第6話「まさかのお泊りイベント発生⁉」
第6話目になります。まだまだ物語は続いていきますので、これからもよろしくお付き合いのほどを頂ければと思っております。
第6話「まさかのお泊りイベント発生⁉」
「どうしてなのか、理由を聞いてもいいですか?」
先ほど梨衣先輩にボツを食らった俺は、文句を飲み下してそう聞き返した。今回の作品は今までの作品よりも出来が良く最高傑作と言ってもいい作品だった。それがボツな理由が俺には分からなかった。
「それは、この作品に出てくるメインヒロインのモデルが成未くんの妹だからよ」
「はっ? 梨衣先輩、今なんと言いました? 俺の聞き間違いじゃなければ、妹をモデルにしたから、ボツにしたって聞こえたんですけど……」
……まさかな。そんな理由でボツを食らったわけないよな?
「だから、妹をモデルにしたキャラがメインヒロインだからボツなのよ」
うん、どうやら聞き間違えじゃなかったようだ。なぜに?
「そもそも、成未くんの彼女は私でしょ! 彼女の私がいながら妹をモデルにするなんて許せないのよ。モデルにするなら普通彼女の私じゃないの?」
「いやいや、梨衣先輩。俺たちはまだ恋人になったわけじゃないですから!」
「うっさい! とにかくダメなものはダメだからね! この話はボツです! 成未くんは今すぐ私をモデルにしたキャラで書き直しなさい!」
んな、無茶苦茶な! でも、ここで言い返したとしても、「言うことを聞いてくれないと、私の不戦勝だからね!」とか言ってきそうだしな。
「分かりましたよ。書き直しますんで、待っててください」
俺は先輩にそう告げると、立ち上がった。外を見ると太陽は西に沈み、暗くなり始めていた。そろそろ、先輩も帰らないといけない時間だろう。
「梨衣先輩、家まで送りますから帰る準備をしてください」
俺も外に出るためにパーカーを羽織ったのだが、先輩は一向に帰る準備をする素振りは見せなかった。
「梨衣先輩?」
「成未くん、今日は私ここに泊まっていくわ」
「はいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
俺の絶叫が響き渡ったのは言うまでもないだろう。
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どうしてこうなった?
俺は咲姫に先輩のことを説明しながらそう思ってしまう。着替えとかその他もろもろはどうするんですかと聞いたが、ちゃんとすべて用意してきたらしく、最初から泊まるつもりでいたのだから驚きである。
「えっと、咲姫。梨衣先輩、今日家に泊まっていくらしいです」
なぜか敬語になる俺。だって、咲姫の目がさっきから笑ってないんですけど! 顔は笑っているのでなお怖い。
「四ノ宮梨衣です。今日はよろしくお願いします。それと部屋は成未くんと相部屋で大丈夫ですので。だって私たちは恋人同士ですし」
「そういうわけにはいきません。ちゃんと、お客様用のお部屋を用意させてもらいますので、四ノ宮生徒会長はそちらで寝てください」
「咲姫さん。いずれはあなたのお義姉さんになるんだから。気軽にお義姉さんと呼んでくれてもいいのに」
「「呼びません」」
その発言には俺も咲姫も思わずツッコんでしまう。
「ちょっと、お兄。こっちに来て」
俺は咲姫に襟を掴まれて廊下に連れ出された。
「お兄、なんなのあれ? 本当にあれが生徒会長なの? まったく学校でいる時の感じがしないんだけど」
「ああ、それは俺も感じていることだよ。なぜたか、俺の目の前ではいつもあんな感じだぞ。最初の近寄りがたい雰囲気はどこにいったんだか?」
「はぁ~、それともう一つ。お兄が四ノ宮先輩とこっこ恋人同士っていうのは本当なの?」
「ああそれな。それは先輩の……「本当よ」」
ちょっ! 先輩! 俺は今でたらめって言おうとしたんですけど!
「ごめんなさい、遅かったから来ちゃった」
先輩はそう言いながら、俺の腕に抱き着いてくる。ちょっとくっつかないで!
「待ってください! それはまだ決まってないんですよね? お兄が先輩との勝負に負けたらそうなるかもしれないですけど、まだ勝負は決まっていないんですよね?」
「そうだけど、私の勝ちは決まっていると思うけど。勝負内容を出しといてあれだけど、成未くんにほとんど勝ち目はないわよ。成未くんもそれを分かったうえで勝負を受けているはずだから、これはもう恋人同士と言い張っても問題ないと思うけど」
「「問題あるわ!」」
本日二度目の兄妹のツッコミが炸裂する。
先輩、ムリゲーだと分かっていてあの条件を出すなんて、どんだけSなんだよ。だけど……
「なにもしないままで負け判定されるのは嫌なんで、出来る限りの足掻きをしますよ」
「10000ptも集められると思っているの?」
「たしかに俺の実力じゃ難しいでしょうね。だけど、なにもしないで負けるのは嫌なんですよ。だったら、最後の最後まで自分の全力を出して自分の中での最高の作品を読んでもらってから勝敗が付いた方がいいに決まってる。いくら自己満足小説を書いている俺ですけど、曲がりなりにもネット小説を書いているので」
俺の言葉を聞いて、先輩はふっと表情を緩めた。
「そんなあなただからこそ、私は成未くんのことが大好きになったのね。そうやって、どこまでも真っ直ぐなところ私は大好きよ」
なんの飾りもなく言われた先輩の言葉に、俺は赤面してしまう。そんな真っ直ぐ過ぎる言葉を言われたのは初めてで、ものすごく照れてしまうが不思議と嫌な気分ではなかった。きっと、ライトノベルでこういう言葉をかけられるキャラはこんな気持ちなんだろうなっと感じてしまう。
「梨衣先輩って、どうしてそんな真っ直ぐな言葉を言えるんですか?」
「本気であなたのことが好きだからよ」
またまたなにも隠さないほどの真っ直ぐな言葉で返されたため、この話に俺の勝ち目はないことを悟った。
「とりあえず、二人してラブラブな雰囲気を出すのはやめてよね」
近くで俺と先輩のやり取りを見ていた咲姫が、ものすごい冷めた目で俺たちのことを見ていた。さらには、リビングに戻るときには、脛を思いっきり蹴っていきやがったし。なんで、あんな不機嫌になってんだか。
俺は腑に落ちないまま二人のあとを追った。
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「泊まらせてもらうお礼に、今日は私に晩御飯を作らせてくれないかしら? それに成未くんにも頑張ってもらいたいから、応援の意味も込めてね」
俺と咲姫はその先輩の申し出を受けることにする。最初は渋っていた咲姫だが、先輩の押しの強さに負けて、先輩が作ることを了承した感じだ。
「成未くん、一緒にスーパーに行きましょ。荷物を持つのを手伝って」
俺は頷くと、先輩と一緒に家を出た。
「成未くんは、なにか食べたいものでもあるの?」
スーパーに向かう途中で、先輩がそう聞いてきたので俺は少し考えてから「ハンバーグ」と答えた。
「ふふ、子どもみたいでかわいいわ。だけど、奇遇なことに私の得意料理はハンバーグなの。今日は成未くんのために腕によりをかけて作らせてもらうわ」
そう言って微笑んだ先輩の笑顔は夕日も相まってか、とても美しく見えた。それはまるで、そこを切り取れば一つの絵画にもなりそうな一枚だった。
それからスーパーに着くと、先輩は手慣れた感じでかごに食材を次から次へと入れていく。
「先輩って将来は良い奥さんになりそうですよね」
気が付いた時には俺はそう口走っていた。
先輩の顔が一気に真っ赤に染まった。最初は俺もなんでそうなっているのか分からなかったが、遅まきながら自分の失言に気が付き、慌てて弁明をするがあまり意味がないように思えた。
「梨衣先輩! 今のは違うんです! あれはなんか先輩を見ていたらなんとなくそう思ってしまったというかなんというか、とにかく深い意味はないんです!」
なんだか、どんどん墓穴を掘っている気がする。
「おっ奥さん! えへへ、成未くんの奥さんかぁ~。それはそれで悪くないかも」
先輩は先輩でへらぁ~と笑っているし。この人本当に生徒会長なのか? いや、生徒会長なんだけれども、その面影がまったくと言っていいほどなくなっている。でも、そんな先輩の一面を見れたのは少し嬉しいかな。
俺がそんなことを考えていると、服の袖をくいくいと引かれた。
「ん? どうかしましたか梨衣先輩」
先輩に呼ばれたので、俺は先輩の方に振り向くと先輩は赤い顔のまま、爆弾発言を投下してくる。
「なっ成未くんは、何人子どもが欲しい? 私は成未くんとの子どもなら何人でも……きゃっ! もう、成未くんったらなにを言わせるの!」
うん、誰だこいつ状態なんですけど。今の俺の心の中は誰か助けてください! 状態だった。まあ、元はと言えば自分の失言によってこうなってはいるのだが、まさかここまでになるとは誰が予想するだろうか? 否、誰も予想しないだろう。なぜなら、ここはライトノベルの世界ではなく普通の現実の日常なのだから。
「梨衣先輩、そろそろ会計しますよ。咲姫も待っていますし」
「ええ! まだこの新婚さん気分を味わっていたいんだけど」
バカなことを言う梨衣先輩を無視して、俺は買い物かごをレジに持っていく。
「ああ! 待ってよ成未くん! かわいい奥さんを置いていかないでよ!」
本当に今日の夜はどうなるのだろうか?
俺は夜のことを考えて頭が痛くなってきたのを自覚していた。もうなにも起きなければいいのだが……
一体、俺の平穏はどこにいったのやら。
俺は店員さんにお金を払いながらそっとため息を吐いた。
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