第5話「突然の訪問」
第5話目になります。まだまだ序盤ではありますが、これからもお付き合い頂ければと思っております。
*前作までの誤字・脱字の修正を行いました。ご迷惑をおかけいたしました。引き続きこの作品をよろしくお願いいたします。
第5話「突然の訪問」
朝の日差しの眩しさで俺は目を覚ました。隣では俺の妹である咲姫が、小さな寝息を立てて眠っていた。
「ったく、ちゃんと布団をかけないと風邪引くっての」
俺は咲姫に布団をかけ直してやるのと同時に、自身の動きが止まった。そして、頭の中には、求めていた閃きが今降りて来ていた。
そうか、そうだよ! どうして今まで思いつかなかったんだ?
俺は咲姫に布団をかけるとすぐさまにノートパソコンを起動させる。登場人物になりそうな逸材が俺のすぐ目の前にいるじゃないか。
咲姫はどちらかと言えば、ライトノベルに出てきてもいい感じの性格をしている。なら、そのまま小説に使ってもなんら問題がないってことだよ。そしたら、そのキャラを主要において、周りのキャラを考えていけば作れるかもしれない。
俺の頭は今にないぐらいに高速回転していた。一気にメインヒロインや周囲のキャラ、そして、主人公までの大まかな形が出来上がっていっている。
これなら問題なく書ける!
俺はパソコンのワープロソフトを立ち上げると、そこに一気今思いついた話を書いていく。
テンプレだと思われるかもしれない、テンプレだと言い切られるかもしれない。だけど、テンプレが悪いわけじゃない。テンプレをいかに面白く見せるかだけなのだ。だったら、俺は今回はあえて王道の王道で行く。
どれぐらい、パソコンの画面に向かっていたのだろうか? 気が付けば、俺は今思いついた話の⒈話を完成させていた。
「うーん、よし! 今回の新作はこれでいこう。中々いいのができたんじゃないかな」
「新作の⒈話が完成したのね。それはぜひとも見せてもらいたいな」
「ええ、ぜひどうぞってぇ⁉」
俺は思わず自然に返してしまっていたが、気のせいか梨衣先輩の声が聞こえた気がするんですけど。きっと気のせいだよな。
俺はそう思いながら声のした方に視線を向けると、そこには私服姿の梨衣先輩がいた。
え? なぜに⁉
俺はとっさに自身のベッドに視線をやったが、そこはすでにもぬけの殻になっていた。ということは、ここに先輩を招き入れたのは咲姫ということか。
「おはよう、成未くん」
「おはようございます、梨衣先輩」
今日は土曜日のため、先輩が私服姿なのはなにもおかしなことはないが、問題はそこではない。どうして、梨衣先輩が休日に俺の家にいて、なおかつ俺の部屋にいることが問題なのだ。
「梨衣先輩がどうしてここに?」
「来ちゃった♡」
「来ちゃった♡って、そうではなくてですね。どうして、先輩がここにいるんですか? 今日は学校も休みですし、梨衣先輩も書籍化が決まっているんですから、忙しいんじゃないんですか?」
「そんなことよりも、まずは私に言ううことがあるんじゃないかしら?」
まず先輩に言うこと? それは回れ右をして即刻お帰り下さいとか? でも、そんなことを言ったら、マジで先輩に怒られそうだ。それじゃあ、先輩が求めていることってなんだろう。そういえば、先輩って今日は私服だったな。考えてもみれば、先輩の私服姿を見るのって初めてだ。
「梨衣先輩、私服姿ものすごく似合っていてとてもかわいいですよ」
俺が素直な気持ちをぶつけると、梨衣先輩は頬を赤く染め照れていた。
「うん、大正解よ成未くん。どう、私はかわいい?」
「だから、かわいいです」
「どのくらい?」
「そりゃあ、梨衣先輩を見た学校の男子が全員かわいいっていうくらいにはかわいいですよ。それに、普段は制服姿の梨衣先輩しか見ていなかったので、そのギャップも相まってか、ものすごくかわいく見えますよ」
俺の素直な感想に、先輩は悶えていた。体をくねくねとさせてそれはもう悶えていた。普段のあの雰囲気からはとても想像できるわけがない状況になっていた。てか、本当に先輩はどうしてここにいるんだ。
俺は先輩が落ち着くのを待ってから、再度同じ質問をぶつけた。
「それでどうして梨衣先輩が家にいるんですか?」
「それは成未くんが心配だったからよ。昨日の様子だと、かなり悩んでたみたいだから。でも、私が来た意味はなかったかな。⒈話完成したんだよね?」
「ええ、とりあえずは。だけど、結構な勢い任せて書いた作品だから、色々と粗が目立つかもしれないから。まずはそれを見直して直さなきゃいけないから、まだしばらくは時間がかかると思いますよ」
「だったら、ここで待たせてもらってもいいかしら? 成未くんの新作を一番に読ませてもらいたいな」
そんなことを言われたら、俺は駄目ですとは言えなかった。
「分かりました。今、お茶とか持ってきますので座って待っててください。それを持ってき次第、すぐに見直し作業を終わらせますんで」
俺は先輩にそう告げると、片してあったミニテーブルを広げると、下から取ってきたお茶をコップに注ぎ先輩に差し出した。
「あろがとう、成未くん」
「いえ、それじゃあ、あと1時間ほど時間を下さい。それまでには終わらせますので」
「ううん、そこまで焦らなくてもいいよ。ちゃんと、成未くんが満足できるものが出来てからで。その間に私もこれをやっちゃうから」
先輩はショルダーバッグからミニノートを取り出した。きっと、原稿を進めるのだろう。そして、先輩はメガネを付けていた。
「あれ? 梨衣先輩ってメガネなんですか」
「違うよ。これはブルーライトカットメガネだよ。小説を書く時にだけつけてるんだ。さすがに長時間あんなことをやっていたら目も疲れちゃうし、視力も落ちちゃうからね」
「なっなるほど」
なんか今日は先輩の知らなかった一面がものすごく分かるな。って、いかんいかん、先輩のギャップ萌えに感心している場合ではなかった。俺も見直し作業に入らなければ。
それからしばらくは、お互いのキーボードを叩く音だけが、部屋に響いていた。ちょうどお昼を告げる音が外で鳴り響いたのと同時に、俺の見直し作業は終了した。
「梨衣先輩、見直し終わりましたけどどうしますか?」
「うーん、すぐにでも読みたいけどそれはお昼を食べてからにしましょう。きっと成未くんのお腹が今にでも鳴りだすから」
そんなバカなと俺は思ってしまうが、体は正直で先輩に指摘されてすぐにお腹からぐ~という音が鳴り響いた。
先輩恐るべきである。
「それじゃあ、俺は下に行ってなにかないか探してきますよ」
俺は立ち上がり、下からなにか食べるものを取ってこようとするのだが、先輩に手を取られたため、そのまま床に座ることになった。
「実はまたお弁当を作ってきたの。だから、一緒に食べない?」
先輩はそう言って、昨日と同じ弁当箱を取り出した。
「本当にいいんですか?」
「うん。成未くんのために作ってきたのに成未くんが食べないでどうするのよ。それに、昨日の成未くん。お弁当を作ってもらえたことに対してものすごく嬉しそうだったから。あの笑顔がまた見たかったんだ」
そんなことをまっすぐに言われたら、今度はこっちが照れる番だった。なんだかいたたまれなくなり、俺は先輩から弁当を受けとるとそれを食べ始めた。そうでもしないと、この顔の赤みを誤魔化せそうになかったからだ。
先輩は先輩で、そんな俺を嬉しそうに眺めたあと自身もお弁当を食べ始めていた。
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先輩のお弁当を終え、今は先輩に俺の新作である「オサナスキ~僕はいつからか君に恋をしていたんだ~」を読んでもらっていた。
今回の作品はあまり得意ではなかった戦闘描写を避けたため、それなりのクオリティに仕上がっているはずだ。と自負していたのだが……
「成未くん、一つ聞いてもいいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「この作品に出てくるメインヒロインがいるでしょ。これって誰を題材にしたものなの?」
「えっ? どうしてモデルがいるって分かったんですか?」
「それは簡単よ。成未くんのキャラ描写が、以前の作品よりもより明確になっているわ。それはつまり、誰かをモデルに見立てて書いて、よりリアルさを出したと考えるのが普通よね」
先輩、恐るべし。まさか、そこまで見抜かれるとは思ってもみなかった。
「はい、たしかにそのメインヒロインは俺の妹の咲姫をモデルにして書いたキャラです」
俺が観念して正直に答えると、先輩の形のいい眉がピクリと動いた気がした。
「今なんと言ったのかしら? よく聞こえなかったわ」
「えっと、だから俺の妹の咲姫をモデルに……」
「リテイクよ! こんな作品!」
「えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
なんでどうして、なんで?
「いい、成未くん。この作品はすぐにボツにして新しいのを書くか、リテイクをしなさい。じゃなければ、私の不戦勝とします」
俺の自信作の新作は、一瞬のうちにリテイクと言われて突っぱね返されました。うん、意味が分からねぇ! てかあまりにも理不尽すぎやしないか?
俺は先輩に文句を言おうと思ったが、先輩の目尻に涙が溜まっているのを見て、その文句も引っ込んでしまう。
本当に意味が分からねぇ。どうして、リテイクなんだ?
俺はそう思わずにはいられなかった。
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