を感じている。
蜥蜴から発せられる威圧みたいなものを直にうけ、傘を持っている手だけでなく、全身が震えていた。
《スキル<傘の極意>を行使しています。》
あのアナウンスが聞こえた瞬間、蜥蜴が人間の歩くスピードと同じくらいになった。
情けない声を出しながら蜥蜴の頭に傘で上から叩きつけた。
頭はカチ割れそこから橙色の液体が噴き出る。
ドシンと大きな音を立て倒れると蜥蜴は消えた。
そこで安心したのか、静也は思わず尻餅をついた。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
そして、ゆっくりと起き上がる。
傘は歪みもなければ傷ひとつ無い。
本当に頑丈な傘だと実感させられる。
(まだ、狩らないと今日の寝泊まりするところがなくなる。それだけは何としても阻止しないと…)
野宿の経験がないのでそれだけは阻止したいと強い意思を感じる。
魔物や魔獣がたくさん襲ってきた結果、10分あたりに十数匹も討伐することが可能になった。
目標である五匹を大きく上回ることに成功した。
いろいろな魔獣、魔物が襲ってきたことで静也の精神はかなりすり減ったと言えよう。
今の静也の心は村へさっさと帰りたいという気持ちのみ。
しかし、ここグロール魔樹海は人の手がほとんどついていない。道という道はなく方向感覚を失うこと間違いなしだった。
つまり静也の現状は『迷子』であった。
行った道に印を残しておけばという後悔に強く襲われる。
傘一本で何もできないし、方向感覚が狂っているのでむやみやたらに走っても、最悪出れないってこともある。
しかも地形的には平坦で回りを見渡す方法は木に登るかぐらいであったが木登りなんて少年時代のころ以来やってないから無理なのは鼻からわかりきっていた。
再び襲う最悪の状態に静也は静かに絶望した。