プロローグⅣ
後に師となる男が、何故その日、自分を彼女の元へ案内したのか。
それは今もって分からないし、それを聞く機会は永遠に失われてしまった。
だがその日、打ち拉がれる彼の部屋を訪れてきた時、その口から語られる事実を知らされた時、彼は生まれて初めて懇願した。心の底から。地面に頭を擦りつけ、必死に頼んだ。
「最初からそのつもりだ」
男はそう応え、彼をある部屋に連れて行く。
眩しい白さに包まれた部屋。
手狭と言える部屋にあるのは簡素な机に幾つかの書籍が入った小さな本棚、そして部屋の主がおそらくは一日の大半をその上で過ごすだろうベッド。
彼が部屋に入った時、少女は驚き、即座にシーツを被った。
初対面でも自分を受け入れてくれた少女が見せる、拒絶の仕草だった。
「出て行って!」
少女が声を上げる姿を初めて見た。
「お願い、出て行って!」
掠れるような声、泣いていることが分かった。
ああ、そうか。彼はすぐに理解した。
あの日の自分と一緒だ。本当の自分を隠していて、それを知られまいと「気に入られるであろう自分」を必死に演じて。似たもの同士だったのだ、自分達は。
ベッドに歩み寄り、強引に……と言えるほどの力は使っていないが……シーツをはぎ取った。薄緑色の布一枚の簡素な衣服は、病人用の服なのだろうが、それはまるで囚人服のようにも見えて、そしてその印象は的確だった。
彼女は囚われている、抗えない運命の鎖に繋がれている。
掴んだ腕は細く……骨の上に薄い皮一枚、それくらいに細くて、顔も彼の記憶にあるそれよりも窶れていた。
だけど。
その綺麗な瞳は。
自分を見てくれた瞳は決して変わらない。
「何だよ、本物の方が美人じゃないか」
涙を浮かべる少女に、彼はそう言った。自分の心からの言葉を。会えて良かったという気持ちと共に。