ケツの故郷 中編
狂人の遊び
各自情報収集を終え、酒場前に集合する勇者一行。もう日は暮れ始め、辺りの畑仕事を終えた老人達が家に帰ってゆく。
「―――なるほど。少し前に地震で現れた遺跡が怪しいと」
勇者が各自の情報をメモにまとめる。
「よし、じゃあ明日の朝出発しよう」
勇者一行は酒場へと入っていった。
――若い子います――
入り口に貼られた目新しい紙に目が留まる魔法使い。
「こんなの貼ってあったかしら?」
酒場の中は異様な熱気とオッサンで溢れかえっており、席は満席で酒を飲むオッサン達は「待ってました!!」と言わんばかりに入ってきた勇者一行(ほぼ僧侶)をいやらしい目で見つめていた。
「な、なによこの酒場は……。ど田舎だからって皆酒場に集まっちゃってさ。しかも何か視線がいやらしいわよ!」
思わず魔法使いが身体を隠す。
しかしオッサンたちはダメージを受けていない!
「ごめんね! 騒がしい所でさ」
酒場のオヤジが謝りながら勇者たちを店の奥へ案内した。
「ここと、隣の2部屋を使ってくれ」
オヤジは説明もそこそこに、忙しそうに店へ戻っていった。
「何だか大盛況ですね」
「ただ暇なだけよ!酒以外やること無さそうだもんこの村は」
「まぁまぁ……タダで泊めて貰っているからさ!我慢してくれ」
勇者が魔法使いをなだめるも、不服そうな顔の魔法使い。
「え!?タダなんですか?忙しそうですし、何かお手伝いした方が……」
申し訳なさそうな僧侶がお手伝いを申し出た。
「そ、僧侶がそう言うならば少しくらいは手伝おうかしら?」
魔法使いも渋々といった感じで納得する。
「すまない2人とも。きっとオヤジも喜ぶよ!」
頭を下げる勇者。しかし、これは勇者の目論みであった!
勇者は『タダ』と言えば心優しい僧侶が何かしら手伝おうと言う、と思っていたのだ!
僧侶を使って客にバンバンお金を使わせる作戦である。当然酒場のオヤジもグルである!
「ごめんね、手伝って貰っちゃって。これは右の席、これは一番奥ね」
酒場のオヤジが忙しそうに酒を作りながら、僧侶と魔法使いに給仕を頼んだ。女性2人の登場に酒場のボルテージは鰻登り!
「姉ちゃん!こっちで一緒に飲まないか!」
当然ながらオッサン達からのお誘いが雨アラレの様に降り注いだ。
「2人ともタダで良いから、気が向いたらオッサン達と飲んであげて。きっと喜ぶからさ」
「誰がオッサンじゃい!」
酒場のオヤジからのありがたい申し出に目の色が変わる魔法使い。オッサン呼ばわりに場内の客からはブーイングが巻き起こる。
「じゃあ、少しだけ頂こうかしら?」
魔法使いが既に出来上がっているオッサン達の隣に座り、ビールを一気に飲み干した。
「おっ!姉ちゃんイケる口だねぇ!」
場内から歓声が沸き上がる。
最初は躊躇っていた僧侶もオッサン達の押しに負け、オッサン達の隣に座り酒をチビチビ飲み始めた。
「 作戦通り!! 」
勇者とオヤジは例の顔をした。
オッサン達に捕まった2人は次々に酒を勧められる……。しかし、全ては酒場のオヤジの手のひらの上であった。
内心ほくそ笑むオヤジ。いつの間にか隣で皿洗いをさせられていた戦士は酒場の異様な空気に唯々圧されていた。
「勇者遅い!早く運ばんかい!」
2人の代わりに給仕をする勇者。
「何で俺が……!!」
ここまでは良かった……。ここまでは。
ここからが最悪だった……!!
「姉ちゃん可愛いねぇ!オジサンと何かして遊ぼうよ!」
酒で顔を真っ赤にしたオッサン連中が僧侶に手を出そうとした……。僧侶もかなり酔っており、隣では魔法使いは机に脚を上げながらビールを一気飲みしていた。
「じゃあ、キノコじゃんけん しましょう!!」
一瞬頭に?マークが浮かんだオッサン達だが、可愛い僧侶の申し出に満場一致でやることにした。
「勇者さん!こっちへ!!」
手招きする僧侶。給仕の合間に飲んでいた勇者は顔が赤くなっており、明らかににやる気が満ちている……。
「あっ!私もやる~!」
隣で飲んでいた魔法使いもすかさず参加した。
酒場は地獄と化した……。




