表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

ユイスルという少女

 名前はユイスル・ハーネット。この国の魔法学校で光魔法を学ぶと飛び級かつ首席で卒業し、十五歳と最年少ながら防衛騎士団の先鋭部隊にまで上り詰めたガチエリートである。どれくらい凄いのか、俺はステータスというものを確認出来るので見てみよう。


 ステータス、オープン!


 本来個々の生物の能力はもっとぐっちゃぐちゃに複雑な情報として俺にインプットされているが、ぶっちゃけ分かりにくいので視覚的に分かりやすいのを今作った。どれどれ……身体レベル16、魔法レベル71。うおぉ、これは凄い。身体能力こそ同年代の女を少し上回る程度ではあるが、魔法能力が歳のいった王室魔法師すらも大きく上回るレベルだ。十五歳でこれは凄すぎてビビる。


 156cm/B75/W51/H78とこちらはあんまり優秀ではないみたいだが……それはさておき、交戦中ながら発見した村人Aを助けようとしてくれる心も優しい少女だ。


 交戦中。彼女らはそう、交戦中だった。


 敵はお察しの通り、俺に攻撃してきた邪悪そうな龍騎士の大群である。帝都側はあれを魔女の使いと呼んでおり、邪悪そうな龍騎士側は自身らのことを統治軍と称している。彼らは別に帝都に対する不満を爆発させた反乱軍とかそういうのではなく、卓越した魔法の力を誇示し、世界の征服を目論む分かりやすい悪だ。他国を壊滅させて今度はこのメリエという国に進行したところ、防衛騎士団が思いのほか手強くて膠着状態にあるようである。


 と、情報を頭の中でまとめると、俺はすぱっと頭を切り替えた。


 俺には関係ないからだ。


 悪が何かをしたからといって、別にどうするわけでもない。あくまでそれが世界に対して自然的なものであれば俺が干渉する必要はどこにもない。悪側も、悪を行使するに至るまでに色々と事情を抱えているのだ。それぞれ己の正義を信じて気の済むまで争えばいい。


 俺は正義チームのフォワードではなく、ゴールキーパーでもなく、監督でもなく、審判だ。


 俺にとっての敵はゲームの進行を妨げる存在だけ。


「あっ……」


 その時、声がして振り向いた。

 森の暗がりの中から徐々に月明かりを帯びてきた、アイボリーカラーの髪、申し訳程度に女性用要素のくっ付いた硬派なプレートメイル。


 先ほどのユイスルという少女だった。


 「お?」


 「……良かった、生きてて」


 一度は振り落としたものの、気になって戻ってきたようだ。

 オーダーキーパーは当然どの国の言語も分かる。少女から高いトーンながらも、芯のしっかりしてそうな声から謝罪が漏れた。


 「さっきはごめんなさい。守るべきはずの民にあんなことをしてしまって。怪我は?」


 「あぁ大丈夫大丈夫。なんともねぇからさっきの件は気にしないでくれ。俺の勇ましい股間を見たらびっくりするのも仕方ないさ」


 ちょっと変な間があった。たぶん気のせいじゃない。


 「……。なら、良かった。あなた、名前は?」


 名前……名前ねぇ。この世界にオーダーキーパーとして出現してから初めて名前というものを意識した。


 ま、なんでもいいだろ。前の世界のやつでいいや。


 「名前はハトサブロウだ」


 そこ、なんでちょっと笑った? 俺は気に入っているのだが……。


 「ハトサブロウ、このへんでは聞いたことがない名前……。わたしは防衛騎士団のユイスル・ハーネット。あなた、どうしてあんなところに? 今ここが魔女の使いとの戦線にあるのは知っているはず。騎士以外立ち入っていい場所ではないわ」


 「えぇ、それは知らなかった。俺はちょっとあの湖に用があったんだけど」


 「知らなかった? それで、思い出しの泉に……まさか、あなた」


 察したようである。有名な湖だからな。


 「そう、記憶を探しに来た記憶喪失者。だからあんまり質問しないでくれ。聞かれても名前くらいしか答えられねぇんだ」


 ということにしておけば色々と楽だろう。


 思い出しの泉は、強大な魔王と相打ちとなり記憶を失ったとある勇者が、湖水を飲むことで記憶を取り戻したという逸話の残る有名スポットだ。湖に湛えた魔力が豊富なこともあって、逸話を信じてここを訪れる者が後を絶たない。


 というのが人々の常識。俺が知る限りではそんな事実も力もこの湖にはない。ちなみに魔力ってのは、自治の力もとい魔法を使っていいと上位の存在が定めた場所──これをエリアCと呼ぶ──のことである。本当は魔力なんてものは実在しないが、人々は魔法が使える場所には魔力が宿っていると信じている。魔力が豊富とかいうのもただの気のせいです。オーダーキーパーになるとマジで夢もへったくれもあったもんじゃないよなぁ……。


 「……そう。だからここが戦線なのも知らなかった訳なの」


 「あぁ。話が早くて助かるよ」


 「でも、残念ながらあなたの記憶が戻ることはない。……ここの魔力は、尽きてしまっているから」


 え?


 念のため言っておくが、魔力と思い出しの逸話には一切の関係はない。そもそも思い出しの力なんてないのだから。


 ただ、今少女は妙なことを言った。魔力が尽きた? この世界の仕組み的にそれはありえないんだけど……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ