第8話「新作、投稿開始」
第8話目になります。このままのペースで書いていければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。そして、21時には9話目も投稿いたしますので、そちらもの方もよろしくお願いいたします。
第8話「新作、投稿開始」
一夜明け、日曜日。
俺は今日も学校が休みなのをいいことに、朝から見直しと改稿作業を行っていた。
これさえ済めばもう投稿を始められる。しかし、今回はただ投稿するのではなく、ちゃんとした評価をもらわなくてはいけない。この作業にいつも以上に気合が入る。
少しでも作品の完成度を上げないと。
俺は何度も何度も見直していく。おかしなところはないか。このキャラの掛け合いは問題ないか。
入念に何度も何度も見直しをした。少しでも気に入らなかったら、その度に書き直した。笑っても泣いても、この作品のシリーズで俺と先輩の勝負は決まってしまう。このシリーズをどれだけ面白くできるかで決まってしまうのだから。だからこそ、⒈話目からコケるわけにはいかないのだ。
「うん、これで問題ないかな」
見直すこと3時間。やっと見直し作業が終了した。今回のはマジで文句のない出来となったのではないだろうか。
「梨衣先輩、小説が完成しましたよ。だから、起きてください」
俺は未だにベッドで眠っている先輩の肩を、軽くゆすった。
「う~ん、おはようダーリン。昨日は素敵な夜だったわね」
この人はまたそんな冗談を。
「梨衣先輩、朝からそんな冗談ばっかり言わないでください」
「私としては冗談のつもりはないのだけど。素敵な夜と聞いてあなたはなにを想像したのかしら?」
絶対にわざと誤解するように言ってるだろ!
「それは二人で小説のことを語り合ったことですよね?」
なんだろう、先輩のニュアンスには別のなにかが含まれていた気がする。
「でも、既成事実を作るの一つの手ではあったわね」
「昨日は本当に素敵な夜でしたよね!」
俺は慌てて話を誤魔化すことにする。これ以上、この話を続けると大変な二次被害になりそうだと直感が告げている。
「あら、つれないのね」
こんなことに毎回乗っていられるか!
「それで小説が出来たとか言ってなかった?」
「あっはい。見直し作業まで終わらせてちゃんと完成させましたよ」
俺の言葉を聞いて先輩は微笑んだ。
「そうお疲れさま。出来ることなら、今すぐにでも成未くんの小説を読みたいところではあるけど、今日は無理そうなのよ。学校で問題があったみたいなの。生徒会長として、今から学校に行かないといけないのよ。だから……」
先輩はそこで言葉を切ると、俺の腕を引き、その胸に俺のことを抱きしめた。
「……だから、サイトに投稿されるのを楽しみにしているわよ」
そうして、先輩は俺にキスを一つ落とすと、俺の部屋から出て行った。一人部屋に残された俺は、一人で悶えてしまう。
だから、どうして先輩はさらっとライトノベルに出てくるようなキャラみたいな行動が出来るんだ!
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一方その頃、成未の部屋から出た梨衣は、顔を真っ赤に染めて廊下にへたりと座り込んでいた。
ひゃぁ~~、またやっちゃたよ! 成未くんを見ていたら、どうしても抑えきれなかった! これもすべて成未くんがかっこかわいいのが悪い!
成未のせいにして、自分のやった行為を正当化しようとは試みるが、先ほどの自分のやった行為を思い出して、中々、顔の熱が治まりそうになかった。
これ、学校行くまでに治まってくれるかな? だけど、成未くんにキスをすると、胸の中が幸せな気持ちが溢れてくる。私って、どんだけ成未くんのことが好きなんだろう。成未くんの前では、恥ずかしくてあんなちょっとエッチなこととか高飛車な態度をとっちゃうけど、私って本当に成未くんのことが大好きなんだな。だからこそ、成未くんには頑張ってほしいな。
梨衣がそう考えていると、スマホが着信を告げた。
あっ、副会長に呼び出されてるてっきり忘れてた。
実のところ、梨衣は昨日から生徒会の仕事の一件で呼び出されていたのだが、副会長に無理を言って休ませてもらっていたのだ。しかし、その条件が今日は必ず学校に来ることだった。
成未くんの新作をすぐに読めないのは残念だけど、きっと今の成未くんなら大丈夫だよね。
「頑張れ、成未くん。大好きだよ」
梨衣は心からのエールを呟くと、学校に向かうため波瀬家をあとにした。
どうか、学校に着くまでには、顔の熱が治まっていますように。
自転車に跨ると、そう願いながらべダルを漕ぐ足に力を入れた。
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脳が止まっていた俺は、なんとか脳の活動を再開させた。
いきなり先輩にキスされたもんだから、心臓がヤバイぐらいにバクバクと言っている。
今やっと分かった。俺の周りで一番ライトノベルに出てきそうな人は咲姫ではなく、間違いなく先輩だよ。でも、先輩のおかげでかなりキャラの方向性や話の方向性がはっきりしてきたと思う。本当に先輩には感謝しかできない。
先輩からしたら、10000ptを取られない方がいいはずなのに、そんな顔せずに俺の小説作りに付き合ってくれていた。そんな先輩のためにも、俺の出来る最高の話を書きあげなければ。
「一応、もう一回見直しておくか」
俺は今一度、作品を見直して改稿作業を行っていった。
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次の日は普通に学校だったので、いつも通りに教室に行くと、これまたいつも通りに綾人が待っていてくれた。
「おお、成未。おはよう。それと、新作の投稿お疲れさまだな」
「ああ、綾人。おはよう。それとどうも」
俺は自分の席に荷物を置くと、綾人の席に向かった。
「しっかし、成未の執筆速度にはいつも驚かされるな。四ノ宮先輩との勝負が決まったのが、先週の金曜日で、新作があがったのが昨日の日曜日。実質、2日もない中で新たな作品を思いついたんだから、ある意味すごいよな。内容の良し悪しは別として」
「うっせぇな。心配すんなよ。今回の作品は問題なく俺の最高傑作だよ」
「でも、成未の作品なんて「不適合魔剣士の英雄譚」と「マジック・クロニクル」しかないじゃんか」
そう言って、綾人はケラケラと人を小ばかにしたように笑っている。
「お前は俺をバカにしたいのか? とにかく、そういうことを言うのはちゃんと作品を読んでからにしてほしいんだけど」
「ああ、心配すんなよ。オレはもう成未の新作を読んでるから。いや、Naruの新作って言った方がいいのか」
「なんだよ、読んでたのかよ。だったら、先に言えって」
まったく、読んだうえであんなことを言ってたなら、なおさら質が悪い。
「それで感想は?」
「そうだな~、成未らしくない作品だと思ったよ」
「俺らしく?」
俺の疑問に綾人はすぐに頷いた。
「成未の小説って、ほとんどが自己満足の上で成り立っている作品が全般だった。だけど、今回の作品はその成未の悪い癖が抜けて、ちゃんと読者にも入り込みやすい作品になっていた。だから、ある意味では成未らしくない作品になってるんだよ」
「それって褒められてるんだよな?」
「さぁ? だけど、一つ言えることはたしかに今回の作品はNaruの中で最高の作品に値するんだろうな。あくまでNaruの中でだけどな」
「それで綾人から見て、今回の作品はどうだったんだ?」
「ん? 俺の意見としてはたしかに面白いとは思うけど知り合いを見ているかのようでぶん殴りたくなったわ」
ハハ、ですよねぇ~。多分、俺も綾人と同じ意見になると思う。
「でも、新作連載開始おめでとう!」
「ありがとう、綾人。本当の勝負はここからだけど、俺の出来る限りの全力で1話、1話を書いていきたいと思ってる」
「ふ~ん、凡人作家って自覚があるわりには心構えだけは一丁前だよな」
「うるさいわ! それよかお前の方はどうなんだよ?」
綾人も自身の連載作品を持っていたはずだ。こんな適当な感じではあるのだが、ちゃんと一定のペースを崩さないで投稿を続けていたはずだ。
「ああ、こっちはなんにも問題ないよ。むしろ、絶好調さ。どっかの凡人作家とは違って、一応人気作家ですし。そういや、昨日の時点でptが11000とかいってたかな。これが才能があるってことだろうな」
この野郎、俺が才能がないことをいいことに、自分は才能があるからとか言ってきやがったし! 少しでもいいからその文才を俺に寄越しやがれ! でも、綾人が本気では言っていないことは分かっているので、俺も笑ってそれを流した。
「それで、これからの展開は考えてあんの? 成未の場合は書くスピードは速いけど、そのあとのことが大抵ノープランだからな。だから、1作目の「不適合魔剣士の英雄譚」だって、投稿を休載しているわけだし。成未的には書き切りたいって気持ちはあったんだろうけど、設定に無理がありすぎて続けられてないんだろ?」
ぐっ……さすがは腐れ縁。俺のことをよく分かっている。だが、今回の俺はいつもと一味違うぜ。
「大丈夫だ問題ない。ちゃんと一部までは考えてある。結構、大まかではあるし粗削りではあるけど、とりあえずの道筋は経ってるからさ」
「そっか、ならいいんだけどさ。まあ、精々人気が取れるように頑張れよ」
「ああ、今回の作品でお前の度肝を抜いてやるから任せとけ!」
俺はそんな綾人ににっと返してやった。
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