勇者トオル
俺の名前は赤羽達。
15歳の高校一年生だ。
ここで普通の高校生とか言う奴もいるけれど、俺は違うな。
俺はリア充だ。
これを聞いて気分を害したものがいるのなら謝ろう。
だが俺は、勉強は学年トップレベルだし部活のテニスでは個人シングルスでインターハイ出場したし、スクールカーストは上位で、多くの先生、同級生、先輩方と信頼を得ている。
その上俺は幼馴染の女の子と付き合っている。
「トー君、ずっと前から好きでした、付き合ってください」
彼女ーー瀬藤鈴音は俺たちが高校に上がる前の春に、俺にそう言ってきた。
彼女とは幼稚園、小学校、中学校と奇跡的にずっと同じクラスで、今の高一C組というのも同じだ。
彼女のことは俺も少なからず好意を持っていたため、頷いて了承した。
それからは毎日が楽しかったんだと思う。
クラスではみんなが僕を取り囲んで、部活では気持ちいい汗をかき、家に帰れば鈴音とのチャットでの会話ができる。
クラスでぼっちな人からの嫉妬の目線が痛かったが、俺の方から話しかけるとすぐ仲良くなった。
そんなある日曜日。
「ねえ、トー君、楽しかったね」
「うん、そうだね」
俺は鈴音と一緒に遊園地に行っていた。
別にデートではない。
他のクラスの奴らとも一緒で、全員合わせて5、6人だったからだ。
別に男もいるからハーレムっていうわけではないよ?
それに、今は鈴音でお腹いっぱいだ。
帰り道、歩いていると何気なく鈴音からそんなことを言われ、相槌を打ちながら彼女の頭をナデナデする。
「うがー!またそうやって子供扱いするー!」
「嫌かい?」
「嫌、じゃあ……ない、けど……」
目線を外しながら鈴音は顔が少し赤く染まる。
この赤みが夕日の光によるものかもしれないが、鈴音が照れているのは言わずもがなだろう。
そしてそろそろ彼女の家との分かれ道。
「そろそろお別れだね」
「………送っていくよ」
「え?」
「だから、スズを家まで送るって言ってるんだよ」
少し恥ずかしいため口調が強くなってしまったが、鈴音はそれを悟ったのだろう、少し笑った。
「クスクス、分かった。じゃあ紳士なトー君に家まで送る権利を授けよう」
「ありがとうございます、お嬢様」
彼女は子供扱いすると結構怒る。
でも行動や発言には子供っぽいところが存在し、それに付き合うと結構喜ぶ。
まぁ、そこがまた鈴音の可愛いところなんだけれどね。
そんな感じで歩いていると……
「おうおう、可愛い彼女連れてんなぁ、この優男は」
「ヒッヒッ、その通りだぜ」
目の前から男が二人組でやってきた。
金髪でピアス、ロックなネックレスなどをつけたいかにも悪い大人だ。
「なぁ、そんな優男放っておいて俺らと気持ちいい事しようぜ」
いやらしい目つきの男が鈴音を舐め回すように見つめる。
鈴音は胸はまな板だが、スリムなウエスト、プルンとした唇にパッチリとした二重の目、そして少し癖っ毛でアホ毛がぴょんと重力を無視して立っている。
まぁ要するに美少女だ。
ちなみに身長は俺より10センチほど小さい。
そんな鈴音の俺と握っている手がプルプルと震えだす。
怖いのだろう。
俺もそうだが、ここでカッコつけなくては漢ではない。
「すいません、俺の彼女に何か用ですか?」
「ああん⁉︎粋がってんじゃねぇぞクソガキが!俺らはその子にしか興味ねぇんだよ!おめえはどっか行っとけ!」
「ひぃう……」
鈴音がビクッとし、怖がっている声を上げる。
幸い、来た道は誰も……!
「おう、どうしたぁ?オメエら?」
「あ、聞いてくださいよアニキィ、これからこの可愛い子パコろうって思ってナンパしたんすけど、この優男が頑なに譲ろうとしねぇもんで」
ガタイが良い大男が来た道からやってくる。
くそ、囲まれたか……
「スズ……………」
「トー君……」
「ごめん」
「えっ?」
最後にそう言い残し、僕は鈴音の手を離し、離れて行く。
「ギャハハハ、彼氏に捨てられちまったなあ、可愛子ちゃん?」
「おいオメェら、俺にもヤらせてくれんだろうな?」
「もちろんっすよアニキ、アニキが先でさぁ」
三人の男が歓喜に震える。
それに対して鈴音は、ぽかんと口を開けて僕を見つめる。
どんどん足を早めて行き……
俺は振り返りもせずに走り出した。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
自分でも取り返しのつかないことをしたと思っている。
でも俺だって怖いんだよ。
自分の身を守って何が悪い?
そうだ。
俺は悪くない。
これから同じ過ちを犯さないようにすれば良いじゃないか。
俺は走り続ける。
気がついたら人通りの多いところまでやって来た。
「き、きみ!」
サラリーマンのおじさんが声をかけるが俺は気にしない。
俺は駆け抜け……
横を向いたら、トラックがあった。
瞬間、体に一瞬の激痛が走り……無くなった。
あぁ、多分俺は死ぬのだろう。
トラックに跳ねられて痛みが無くなる訳がない。
多分、俺の神経はもうやられたんだと思う。
あぁ、これが罰か。
鈴音はこれで許してくれるのだろうか。
人々は叫んだりしているようだが、俺の目はもう開かない。
死ぬときって聴覚が一番最後まで残るっていうけど、本当だったんだな。
ははっ。
女を見捨てた男性、死亡。
絶対こうとは書かれるはずが無いが、もしこんな報道がされたら笑ってしまう。
鈴音、本当に悪かった。
最期の最後まで、俺は懺悔し続ける。
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「………ん?」
「いらっしゃいませぇ、赤羽達さん」
なんともふざけた甘々な口調が背後から発せられ、俺は振り返った。
俺の前には、美しい銀髪で顔が整った美女が立っていた。
「突然ですが貴方は死にました」
「………トラックに跳ねられて死にましたよね」
「おや、冷静ですね」
俺は地獄に行くのだろうか。
当然だ。
女の子を見捨てたのだ。
当たり前だろう。
「そこで、悲しくも童貞で死んでしまった貴方に提案があります」
「ど、童貞違うし!」
一度だけ、鈴音から誘って来たこともあった。
でも、俺はヘタレてスルーしてしまった。
鈴音も多分初めてなのだろうか。
その初めてが今ではもう奪われてしまったかもしれないが。
「異世界で、勇者をしてみませんか?」
「……へ?」
そのあと、簡潔な説明を貰った。
曰く、これから行く異世界というのは魔王が君臨し、人類が生存の危機に陥っているそうだ。
曰く、『勇者』は人間にとっての最終兵器のようなもので、魔王を倒す最終手段だそうだ。
曰く、『勇者パーティ』には『騎士王』、『大魔導師』、『聖女』が所属する予定で、全員が女の子だそうだ。
そこで俺は考える。
これは、もしや神が与えたチャンスなのでは無いか、と。
鈴音を見捨てた俺にもう一度だけ女の子を見捨てるかどうかを試しているのではないか。
ならば俺は問う。
「『勇者』は、彼女達を守れるのか?」
『女神アトナ』はこう答える。
「ええ、全てはあなた次第ですが」
俺は決心した。
必ず、異世界では女の子の捨てたりしない。
傷付けたりはしない。
そう誓い、俺は旅立った。
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「彼は行ったようだねぇ」
先程までトオルがいた場所に、女の人が立っていた。
髪は黒髪。
目はネイビーブルー。
どこかほわんとした雰囲気を出している。
「ええ、行かれましたね」
女神アトナは、黒髪の女にそう答える。
黒髪の女と女神アトナは、髪と目の色以外はまるで瓜二つだ。
「そんなことより姉さん、地球の『午前の紅茶』と『カントリーマザー』があるのですが、いかがでしょうか」
「おお!いいね!ボク、そのしっとりしたクッキー好きなんだよね」
どこからとなくテーブルとイス、そして紅茶とクッキーを出したアトナに、黒髪美女は喜ぶ。
「それにしても、これで良かったのですか?これでは、彼が……」
「可愛い子には旅をさせろってねぇ。まぁ、どのみちあの子は幸せになるだろうし」
「ふふ、あの子のこと、私も好きなのですが、いただいてもよろしいですか?」
「だ、ダメだよダメ!あの子にはとてつもないほどのマザコンになって貰わないと!」
「その母親は、もう死んでいる設定なのですが」
「事実はいつか伝えれば良いんだよ」
二人の会話の中、もう一人の少女がやってくる。
「ああ、来た来た」
「いらっしゃいませ、瀬藤鈴音さん」
鈴音は、突然の事態に何があったのか分からないでいた。
「あれ、えっと、私……」
急におどおどしだす鈴音。
「君は彼氏に捨てられて輪姦されて死んでたねえ」
「ええ、それも酷い状態で」
そう言われて、急にキッと冷たくなる鈴音の目線。
「アイツは、私の彼氏なんかじゃありません!」
「でも、告白したのは君の方じゃないかい?」
「うっ……」
そこを突かれると痛い、そう少女は思う。
「そこで、貴女に良い話があるのだけれど」
「復讐もできて、なおかつ絶対に裏切らない人を紹介しよう」
「まぁそのその代わりに、貴女は少し壊れてしまうかも知れませんが」
交互に言ったアトナと黒髪美女。
そこでもう一つイスが出され、少女を誘う。
「まぁ、まずは座って下さい。話はその後です」
促され、よく分からずに席に座る鈴音。
「あの、あなた方は一体……」
そう、鈴音は問う。
そして、二人はこう答えた。
「申し遅れました。私、女神アトナと申します」
アトナは頭を少し下げ自己紹介を行う。
そして黒髪美女も、続けて自己紹介をする。
「ボクは魔神アルナ。よろしくね」
そのニカッとした笑みは、とても魔神とは思えないものである。
作者「次回からやっとヴィル視点に戻ります」
達「ところで、『午前の紅茶』とか『カントリーマザー』って何?」
作者「察せ」
鈴音「私はミルクティーが好きなんだよねー」
アトナ「私はレモンティーが好きですが」
アルナ「いや、やっぱストレートでしょ」
達「最近では新しく『アサイーヨーグルト』があるみたいだけど」
作者「ああ、あれ?美味しかったよ普通に」
鈴音「ちなみにクッキーの方はバニラですっ!」
アトナ「そうですか?私はココアが好きですよ」
アルナ「ボクもー」
作者「俺はあれだ。苺が好きだな」
達「俺は宇治抹茶とかだね」
皆さんはいかがでしょうか?