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オーダーキーパーは正体を悟らせない

 

 ちなみに魔法のレベルは防衛騎士団の中でこの少女が2位である。それも3位に差をつけて。よくこれで両軍拮抗してんな。作戦とかチームワークの良さで対抗してんのかな。


「待って。この人はどうする気? 彼は防衛騎士団じゃない」


「むろん殺す。貴様が助けた存在を生かす道理はなかろう。恩義というものは時に思わぬ力を生むからな。僅かな反抗子も全て潰すのが我々の統治だ」


 漫画とかだと、こういう場面で逃げ伸びた奴がゆくゆく成長して仇を討つ展開とかあるもんね。徹底されてるなぁ。


「っ!」


 俺の処遇を聞いてか知らぬが、ユイスルがふいを付いて駆け出そうとする。だが、すぐさま雷魔法で生成された槍がいくつも投げおろされて彼女を囲んだ。ボルグは雷魔法の使い手のようだ。


「貴様は防衛騎士団の中では一目置ける存在ではあったが、魔法が使えなければ取るに足りぬ存在だ。そこの男を救ったのが運の尽きだったな」


 ユイスルの片手が光っては消光する。何度やっても魔法は使えない。しかし絶体絶命の最中にあっても彼女は取り乱さなかった。


 きっと、いつでも死する覚悟があったに違いない。これが少女の瞳に感じた薄幸めいたものの正体だろう。 


「……帝都は月の見える方角。森へ逃げて」


 ふいに、少女の押し殺した吐息のような声。


 俺だけ逃げろ、彼女は小声でそう言ったのだ。


 俺は間を空けず、物分かりよく頷いた。この場に居てもこの少女の死期を早めるだけだからだ。俺が逃げたからと言って相手を攪乱させることは無理だが、多少なりとも注意を逸らすことは出来る。それが、俺が彼女にしてやれる精一杯のことだった。


「分かった。ありがとう」


 俺はことさらにボルグへ視線を向け、逃げますよーと言わんばかりにジョギングの速度で森へと向かう。しかしスルーされた。ですよね。


「……私の代わりに、どうか生きて帰って」


 去り際の最後に、そんな言葉が聞こえた。


 残念だが、俺があの少女を救うことはない。これもこの世界の摂理だからだ。彼女がここで死ぬというのは世界が決めたこと。干渉しちゃいけない。


 え? こうなったのは俺のせい? 馬鹿言うな、審判は石ころと同じなんだぞ。それに世界の流れってもんはそう簡単には変わらない。俺が関わろうが関わらまいが、彼女はこうなる運命だったのだ。


 正直心は痛むが、仕方ない。俺は正義のヒーローにはなれないのだから。


 森に進み、ふと気づくと、梢の隙間から稲妻の塊が見えた。超魔法師の域に達してようやく使える最上位の雷魔法の一つだ。人一人が容易に消し飛ぶレベルの。


 少女はその場に両膝をついたまま、結局動かなかったようだ。


 月光に照らされ、空を見上げた少女の悲壮な表情は綺麗なもので、思わず見入ってしまうほどだった。


「皆、ブーちゃん、ごめん……」


 煌めくしずくが少女の目じりから流れ落ちると同時、一切の躊躇も見せず、龍の姿となった雷が放たれた。


 意を決したように瞑目した少女へ、一直線に天をうねる。俺はそこで視線を外し、背を向ける、



 ──刹那。


 俺は少女に色を見た。


 俺が求めていた目印。俺の代わりに自然的に世界の変化をもたらす、代行者の証。


 まさか、この少女が?



 直後、少女の居た湖のほとりが爆音を伴って破裂した。


 水面に荒々しい波紋が刻まれ、ワンテンポ遅れて空気をつんざく爆風が森の葉を吹き剥がす。


 さらに追って1発、2発、3456789──。いくつもの龍の炎が地を焼き払う。それは殺人というよりは破壊に近かった。


 森が剥げ、湖の縁の形が変わり、やがてボルグが制止の合図を出してようやく一斉攻撃が終わる。


 硝煙が立ち込める地面を見下ろし、魔法の使えない人間が到底生き残れないであろう惨状を確認すると、龍に舞い上がれと鞭撻した。


「光の叛逆者、ユイスル・ハーネットは死せり!! 叫べよ!! クレベリン様のご加護に首を垂れよ!! 皆で軍を鼓舞せん!! 今宵の勝利は、我ら統治軍にあり!!」


 反響するみたいに、残った黒騎士が次々と野太い歓声を上げた。追って、統治軍の勝利を祝福するように高らかに響き渡る龍の咆哮。


 止めとして、ボルグはユイスルの残骸を確認しようと振り返り。


 二度見して、ぴたりと止まった。


「……なに?」


 たぶん、煌々と光る俺のシールドがかっこよかったからだろう。


「……えっ?」


 ボルグとユイスルを初めとして、俺を囲む衆目から疑問符が漏れまくった。


 まったく無傷の俺たち二人が爆心地に立っていたからだ。あー超目立ってる。これはまずい。


 場の雰囲気に流されて、このままボルグと何往復かカッコいい会話の応酬を交わそうかとも思ったが……。


「我の魔法を防いだだと。オルガノ……いや違う。何者だ、貴様──」


「必殺ッ!! ハイパー・ウルトラ・子豚さんの群れッ!!」


  早いところ引き上げたいから止めた!!


 次の瞬間、龍に乗っていた騎士が全員子豚に変わった。もちろんボルグも含めて。


 すまんがドラマを作っている場合じゃない。次。


「必殺その2ッ!! ハイパー・ウルトラ・ベルガーさんの群れッ!!」


 次の瞬間、龍が全員ベルガーという虎っぽい動物に変わった。


 あっけないと感じる他ない、戦闘の終息だった。


 その後、ポト、ポトポトポト、と随分と愛くるしい見た目になった彼らがお尻から地面に落ち、キョトンとした表情で互いが互いを見つめあう。


 しばしの間の後、よだれを垂らしたベルガー達に子豚達がぐるぐると追いまわされ、そのまま森の奥へと消えていった。達者でなー。


 よし終了。ハイ次。


「──ありえない」


 背後の少女を振り返って見る。表情から読み取れる感情は「助けてくれてありがとう。だーいすき」ではなく「何こいつヤバイ」が正しい。


「……だって、ここは魔力が枯渇して魔法は使えないはず。なのにあのライトニング・ドラゴンストライクを防いで、あれだけ広範囲の、それも与変身魔法を?」


 相手を変身させる魔法は結構ハイレベルなのだ。しかも、どれだけ極めても一度に変身させられるのは一人が上限。


 それを、俺は魔法が使えないとされる場所で一度に複数人に対してやった。最上位の魔法を防御した件も含めて、色々と驚くのも無理はない。


 あんまりグロテスクな光景は女の子に見せたくなかったからね。嘘。本音を言うと、無駄に殺戮行為をして巻き戻るのが嫌だった。


 まぁ、今も十分巻き戻りかねない状況にあるのだが。ひとまず先に確認だ。


 俺は少女を見下ろすと、双眼の奥を見据えた。困惑と恐怖に瞳を揺らす少女の喉がこくりと鳴る。


 思った通り、〝色〟は如実に表れていた。やはりだ。この少女が鍵で間違いない。


「あなたは……一体……」


「悪いが、その質問には答えられない」


 だって巻き戻っちゃうので……。今見た記憶を削除、と。


「──っ」


 途端、少女はふらりと身体を揺らし、意識を手放すと俺に抱えられる形でその場に倒れこんだ。ふぅ、これで良しと。


 俺は次いで焼き鳥に近づいて一瞬で蘇生させた。それも欠かさずに催眠をかけながら、つくづく損な役回りだなぁ、とふと夜空を見上げた。


 俺は皆に愛される正義のヒーローにはなれない。


 いや、なってはいけないと言ったほうが正しいだろう。



 ──オーダーキーパーは正体を悟らせない。これも、巻き戻りを起こさないための絶対的な鉄則だからだ。


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