プロローグⅡ
生まれて初めて他人に興味を持った。
それまで自分自身に対してさえ興味の無かった彼にとって、それは人生観がひっくり返るほどの出来事と言って相違ない。
翌日。初めて出会った場所で、同じ時間。待ち合わせたわけでもないのに彼女はそこにいて、彼もそこに顔を見せた。
彼女が歌っていなかったのが残念ではあったけど、隣り合わせに腰掛けて話をした。話すと言ってもそれは彼女からの問いかけに彼が応えるだけだったが。
生まれて初めて、この人だけには嫌われたくないという感情を持った。
嘘を付いた。
ロクでもない自分の素性を知ってほしくなかった。
自分がこれまで他者を傷つけた人間であることを、この弱く儚げな少女に知られたくなかったから。
「嘘つき」
自分の虚言はなかなかに上手だと思っていたから、三十分ほど話した後、彼女が僅かに微笑みながら一言告げてきた時、冗談無しで心臓が止まるかと思った。
嘘を見抜かれたことよりも、彼女に嘘を付いたコトへの罪悪感を認識してショック死してしまいそうだった。
「大丈夫だから」
優しい笑みだった。今まで誰一人とて、彼に向けることの無かった慈愛に満ち溢れた笑みだった。
「貴方は優しい人だよ。嫌いになんてならないから」
「何で……分かるんだよ」
自分のことを好きになってくれる人なんていない、ましてやこんなにも純粋な少女が自分を好いてくれるわけ無い。きっと嫌いになる。
「だって、あなたは優しいから」
当たり前のことを、当たり前に言うように少女は告げた。
「俺は優しくなんてない」
「そんなことないよ。貴方は優しいから、涙を流せるんだよ」
やはり当たり前のことを口にするように、穏やかな口調で、少女はそう言った。