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子供二人

 目覚めた時、それまであった体の怠さは露と消えていた。

 かといって開放感があるわけではなく、あくまで「元に戻った」というだけだ。

 既に渚慶太の姿はない。

 部屋を出ると、リビングのソファーに横になっている門崎の姿が目に入った。豪快な寝息をたてている。

「酒臭い……」

 テーブルに置かれた空き缶の数は十を超えている。

 母が飲酒する姿は見たことがないし、父は酒が好きかどうかさえ知らない。そんな優斗に飲酒の適量は分からないが、それでも飲み過ぎだということだけは分かる。

「はあ……」

 とりあえず、といった動作で空き缶を集めて部屋の隅に置かれたゴミ箱へと放り込んでいく。優斗がそうする前から袋の中身は半分程が空き缶で埋まっていたが。

(どれだけ飲んでるんだよ……)

 思わず頭の中で愚痴をこぼす。酒を山ほど飲んで、だらしない恰好で寝ているというのは駄目な大人というイメージがある。

「ねえ」

「!!」

 声をかけられた。朝から幽霊が出たと本気で思った。「怪物」がいるのであれば幽霊がいたとしても不思議ではあるまい。

 振り返れば互いの息まで感じ取れる位置に立っていたのは幽霊ではなくサレナであった。もっとも現実離れしている、と言う意味では優斗にとって幽霊とそれほど違いはないのだが。

「な……なに?」

 声をかけられただけで、こうまで驚いてしまったことが情けなくサレナの顔を直視出来ない。だがサレナは優斗のリアクションに何らかの感想は無い。

「渚慶太から伝言。昼までには戻るからそれまでここで待機するようにと」

「そ、そう」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………」

「さ、皐月さんは?」

「橘皐月も外出、鳳明日那と面会しに行くと言っていた」

「そう……なんだ」

 困った。皐月も慶太もいない、響也はしばらく起きそうにない。そして目の前にいる少女はどう見ても自分とコミュニケーションをとろうという気はない。

 宛われた自室に戻れば……と思ったがそれは気が引けた。と言うよりこのマンションの一室はあくまで渚慶太の部屋であり、自分の家ではない。どこにいようと自分が余所者であるという感触から逃れられない。

「皆川優斗」

「へ?」

 名を呼ばれて驚く。と言うよりフルネームで呼ばれるという経験は少ない。通っていた学校でだって「皆川君」とか「皆川」とか、そう言った呼び名で……。

 学校。

 過ぎる。

 あまりにも多くのことがあって忘れかけていた出来事を。

「皆川優斗」

 もう一度、サレナの口が動く。

「……なに?」

「何を怖がっているの?」

「怖が……何言っているのさ」

 不意打ちで声をかけられた時以上の動揺が全身に広がっていく。怖がっている。そうだ。怖いに決まっている。親が怪物によって殺された。その怪物が自分の命を今尚狙っている。この事実に恐怖を覚えない人間などがいるものか。

 だけど。

 多分、サレナが言っていることは違う。

 自分が怖いモノ、それは。

 本当に恐怖を抱いているのは……。

「怖いなら、忘れればいい」

 サレナが告げる。当たり前のように。

「あんな怪物の事……忘れようと思って忘れられるなら、苦労はないよ」

 あえて。サレナの真意、自分の本音から目を逸らして答える。

 が。

「出来る、簡単に」

「え?」

「【霊式術】の派生技の一つ、記憶の封印。対象者がそれを望めば簡単。後遺症もない」

 白く、小さな手。それが優斗の前にかざされる。

「あなたが望めば……」

 その細い五指が頭部に触れる、その間際に。

「やめろよ!」

 力任せに弾いた。

 僅かに赤く腫れた少女の手が目に入り、罪悪感が生まれたのだが、それでも優斗の心中には怒りとも焦りともつかない、不可解な感情だけが埋め尽くされる。

「余計なお世話だ!」

 そう叫びながら、同時に心中で自分の声が問いかける。

『それが本音か?』

『忘れたいんだろう』

『嫌なこと、全部』

『いいじゃないか、忘れてしまえば』

『そうすれば、きっと』

 きっと……何なんだろう。

「どうしたぁ?朝っぱらから」

 優斗の声に反応したのか。冬眠明けの熊の如くゆったりした動作で響也が体を起こす。半分開いていない両の目が少年少女を交互に見やる。

「……もう九時ですよ」

「九時は朝だろうが」

 悪びれる様子もなく答える響也に対する言葉を優斗は持ち得ない。まさしくガキだ、自分の行動をそう断じながら優斗は自分に宛われた部屋へと引っ込んでいく。サレナも同じく、やはり何一つの感情を見せることなく、自室へと戻っていく。


「やれやれ」

 そう呟いて響也は再びソファーに横になる。実際の所、優斗とサレナのやり取りは最初から耳に入っていた。事態の経過を見守っていた、わけでなく単に興味半分で二人の少年少女の話を聞いていたのだが。

(どっちも難儀な性格しているな)

 まずはサレナ。【霊式術】使用者育成機関として発足した『学院』と呼ばれる施設。皐月や、他の幾人かの知り合いを見る限り「戦う人材」を育成する場としては、人道的で真っ当とも言える。慶太は「偽善の塊」と言って憚らないが、世界を彼方此方回って、ロクでもない大人のロクでもない思想、思考に振り回された子供を見ている響也としては、偽善であろうと何であろうとマシと思う。

 それでも「組織」の一員になるため育てられた子供達は、一定の規律を持って動いている。

 だが今、サレナは明らかな命令違反を犯そうとしていた。

 優斗の記憶封印、それは確かに実行可能ではあるが許可は下りていない。少なくとも今回の一件が終わるまでは。

 サレナとは真っ当に話していないし、その人となりは分からないが、それでも命令に従順で優等生な少女という印象があったのだが。

 そして皆川優斗。

 こちらも輪をかけて難儀な性格をしている。

 両親の死、それに連なる【魔獣】の存在、【霊式術】の認識。前者はともかく、後者に関してはハッキリ言って、忘れてしまった方がよいことばかりだ。少なくとも、あの少年は日常が似合う。平和な世界こそ彼の居場所で、それは自覚しているはずだろうに。その安寧を拒み、尚、異端の場に立とうとしている。

 何故なのだろう。

 興味が沸いてきた。

 皐月は優斗に対しては好意的……と言うよりはやや甘い見通しをしている。今日、明日那に会いに行ったのはサレナの件だろう。役割分担というわけではないが、とすれば自分は優斗の件について少し調べてみるとするか。

 完全なるじゃじゃ馬根性であり、どんな事実であろうと任務に代わりはないが、それでも護るべき対象について知りたいというのは当然の感情だ。

 そんな言い訳を思考しつつ、響也は大きな欠伸をした。


 昨日といい今日といい、食事を邪魔されてしまうと言うのは腹立たしいと言うよりは、綾を付けられた気分になってしまう。

 だがその相手が渚慶太ではなく、明日那にとっては「お気に入り」と言える皐月であれば、手にしていた箸を置き、彼女の分の飲み物と茶菓子を用意し、最初から彼女の顔を見て話す気にもなるというモノだ。

「で、やっぱり聞きたいのはサレナのことかい?」

 問いかけると皐月はバツの悪そうな、生真面目な彼女が自分の行動の正しさを疑う時に見せる顔をしていて、自分の疑問が当たっていることを確信する。

「まあ、無理もないさ。あの子のこと、聞いているんだろう?」

「はい……その、噂ですが」

「事実としては間違っていないよ、その噂」

 そうして明日那は手元にある書類を皐月に渡す。

「四ヶ月前にあの子は『学院』の訓練を終え、本人の希望もあって戦士の認定を受けた。卒業前からあの子の噂は各組織に知れ渡っていてね。競争率はかなり高かったよ」

「はあ……」

「最初にあの子が所属していた組織は『皇戦士団』だった」

「規模に関しては私たちよりも大規模な、戦士団ですよね」

「ああ。私たち以上に戦闘に特化して、さらに面々も武闘派が多いね」

「そう言えば私も熱心にスカウトされました」

「まあ、君はあいつにお熱だったからね、有り難いことにうち以外は眼中になかったみたいだけど」

「そうですね……いや、慶太は関係ないですよ!!」

「ん?私は君の前で【魔獣】を見事に打ち倒して、君の心を奪い取った渚慶太の話なんかしていないよ?」

「明日那さん!!」

「うんうん、怒った顔も可愛らしいね」

 そう言うと益々皐月は膨れっ面になる。明日那から見れば舐め回したいくらいに可愛らしいが、皐月自身は自分の容姿に大いに不満があるようだ。その大きな理由の一つが、慶太の好みから外れているから……と彼女自身が思い込んでいるためである。

 慶太の趣味、見かけがどんなに彼の望むようになろうと意味がないことを、皐月だって分かっているだろうに。

「それで……この資料を見ると……その、何て言うか」

 明日那との間に書類を挟みながら話を戻す。

「別段、サレナが何かのミスをしているようには思えないんですが……」

「ああ、そうだよ」

 あっさりと肯定したのが意外だったのか、皐月が「え?」と惚けた声を出す。

「『皇』から私たちが見習わないといけないのは、その戦略レベルの高さだ。十の力を持つ戦士が二人で二倍ではなく二乗、三人であれば三倍でなく三乗というようにチームプレイで戦士の力を最大限に活かし、魔を狩る。そんな中であの子が組んだチームが三度連続で壊滅した。ただ一人、あの子だけを残して」

「だけど、これは……!」

「そうだよ。戦術にも間違いはない。サレナにも他の戦士にもミスや油断はない。ただタイミングの悪さというか、不運が幾つも重なり、その結果を招いた。結果として付けられた字が『死神』だ。捻りもセンスもないね」

「その子が何で、うちに?」

「私が引き抜いたんだよ。三度目の任務の後は『皇』もあの子を持て余していて、うちとしても朱鷺也さんが休暇を申し出ていたからね。それにもともとうちは『問題児』の集まりだから」

「そうでしたね、そう言えば……」

「君くらいだよ、立候補してうちに入ってきてくれたのは」

 ニヤニヤと笑う明日那。

「じゃあ……何でサレナを慶太の下に付けたんですか?」

「適材適所、さ。もしあいつが戻ってこなかったら私か雅人さんが見ることになっただろうけど、まあ運が良い」

「運が良い、ですか?」

「サレナにとってね。なあ皐月、君の中で死神ってどんなイメージがある?」

 そう言われて皐月が脳に描いたのは、骸骨のお面に黒いぼろきれの様なマントに身を包み、身の丈ほどの鎌を持った……何ともテンプレートな姿だった。

「で、その死神は慶太に勝てそうかい?」

「……無理ですね」

 皐月の頭に浮かんだのは『死神』の鎌を圧し折り、馬乗りになって『死神』の顔面をお面ごと殴り続ける慶太の姿だった。

「どうだい、自分のジンクスを間違いなく打ち破ってくれるだろう人間が上司だ。うん、我ながら素晴らしい采配だ」

「……随分、慶太のことを信頼していますね」

「慶太じゃないよ、慶太の力さ」

 そうして一呼吸、間をおき。

「世界を滅ぼす災厄如きは倒してくれるだろう程度には、信頼しているよ」

 明日那の言葉には邪気があるが、皐月はそれに対して何も言うことはなかった。


「おい優斗、サレナ、飯だぞ」

 そんな慶太の声に呼び出され、渋々と部屋を出て来た優斗の前に出されたのは「特盛り」と表記されたカップ麺であった。サレナも同じようにリビングに出て来たが、こちらは相変わらず無表情だった。

「…………」

「何だよ、その顔。俺が料理出来ると思っていたのか?」

「いえ、別に」

「……皐月も門崎も出かけているんだ。これで我慢しろ」

「別に何も言っていませんよ……」

「いいから食え」

 促されて麺を啜る。無論だが会話が弾むわけもない。優斗としてもさっさと食べ終えて部屋に戻りたかったのだが。

「今日はお前に【霊式術】の使い方を実地で教える。どうせ吐くだろうが、腹は膨らませておけ。体力勝負だからな」

 という慶太の言葉に箸を止めた。

「使い方を……実地で?」

 背中を辿る冷たい感触。

 【霊式術】。怪物と戦うために培われた術。

 つまり実地とは。

「止めた方が良い」

 サレナの何かを含むような口調。いや、含んでいるのだと優斗は察した。

「貴方には無理」

 同じく箸を止めてそう言ったのはサレナだった。

「どうして、分かるんですか」

 口から出たのは自分でも思わなかった刺々しい声。分かっている。サレナに対してこうも攻撃的になってしまう理由。

 サレナは分かっているのだ。恐るべき直感で。自分の今の心情を。本音を。何故戦おうとするのか。その理由を。だから優斗はそれを口にしてほしくなくて、ただひたすらに敵意を剥き出しにしている。

「飯の最中に喧嘩をすんじゃねえ」

 静かに。だがはっきりとした口調で慶太が割って入る。

「サレナ。俺はお前の考えに興味はねえ。だが優斗に【霊式術】を教えることは俺が決めて、明日那の許可も取った。お前がどうこう言う権利はねえんだ」

「……」

「優斗」

「はい」

「飯食ったら、屋上に来い」

 それだけ言って慶太はカップ麺の汁を啜り終える。空いた容器をゴミ箱に放り投げると、もう優斗には見向きもせずに立ち上がろうとする。そして優斗はサレナとの沈黙になるのが嫌で、掻き込むように食事を食べ終える。

「大丈夫です、もう行けます」 

「そうか」

 それだけ答える慶太の後を追う。後ろからサレナも付いてきているが無視した。

 屋上へは階段を使った。立ち入れないように鍵がかけられていたのだが、既に用意済みだったらしく慶太が鍵を使い開けた。

 僅かな雲を除けば見事なまでの晴天。夏の心地良い風が吹く。

「それで、だ」

 慶太と向き合う。

 その話し方は何処までも気怠げで、野生の虎を彷彿させる。

「昨日のことは覚えているな」

「……はい」

「あれは、あくまでお前が【霊式術】を使えるように、【霊核】の形を変えただけだ。使えるだけの器を備えただけで、実際に使いこなすには訓練と経験がいる。それを今から行う」

 決して、目を逸らしていない。

 瞬きすらしていない。

 なのに。

 慶太の姿が消えた。

 消えたように見えた。

「!!」

 背後にいた。自分の正面にいたはずの慶太が、ほんの一瞬で。

「え……な……」

「鍛え抜けば、これ位早く動けるようにもなる」

 嘘だ。絶対嘘だ。

「じゃあ、優斗、訓練を始めるぞ」

「……何をするんですか」

「今みたいなのは無しにしてやる、お前は何をしても良いから、俺に触ってみろ」

「……それって」

「鬼ごっこだな」

 慶太はそう言った。


 明日那との会談を終え、施設内で訓練を積んでいたらあっという間に日が暮れた。

 もうすぐ夜だ。

 皐月にとって、あるいは他の【龍人】にとっても、夜というのは特別な時間帯だ。

 人ならざるモノの動きが盛んとなる時間帯。

 慶太であれば「狩りの時間」とでも言うのだろうが。

 明日那の話によると、この周辺……慶太が住まう地域一帯は概ね【魔獣】の被害は極端に少ないそうだ。本来であれば数十名単位の戦士を投入して維持出来る戦果を慶太がなし得ているという。

「だけどそれが最近、覆されてきている」

 明日那の言葉を思い出す。

 慶太が戦士として活動を開始して十年近くなる。

 その間に彼がなし得た事は……正しく人類存続に貢献した、偉業と言っても良い。

 彼が倒した魔の長、【魔王】。人類を食事とする存在、その支配者。

 その何れもが「その気になれば人類を滅ぼせる」存在であると言われる。何せ【魔王】が自在に増やすことのできる使い走りである【魔獣】でさえ通常の火器では殺すことが出来ない。それこそ軍隊が使用するような重火器を用いない限りは。そんな【魔獣】が万単位で襲いかかってくるよりも、【魔王】一体のほうが余程の驚異であると言われている。皐月自身は【魔王】と相対したことはないが、彼らの行ってきた惨劇を見返せば頷けるモノだ。

 その【魔王】を、慶太は三体倒している。

 あまりにも圧倒的な力で。

 人類に仇成す天敵を。

 慶太は言った。

 全ての【魔王】は自分が倒す、と。

 その理由も。

 だから今回、優斗の護衛に慶太は乗り気なのだろう。

 実際は分からないが、現在、【魔王】の行動は小康状態にある。それが慶太を恐れて故か、あるいは【魔王】の「気紛れ」によるものか分からないが、少なくとも最後に【魔王】の存在が確認されてから二年が過ぎようとしている。

 だから今回、朱鷺也を殺した【魔獣】の背後、そこにいる【魔王】の影。

 狩人にとって、狙うべき獲物の存在を知れることは喜びなのだろうか。

「嬢ちゃん」

 マンション近くの商店街。声をかけてきたのは響也だった。

「響也さん、出かけていたんですか?」

「ああ。慶太が戻ってきてから入れ違いにな」

「……何かあったんですか?」

 皐月が怪訝そうな顔になったのは無理もない。響也の顔。飄々とした彼にしては珍しく沈んだ顔だったからだ。

「まあ、ちょっとな」

 言葉を濁す。ますます珍しい。

「それより嬢ちゃん、明日那さんとこ行ったんだろ?収穫はあったか?」

「収穫って……別に、大したことじゃないです。後で話しますけど」

「ああ。そうだな、俺も少しばかり話すことがある。優斗のことでな」

 一体なんだろうか。出来ればこの場で聞きたいと思いつつ部屋に戻る。

 ソファーに座り、二人を出迎えた慶太の顔は妙に険しい。いや、慶太が不機嫌そうというか仏頂面なのは珍しいことではない。だがその中でも、今日のような戸惑いを含めた仏頂面というのは珍しいのだ。

「あれ?優斗君とサレナは?」

「どっちも部屋だ、優斗は寝てるんだろ、サレナは知らねえ」

「……もう夜だけど、まさか寝っぱなし!?」

「単なる疲労だ」

「疲労?」

「少しばかり訓練を積んでやった。その結果だ」

「訓練って……何やったのよ?」

「鬼ごっこだ」

「ああ。成る程ね」

 皐月も幼い頃「学院」で行ったモノだ。体に力を覚えさせるには、実際に使ってみるのが一番だ。そのための遊びと言って差し支えないが。

「それで、どのくらいの時間やったの?」

「昼過ぎからだから、五時間程度か」

「ふうん…五時か…五時間っ!?」

「ああ。多分、それくらいだ」

「む……無茶苦茶じゃない!サレナはともかく優斗君が【霊式術】を使うのは今日が初めてなんでしょ!」

「ああ。意外といい根性していやがる。ぶっ倒れるまで、一度だって弱音は吐かなかった。ゲロは何度か吐いていたけどな」

「~~~~~!!」

 そんな評価はどうでもいい。飛び込むようにして優斗の部屋へ。ベッドに寝かされた優斗は昨日のサレナと同じく、ほほを紅潮させ、苦しそうにうなされている。反動だ、それもとびきりの。

「け、い、た~~~~!」

「何だよ」

「どういうつもりよ!優斗君、ボロボロじゃない!」

「そのつもりでやったんだよ」

「あんたね!」

「まあまあ、お嬢ちゃん、どうどう」

「やめてください!私は子供じゃありません!」

 ポンポンと頭を叩いてくる響也の手を振り払う。

「で、実際どうなんだ、あのお坊ちゃんは?」

「どう、ってなんだよ?」

「戦えそうか?」

「無理だな」

 即答。

「【霊式術】は使えても、あいつには才能がない。戦う人間に必要な才能がまるでない。仮に力を持って、相手が格下の【魔獣】でも、相当に手古摺るだろうよ」

「じゃあ、訓練は今日限りで終わりか?」

「いいや。訓練自体は続ける。戦えなくても、逃げるくらいは出来なきゃ困る。何よりあいつは逃げようとしてねえ、てことは戦えるってことだ」

 それでも。慶太の顔にある不機嫌な様子は隠しようがなかった。


 優斗は、その会話を聞いていた。

 才能がない。

 その一言に、ショックを受けなかったかと言えばそうではない。

 ただ、ただ、思う。

 力がほしい。

 だって僕は。

 生き残ってしまったのだから。

 あの時も、今も。

 だから、この命はきっと、何か意味のあることに使わなきゃ……いけないんだ。

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