騎士王フィナ・2
あのあと、王国からの使者が僕らの屋敷にやって来た。
曰く、フィナは『職業鑑定』の結果が『騎士王』であったこと。
そして『騎士王』は、王国の管理下に置かれ、いくら婚約者でも、いくら侯爵家長男でも面会には多くの手続きと時間を要するものであり、同棲状態も解除された。
のちに、彼女の私物を部屋から持ち出す為に人がやってくるらしい。
ここまで聞いて僕は堪忍袋の緒が切れた。
「フィナは、物じゃない!」
だが、この意見は次の言葉によってかき消されることとなる。
「お言葉ですが、フィナ様も了承されたことですので」
それに対してモーナとアイナは表情を歪ませた。
モーナはキッと怒りを露わに、アイナはどこか寂しそうに。
モーナにとって、僕から自分の意思で離れて行ったことは、それがいかなる理由においても、僕らに対する『裏切り』だと認識しているのだろう。
そしてアイナにとっては、今まで当たり前のように居た姉と殆ど変わらない存在の人が突然に居なくなったことにより、不安感と寂しさを感じているのだろう。
「フィナが僕らの元に戻ってくるのは?」
「魔王を討伐し、世間が安定してからてしょうかね」
「それはいつになりますか?」
「実は『勇者』に続いて彼女は二番目なのです。遅かれ早かれ『大魔導師』と『聖女』はいずれ見つかるはずですが……それに訓練期間もございますし……早くて二、三年。ですがもし『大魔導師』と『聖女』が見当たらない場合や、『魔王』討伐に失敗してしまった場合は、恐らく……」
「くっ……」
僕は唇を噛む。
フィナとはまず会って、話をしたい。
恐らくその心情はモーナも同じなのだろう。
「では私は、この国の王女として、フィナ様にお話があります」
モーナがいてもたっても居られずに立ち上がる。
「いけません。いくらモーナ様でも、フィナ様は今やその御立場ならば国王様と同等かそれ以上。それに対しモーナ様は王国の第五王女。王位継承権でも順位は低い上、そもそも先ず貴女は放棄なされた。これが王位を争う第一王子や第二王子、第一王女などなら多少の手続きは必要ですが面会は可能だったでしょう」
「『騎士王』って、そんなに偉いんですか………」
沈黙をかましていたアイナが口を開いた。
その口振りは、まるで憐れなものを見るような目であったが、芯がしっかりしていることを僕は見抜く。
アイナは、強いな。
思わずそう思ってしまう。
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「俺の名前は『トオル・アカバネ』。よろしくね、フィナ」
銀色の鎧に身を纏った『勇者』が、私に対し微笑みをかます。
そのオーラは、まさしく通常の人間では持っていなくて、選ばれた人間であるものだと分かった。
黒髪黒眼、この国ではあまり見ないような組み合わせだが、顔立ちは整い、足が長く背も高い。
思わず、ヴィルと比べてしまった。
ヴィルは、黒髪なのは良いが目が紅く、中肉中背だ。
顔立ちも整ってはいるがトオルに比べたら……って、なんてこと考えているの!フィナ・シェルティン!
私はヴィル・カールフィンデンの婚約者よ!
それに裏切ったならば、モーナが黙っちゃいないはず……
「うむ。それではフィナよ。トオルと共に、お主の部屋へと行くがよい。すまんが訓練は明日からだ。今日は気持ちの整理を整えた上、それ相応の覚悟をしてもらう。いいな?」
「……はい」
私は、胸に少なからずしこりを残し、言われるがままに部屋へと案内されていった……
「………」
トオルは、そんなフィナの後ろ姿をずっと見ていた。
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「フィナ!こっちだ!」
「分かってる!」
私は、トオルと共に、魔物の討伐にやってきた。
討伐対象は、全長8メートルの、『ケルベロス』。
三つの頭が特徴的な犬型のモンスターだ。
犬型モンスターと聞いて強いとは想像し難いが、この個体の脅威ランクはB。
都市一つなら余裕で焼き払うくらいの強さを持ち得ている。
脅威ランクとは、魔物やその他人類の脅威となる存在にそれぞれランク付けしたものとなっている。
その概要が、以下だ。
脅威ランクF……戦闘経験なしの男の大人一人で倒せるレベル。例:スライム、ゴブリン(一体)
脅威ランクE……戦闘経験なしの男の大人五人がかりで倒せるレベル。例:オーク、ゾンビ
脅威ランクD……戦闘技術を持った者が一から複数人がかりで倒せるレベル。例:ゴブリン(集団)、オーガ
脅威ランクC……小規模な村を滅ぼせるレベル。例:ゴーレム、ミノタウロス
脅威ランクB……都市一つを崩壊まで及ぼすレベル。例:下、中級ドラゴン、下、中級魔族
脅威ランクA……国家一つを壊滅まで及ぼすレベル。例:上級ドラゴン、上級魔族
脅威ランクS……世界を変えることができるほどのレベル。例:神、魔王
基本的に脅威ランクE〜Cを街中にいる『冒険者』なる者たちが討伐し、ランクBを国が討伐隊を結成して倒しに行く。
ランクAは滅多に現れないがもし現れたら逃げるほかあるまい。
ランクSはそもそも限られている。
神様は私たちの味方だし、魔王は魔王城から動かないそうだ。
今、ランクBの魔物と戦っているわけだが、戦闘に参加しているのは私とトオルの二人だけ。
もちろん遠く離れたところに王国騎士団や宮廷魔導師がいるが、今回は実力を試すため、私達だけだとなった。
私はケルベロスの頭を切り落とす。
「よし、まずは一つ!」
束の間の満足感に浸り、私はスキを見せていた。
「フィナ、危ない!!」
「えっ⁉︎きゃぁぁぁぁ!!」
大きく回転したケルベロスの尻尾に弾かれ、私は数十メートル吹っ飛ばされた。
一般人なら即死であろうこのダメージ、『騎士王』となってから、身体能力が飛躍的にアップしていたおかげで、なんとか目立つ傷無しで耐えきった。
「う、うぐ……」
そう思ったが、何故か体が動かなかった。
立とうとしたら、足が動かない。
そしてその足を見てみると……
「う、うそ……」
紫色に腫れていた。
これは単に捻挫をしていただけなのだが、今は戦闘中。
立てない、動けないというのは致命的なものだ。
そして、ケルベロスはそんな私に追い打ちをかけるように突進してきて……
「フィナ!」
トオルが叫ぶ。
だが、ケルベロスの残った二つの頭のうち片方の頭がトオルに向かって魔法弾を放つ。
「くっ…」
トオルは剣で魔法弾を弾く。
だが、気が付いたらケルベロスは既に目の前に迫っていた。
「あ、あぁ……」
ケルベロスの口が大きく開かれる。
それに対して私の目は閉じられる。
時間は長く感じた。
死ぬ寸前は物事がゆっくりと進むというが、それは本当なのかもしれない。
私の目の前に映るのは、走馬灯。
初めて、ヴィルと会ったのは私達が5歳だった頃。
お父様にカールフィンデン領の友人に会いに行くと言われ、挨拶も兼ねて私も連れて行かれた。
そして初めて会った同年代の男の子。
それから、開いた日は使用人の転移魔法でヴィルに会いに行った。
ヴィルは嫌な顔一つせず私を迎えてくれたなぁ。
そして、ヴィルの妹のアイナ。
最初はムスッとしていたが、次第に仲が良くなって行き、今では『姉様』と呼ばれるほどの仲になった。
私達三人はよく一緒に遊んでいた。
そこでとある日、私とヴィルの婚約が決まった。
私は嬉しかったんだと思う。
ヴィルとはこれからも、ずーっと一緒に居られることが。
それからは花嫁修業だがなんだかで、料理をお母様から一通り習った。
『騎士王』となった今ではあまり使わないけれど……
魔王城に乗り込む時はさすがに1日2日じゃ着かないはずなので、その時まで温存している。
私達が12歳の時、私はヴィルの家でお世話になることが決まった。
将来の夫婦同士、更なる親睦を深めるためと、ヴィルとアイナのお母様が言った言葉だ。
どうやら私のお父様とお母様からも了承を得ているようで、すぐさま私の引越しは完遂した。
その後は毎日が楽しかった。
日々見ることのできるヴィル。
途中で、新しくモーナという人物に私は第一夫人の座を譲ることになったが、私は特になんとも思わなかった。
ヴィルと一緒にいることは、これからも変わらない、そう思って居たからだ。
だが今回、『騎士王』になることでヴィルとは離れることになった。
それについて私はとても悔んだ。
でも、正直、私はヴィルと一緒に居た意味なんかあったのだろうか?
もう数刻したら私の体は無残に食い千切られるだろう。
私は薄目で現状を確認すると、目を見開くこととなる。
「フィ……ナ………には、手を出させないっ!」
左腕を噛ませ、私の盾となっている、トオルがいた。
その瞬間、私は悟る。
ヴィルとは、ただの同年代の男ということで一緒に居ていたのであって、私が、本当に恋をしたのは、ここにいる『勇者トオル』であることを。
作者「堕ちたな」ニタァ
ヴィル「その憎たらしい笑みをやめてくれないかな」
フィナ「それにしても、投稿が遅くなったわね」
アイナ「では、今日もう一本投稿するということにしましょう」
ヴィル「ところで、テストはどうだい?」
作者「なんとか。ちょっと物理が心配かなーって感じ」
達「ちなみに地球にいた頃の俺は全教科満点で全国模試でもトップを取ってたぜ」
作者「スペック高過ぎのやつとかどっか行け」
ヴィル「憎んでんねー」