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メイドフィスト……?

朝、ゆっくりと意識を覚醒させ少しずつ目を開く。


「知らない天井だ」


うむ。

流行りそうな言葉だな。

いやまあ、昨晩見てる天井ではあるけれど。


そう思い自嘲にふける。

この様な空虚な朝はまだ慣れない。

ついこの間まで朝起きてみれば布団の中にアイナが僕にしがみついていて、起こしに来たモーナが激怒、最後にフィナがやって来てやれやれとするのが当たり前であった。


大切なものはなくなってから気づくものだ。


そして、宿屋のカーテンを開ける。


太陽がすでに高いところまで登っているということは、お昼かその前であろう。

なかなか長時間寝たおかげで、体は少し楽になった気がする。


僕は部屋に持ち込んだ本を読む。

本のタイトルは『相対性理論』というのだがこれがなかなかに奥深い。

光の速さで進む物の経る時間は止まっているものよりも遅いそうだ。

ふむ。

そもそも今の魔法で光の速さになれるかどうかは謎だが、これが実現したならば凄いことになるのではないか。

そう思い馳せている時が、辛い現実を捨てられる。

これがある意味『博士』としての特権だろう。


そして、次のページを開くと、ソレは入って居た。


三度目だろう。

差出人不明の封筒。

まさかこの宿までやって来るとは思わなかった。

一度目は僕に傷をつけた。

二度目は僕にヒビを入れた。

三度目は……どうなるであろうか?


見たくない。

でも、現実には逆らえない。

いや、この写真はウソなのかもしれない。

アイナが居なくなって一週間。

フィナが四ヶ月、モーナが一ヶ月足らず。

明らかに縮まっている。


気がつくと僕は封筒を開けていた。


中には写真が一枚。

その写真には……




産まれた姿でのアイナ、フィナ、モーナが勇者を取り合う様にして抱きついていた。


三度目のショックはキツイものであった。


慣れることはない、哀しみと絶望感が滝の様に僕を満たす。


「っ⁉︎ヴィル様⁉︎」


気がついたら僕は走り出していた。

部屋の扉を開け、宿屋を飛び出し、王都内を駆け回った。


なんでだよ!

アイナ!

君だけは僕の味方で、二人を連れ戻してくれるって言ってたじゃないか!


僕は手に握る写真を真っ二つに破く。

例えウソだとしても、この様な写真など死んでも見たくはなかった。

なぜなら、三人とも、僕が心から愛した人達だったから。




「はぁ……」


気が付いたら、よく分からない裏路地に来ていた。

日陰で、誰も来ない。

近くに大通りがあり賑やかな声が聞こえるものの、ここには人っ子一人とて気配がない。


僕は宿を飛び出してそろそろ1時間ほどか。

まぁ、名誉侯爵家といっても財産をほとんど領地運営に使っているため、実質貯金などゼロに等しい。

そのためメイドなどの使用人を雇うお金が無く、今回の『博士集会』にもメイド一人しかついて来なかった。

そして、僕個人へのお小遣いも少なく、ポケットに手を突っ込んで見ても銅貨一枚すら入っていなかった。


これじゃあ、分からない道を辿って宿に戻るのは無理かな。





「………」


声だけはガヤガヤと煩く騒ぐ。

でも人は居ない。

人一人とて居ない状況と他の人がいることを確認できていることにより、どこか安心感を感じる。


「少し、落ち着きましたか?」

「⁉︎」


体育座りで道の片隅に座っていた僕の隣に、気が付いたら女の人が座っていた。

サクラ色のぱっつんで、目は赤色で、長袖のメイド服で身を包んでいる。

だがどうやらウチのメイドではないようだ。

そして、どこか正気を感じない。


「こちらをどうぞ」


そう言って、メイドさんはハンカチを手渡して来た。

一瞬なぜかと思ったが、理由はすぐに教えてくれた。


「男性の方が流すものではありませんよ?涙は」


気が付かなかった。

僕は泣いていたのか。

みっともない。

すぐさまハンカチを奪うようにして顔をぐちゃぐちゃに拭く。


「………すいません。ハンカチ、洗って返しますので」

「いえ、結構です」


メイドさんはすでに背中を僕の方に向け、ここから立ち去ろうとしていた。


「あ、あの、せめて名前だけでも」


この時、なぜ名前を聞いたか分からない。

ただ、僕の心に少しだけだが、人の温もりを思い出させてくれたこの人のことに対して興味が湧いたのだろう。

愛情、友情とはまた違う、『無言の優しさ』を。


メイドさんは立ち止まり、振り返らずに言う。


「……私、フィストと申します。では」


一瞬。

一瞬で姿を消してしまった。

それも転移魔法を使った痕跡は無い。

ただの通常移動だ。

彼女、もしかしたらものすごく強いバトルメイドだったりするのだろうか?


そして、ふと、彼女の足元に封筒が落ちていた。



そう。

今まで僕を苦しめて来たあの封筒だ。


僕は無言でその封筒を開ける。


『残りの‘人’生、大切にしてください』


なぜか『人』と言う文字を強調した書き方だが、僕への励ましのつもりなのだろうか。

僕は少なくとも、勇気付けられた気がする。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「『博士集会』?」


本日の演習訓練を終え、謁見の間に呼び出された俺たち勇者パーティは、国王と会話をしていた。


「左様。明後日であったか。世間の『博士』が集まり研究発表会を行う。そこで勇者であるトオルに魔物と戦わせ、魔法を嗜むモーナに魔力の流れを伝えてもらい、より民間人が強くなれる方法を研究しようと言い出した奴がおってな。どうかね?我ら人類のさらなる進歩の為、参加願いたいのだが」


つまり、僕を見世物にしようっていうわけかな?

いい度胸じゃないか。


でも……博士か。

俺は地球にいた時は高校一年生だった。

学生の本分は勉強。

そのため、少しばかりこの世界の勉学にも興味がないことはない。

全て魔法の力で動いているのかなと思いきや、ちゃんと万有引力とか化学物質とかの存在はあった。

電子機器については地球の足元にも及ばない……っていうか、まず電気が無いのであるが、物理や化学、生物分野については地球とあまり大差はなかった。


そのため、おそらく地球でいうところの研究発表会に俺は参加してみたくなった。


「ええ、構いませんよ」

「ちょっ、トオル⁉︎」

「大丈夫。キミたちは俺が守るよ」

「「っ!」」


振り向き笑顔を向けるとフィナとモーナは顔を赤らめる。


「…………」


アイナは薬のやり過ぎか最近表情筋もガチガチになってしまい、笑わなくなってしまった。

でも、無愛想なクーデレちゃんも俺は好きだよ!


幸いこの世界は一夫多妻制が適用されるらしく、俺はこの三人全員を妻に迎えることができるし、俺には女神様から愛された『勇者』の力も持っている。


この三人とも共通の元婚約者がいるらしいが俺はそいつをブチのめすだけ。

俺に逆らう奴はいてはならない。

なぜなら俺こそがこの世界の主人公なんだから!



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「『世界の主人公なんだから!』………か。反吐がでるな」


王都の宿屋の一室。

フィストの魔力をねじ込んだ鏡を使い勇者の様子を見る。

この世界に主人公なんかいない。

確かに神話や童話には主人公なる者ーースポットライドが当てられる者がいるかもしれないが、世界という概念の中では『主人公』なんていう存在はいない。

全員が全員キャストで、全員が全員脇役のようなものだ。

真なる主人公は強いて言うならば世界そのものだな。

神という存在は世界を守るセキュリティのようなもの。

その他の生物は寄生虫といったところか。

誰もが誰も、世界という本の中の一節、一文、一単語、一文字に過ぎない。


自分を主人公という奴など、せいぜいナルシストな頭のおかしい人くらいだ。

勇者はどっちだろうか?


まぁそういうのはどうでもいいだろう。


それよか今は別のことが大事だ。


「レイモン様………その……」


鏡の傍には、壁にリングで拘束してやったフィストがいる。


「ふん。貴様、勝手な真似をした罰だ」


フィストは今日、ヴィルと許可なく接触し、彼に生きる気力を少しばかり与えてしまった。

その頃俺は勇者の訓練をずっと見ていたため知らなかったが、アナ姉妹(本人達に言ったらブン殴られるが)に教えてもらい、今は罰を与えている。


まったく。

これで計画が狂ってしまったら意味がないでは無いか。


しかも与えた手紙の内容が残りの人生を大切にしろだと。

やはり元人間(・・・)のコイツにとって人間をやめることについて少なからず思い入れでもあるのだろうか?


そういえば人間をやめる奴といえば明日にスズネという重要な人物が来ると言っていたな。

たいそうな男嫌いらしく俺が直接面会するのはいけないらしいが……ヴィルは大丈夫なのだろうか?


どちらにせよ、フィストを動かすしか道は無いようだ。


「いえ、違うのです。私、なぜかこのように強く縛られていると……興奮して来て……はぁ…はぁ…」

「…………は?」


……神であるこの俺を一瞬ではあるが動揺させたのだ、やはりこの人形(ドール)は素晴らしい。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



作者「遅れて……すみまぜんでじだーー」


ヴィル「ほんと、ウチの作者の諸事情で遅れました」


作者「いやついこの間『安定した投稿ができそうです』とか自分で言ったくせに明らかに不安定になってしまった」


ヴィル「その代わり明日は二話連続更新致しますので、どうかお願いします」


作者「それはさておき、この間ウチの学校で卒業式があったんだよ」


ヴィル「へぇ。どうだった?」


作者「いやー。眠くなるね、あれ」


ヴィル「ひどいなぁ……でも作者だってもうすぐ受験勉強始めるんじゃなかったの?」


作者「うんうん。でも『なろう』での活動は辞めるつもりはないよ」


ヴィル「安心した。卒業式ってやっぱ泣いてる人多かった?」


作者「いや……意外と誰もあんま泣いてなかったな」


ヴィル「そんなもんなの?」


作者「知らん」


普通の卒業式ってどんな感じ?

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