第9話「生徒会室にて」
第9話目になります。今日最後の投稿とはなりますが、引き続きこの「人生が余りにもクソだったので、とりあえずネット小説を書いてみた」の方をよろしくお願いいたします。
第9話「生徒会室にて」
「梨衣、こっちの書類もお願い」
そう生徒会長である梨衣に声をかけたのは、梨衣と同じクラスで、生徒会で副会長を務めている松井茉依だった。
「うん、この書類で最後だっけ?」
「そうそう。やっと残っていた仕事が片付いたよ。ごめんね、彼氏とお家デートだった真っ最中に呼び出したりして」
「かっか彼氏!」
梨衣は茉依の言葉を聞いて顔を真っ赤にしてしまう。梨衣は、普段はあんなに成未に迫ってはいるが、いざそういう話になるとめっきり弱かった。
「あれ? まだそういった関係じゃないんだっけ?」
対する茉依は、そんな梨衣の様子が面白くて、さらに意地悪な質問を続けていく。
「もっもう! 茉依! あなた分かってて言ってきてるでしょ!」
「わわ、ごめん、ごめん。慌てる梨衣があまりにもかわいいからさ。それで実際はその後輩くんとはどこまでいったの?」
茉依は梨衣が以前から成未のことを好いていることは知っていた。そして、梨衣が結構大胆な行動をして成未の気を惹こうとしていることも。
「勢いでしっちゃった」
「えっ! まさかの恋のA、B、CのいきなりCパートにまでいったの!」
茉依はそう叫んで驚愕してしまう。まさか、そこまで梨衣が積極的だったとは思わなかった。
茉依が梨衣恐るべしと思っていると、問答無用で梨衣の拳が飛んでくる。痛くはないが。
「ちっ違うよ! 私と成未くんはまだキスまでしかしてないよ! どうして茉依はすぐにそっちの方に話を持っていきたがるかな? 私と成未くんはそんな不純異性交遊に引っかかるようなお付き合いはしていません!」
「んん? てことはやっぱり付き合ってるの?」
てか、キスは済ませてるってどういうことよ? と茉依は思ってしまう。
「いえ、まだこれからだけど……」
梨衣の言葉は段々と小さくなってしまう。梨衣としては、今すぐにでも付き合いたいと思ってはいるのだが、成未の方が一向に首を縦に振ってくれないのだ。なので、梨衣はあんな強硬手段を使って成未との勝負の約束を取り付けたのだ。
だって、そうでもしないと成未くん付き合ってくれなさそうだったんだもん。
梨衣は一人愚痴ってしまう。
「でも、あたしが分からないのは、梨衣みたいな人に告られて断る男子がいたんだね。そこが不思議でならないわ。あんたって、高校になってから何回告られたっけ? 片手で数え切れないぐらいには告られてるわよね?」
茉依はそう思い出しながら、そう聞くが返ってきた答えはさすがに驚きを隠せなかった。
「この前でちょうど100人になったかも」
「それって他校も合わせてよね?」
梨衣は首を縦に振った。
ひえぇ~~、この子は昔からモテてはいたけどまさか100人から告白を受けていたとかどんな乙女ゲーよ。逆ハーレムが成り立つんじゃないかしら?、いや、もう成り立ってるのか。
「でも、その中にあんたの心を射止めるイケメンとかいなかったの?」
さすがに一人ぐらいはいたでしょう。だって100人から告られてるんだし。
「うんうん、どの人も成未くん以上に素敵な人はいなかった」
「はいはい、惚気乙」
「ちょっと茉依! 聞いておいてそれはひどいんじゃないの?」
「いやだって、梨衣が惚気るからでしょ。さっきだって、その成未だっけ? その子の写真を見てニヤニヤしちゃって全然仕事がはかどってなかったじゃん」
「そっそれは!」
だって成未くんのことが大好きなんだもん。
微かに聞こえた声は、たしかに茉依の耳にも届いていた。
梨衣をここまでにするって、その成未って男はどんだけの魅力を秘めてるのよ? 梨衣、今まではあんなに恋愛とか興味なさそうだったのに。
「でも、梨衣をここまでさせておいてさらには付き合うのも渋るって、どんだけお偉い奴なのよ。いっそのこと、あたしがそいつの所に行って喝を入れてくるか?」
「茉依、暴力はダメだよ。それに私の旦那様にそんなことしないで!」
「旦那様?」
茉依の言葉にしまったといった感じで、両手で口元を覆うが時すでに遅しで、茉依の目がギラ~ンと光った気がした。
「梨衣、そこのところもっと詳しく!」
「えっええええ! 勘弁してぇぇぇぇ!」
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それから、茉依に成未とあったことを根掘り葉掘り聞かれて、梨衣は精神的に疲れていた。
「もう、茉依もあんな根掘り葉掘り聞かなくてもいいのに! それに成未くんにだってきっと理由があって私と付き合えないって言ってると思うのに、成未くんがおかしいとか言わないでほしい」
梨衣は帰路につきながらも、そう呟いてしまう。
これまでに梨衣は二回ほど成未に告白しているのだが、二回とも断られていた。梨衣自身、告白されることはあっても、告白をしたことがなかったため、最初に断られたときは三日間寝込んでいた。告白を断られるのって、こんなにもキツイとこだって初めて知った。だけど、どうしても諦められず再び、成未に告白したのだが、結果は前と同じで断られたのだが、二回とも同じ理由で断られていた。
梨衣も最初はどうして気になっているのかは分からなかった。だけど、あとあとになって最初は一目惚れから始まっていて、そう気が付いた時にはどんどん成未に惹かれていたのだ。
最初は男の子なんて全然興味がなかったのに。
梨衣が告白を断っていたのは、男にまったく興味がなく恋愛なんてどこか面倒だと思っていたのだ。しかし、成未と出会ってからは、そんな理由が色あせるぐらいに、恋愛に興味を持っていった。成未に心を揺り動かされていた。
梨衣はスマホを取り出すと、ロック画面を開いた。そこには、成未の寝顔が収められた写真が設定されていた。実は、昨日成未が寝たあとにこっそりと撮っていたのだ。
えへへ、成未くんの寝顔かわいすぎる!
道端で一人悶える女子高生という、なんとも奇妙な光景が出来上がっていた。
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家に着いた梨衣はすぐさま自室向かうと、ノートパソコンを起動させた。メールを確認してから、梨衣は小説投稿サイトに「Shino」ではなく、読み専門アカウントである『Pear』でログインする。
そろそろ成未くんの新作が投稿されている頃かな。そういえば、タイトルを聞くの忘れてたけど、結局なんてタイトルにしたんだろう?
梨衣はそう思いながら、成未のページを開いて新作を探していく。
ええっと、「不適合魔剣士の英雄譚」と「マジック・クロニクル」そして……あったあった。「メモリーズ・ユアーズ~君と歩む⒈年間~」
これが成未くんの新作。私がモデルになっている作品。
梨衣は内心ドキドキとしながら、その作品を読み始めた。
その作品は主人公の男の子が学園に入学してきたところから始まっていた。そこで出会った主人公とその学園で生徒会長をやっているヒロインは二人で惹かれ合っていく。
最初は自覚がなかったヒロインだったが、次第に主人公への恋心を自覚するところで1話は終わっている。
「はぁ~」
読み終わったあとには思わず、梨衣の口からはため息が漏れていた。
「成未くん、こんな話は反則だよ」
だって、この話はまるっきり私たちのことじゃない。それをこうやってお話にしちゃうなんて……
「……ますます、大好きになっちゃうよ」
まったく、こんなことまでされて私の告白を断るなんて、本当に成未くんはなにを考えてるのか分からないよ。だけど、私はどんな成未くんでも大好きだから、いつか話してほしいな。私の告白を断ってこのお話を書いた理由を。
梨衣はそう感じながらも、Pearのアカウントで感想を残しておく。
むう、Himeさんに先を越された。初感想は私がよかったのに。
Pear『新作、早速読ませていただきました。まさか、こんなに早くNaruさんの新作が読めるとは思っていなかったので、とっても嬉しいです。そして、今回の作品は以前の作品とは全然違った方向性でびっくりしました。それと、主人公とメインヒロインの関係が甘酸っぱ過ぎます! 2話目も楽しみにしていますので、これからも頑張ってください! 執筆、お疲れさまでした!』
既定の文字数を結構超えてしまったが、分割して送れば大丈夫だろう。
「成未くん、ここからどうお話を発展させていくのかな?」
もう、成未くんのバカ。こんなお話を私に読ませるなんて、どんな鬼畜プレイなのよ。絶対に成未くんには責任を取ってもらうんだから!
梨衣はそう思いながらも、ブックマークと評価の方を押して、自分の作業に取り掛かった。
梨衣の作品である「マジック・マジカ~あんたなんか下僕で充分なんだからね!」の発売は来年となってはいるが、担当編集者に言われて直すところは山ほどあるのだ。
成未くんも頑張っているんだから、私も頑張らなくちゃ。
梨衣はそう気合を入れ直すと、2日間やっていなかった分も取り戻すべく、自分の作業に没頭した。
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