第20話「誓い」
気づけば20話目になっていました。私自身、ここまで書けるとは思っていませんでしたので驚きです。今回も楽しんで頂ければと思っております。
第20話「誓い」
次の日、俺たちは学校を自主休講していた。その理由は、また昨日みたいに外で待ち伏せされていても困るからだった。
夏美さんには3日耐えてくれと言われた。とにかくあと2日だ。2日さえ耐えればいいだけの話だ。この残り2日でなんにも起きなければいいが。
「もう、また暗い顔してる。せっかくの彼女とのデートなのにそんな顔してたらダメだよ」
俺が考え事に没頭していると、梨衣が俺の顔を覗き込んでくる。
「ごっごめん、梨衣」
「ううん、分かればいいよ。それに考えちゃう気持ちも私には少し分かるから。だから、今日は私が成未くんのそんな気持ちを忘れさせるぐらいに、楽しい気持ちにさせちゃうから!」
「ありがとう、梨衣」
「うん、それでよろしい」
俺たちは街に出てきていた。自主休講したとはいえ、家にいても気が滅入るだけだと思ったので、こうして街に出てきていたのだ。
「それはそうと、成未くんはこの格好を見てなにか言うことはないの?」
改めて梨衣の姿を見ると、それは以前まだ付き合う前に行ったデートで俺が買った服だった。
「めちゃくちゃかわいいです」
「もう、言うのが遅いよ。でも、ありがとう」
なんだか、俺も梨衣も照れくさくなってしまい、無言になってしまうが梨衣が「行こう」と言ったので、俺たちは歩き出した。
特に目的もなく街をぶらついていく。なんだか、こうしてゆっくり梨衣と過ごすのも久しぶりだったかもしれない。
「梨衣はどこか行きたい場所とかないのか?」
「う~ん、行きたい場所というか、買いたい物はあるかな」
「ふ~ん、それを買いに行く?」
「うん、そうしよう」
そう言って梨衣に連れて行かれたのは、若者に人気のブランドショップだった。
マジか、マジでここに入るのか。
「ん? どうしたの?」
「いや、俺には一生無縁な所に連れて来られたから、少し驚いただけ」
「やっぱり、嫌だった?」
「嫌だと聞かれれば嫌だけど、でも、梨衣が行きたいならしょうがないだろう。我慢するさ」
「でも、成未くんが嫌なら諦める」
ったく、梨衣って本当にいつも俺のことを優先するよな。そんな梨衣が愛おしくてしょうがないが。
「ほら、買いたいのがあるんだろ? なら行こうぜ! とっとと買って外に出れば大丈夫だろう」
俺の言葉を聞いた梨衣は、花が綻びるように笑うのだった。
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店内はやはりと言ったらなんだが、リア充全開の店内だった。長らく非リアをやっていた、アニオタには結構きつめな店内だった。
なんだろう、店内にいるだけでMPがすべて持っていかれそうです。
どこぞのゲームのトラップだよという感想を、俺はこの店内に抱いてしまう。しかし、隣にいる梨衣は楽しそうに店内を見ていたのでまあいいかと思い直す。
今度はMP回復用のトラップが作動しました。だから、なんのログだよ!
俺は思わず自分にツッコミを入れてしまう。やれやれ、どうやらこの店内にあてられているようだ。俺は一呼吸を置くと、目の前のショーケースを見ている梨衣に声をかけた。
「それで梨衣はなにが見たかったんだ?」
「私が見たかったのはこれだよ」
そう言って、梨衣が見ていたのは指輪だった。
「これは指輪?」
「そうだよ。ペアリングって聞いたことない?」
ペアリングって、あの恋人とかが付けているあれか。
「聞いたことはあるけど、よく意味って分かってないんだよな」
「別に難しく考える必要はないよ。ただ、恋人ともっと仲良くなりましょうって考えてくれてればいいよ」
「そっか。それで梨衣はこれを買いにきたのか?」
「うん、実はそうなの。ねぇ、成未くん。昨日、話したことは覚えてるよね?」
「ああ、もちろんだ。あんなことそんな簡単に忘れないさ」
「うん。それでね、私が成未くんの傍にいたいって言うのは本当だよ。だから……」
俺は梨衣の唇に人差し指を置くと、その先を喋らせなかった。
「ったく、なんでいつもそういう大事なことは梨衣が言うかね。たまには男としてかっこつけさせてほしいんだけど。だから、その続きは俺に言わせてくれ」
無茶苦茶なことを言っている自覚は俺にもあった。だけど、梨衣はそれなのに嫌な顔を一つせずに首を縦に振ってくれた。
梨衣がなにか言いたいのかは概ね理解していた。だからこそ、それは男である俺のセリフだと思った。今まではずっと、梨衣に言わせてしまっていたが、今回こそは俺が言うべきだろう。
「梨衣、昨日も言ったけど、俺は梨衣の存在に助けられているのは嘘じゃない。それにずっと傍にいたいって言ってくれて、俺はあの時本当に嬉しかったんだ。だから、こんな俺だけど、梨衣とずっと一緒にいたい。だから、昨日の約束を口約束じゃなくて、確かな約束にするために、一緒にペアリングを選んでくれないかな?」
「はい」
俺の言葉に、梨衣は泣きそうにながらも微笑んだ。
「梨衣は泣き虫だな」
「違うよ。これは成未くんの前だけだもん」
梨衣はそう言って、不満そうにぷくりと頬を膨らませている。
「あはは、ごめん、ごめん。そんな梨衣もかわいいって意味で言ったんだよ」
「もう、かわいいって言えば済むと思ってるでしょ? 成未くんのバカ」
「なんで、バカなんだよ? 俺は本心しか言ってないぜ」
「ふ~ん、そっか。本心なんだ」
急に梨衣が静かになり、顔を真っ赤にするのでなんだかこっちまで照れくさくなってしまう。
「いいから、早く選ぼうぜ」
俺がそう言って目の前に向き直ると、いつの間にかいた店員さんがものすごく微笑ましそうな顔でこちらを見ていた。
そして、辺りを見てそんな風に見ているのは、目の前の店員だけでなくこのフロアにいる全員だってことに気が付く。
「成未くん、私恥ずかしくて死にそう」
梨衣は梨衣で元から赤かった顔を、さらに真っ赤に染めあげて俺の胸に顔を隠してしまう。
ちょっ! ここで恥ずかしがられると、さらに他の客とかの的なんですけど。
「お客様~、ペアリングをお探しなんですよね。とってもお似合いな物がございますよ~」
店員さんもニタニタしながら接客しないでください!
結局、俺が出来たのは梨衣の手を引っ張って店から出ることだった。
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「ふんふんふ~ん」
隣から上機嫌な鼻歌を歌っている梨衣の声が聞こえてくる。隣をチラッと盗み見ると、先ほど買ったばっかりのペアリングを太陽にかざして見ている梨衣の姿があった。
結局、あの店では買えなくなった俺たちは、別のお店に入ってお互いのペアリングを購入し、交換し合っていた。そして、俺たちは公園にあるベンチで一休みしているところだったのだ。
「ずいぶんと上機嫌だな」
「だって、ペアリングが付けられるのって、こんなにも嬉しいことなんだって思えたから」
まぁ、たしかに嬉しいかも。しばらくは、この指輪を見て俺もニヤニヤしてしまいそうだと思った。
「さてと、これからどうするか」
「う~ん、ここでのんびりとしてるのも気持ちいかもね」
今は5月のため寒くもなければ暑くもない時期なので、こういう所でのんびりするには最適な時期だった。
俺と梨衣はお互いで体重を預け合い寄り添っていた。
「でも、なんか不思議な気分だなぁ~」
しばらく経った頃に、梨衣がそう口に出した。
「不思議って?」
「普通なら今頃は、学校で授業を受けている時間なのに、こんな時間に大好きな人とデートしてる。本当に不思議な気分」
「生徒会長から一気に不良生徒になったな」
「もう、そうしたのは誰よ?」
「悪かったって。本当にごめん」
こればかりは負い目があるために、なにも言い返せなかった。
「ううん、冗談だよ。ごめんね、本気にしちゃった?」
「なんだよ、冗談だったのかよ。てっきり、本気なのかと思った」
「ごめん、ごめん。たしかにこんなの学校の先生に見つかったら、一発で生徒指導室に連行よ。だけど、それ以上に今こうして君といられて幸せを感じてるの」
梨衣はそう言いながら、手を絡めてくるので、俺もその手を握り返した。
なんだろう、こうやって過ごしていると、自分が人生に絶望していたなんて嘘だったかのように思えてくる。こうして梨衣と過ごすことの幸せを知ることが出来た。どうして、もっと早く気づかなかったんだろう。自身の小説でも書いているじゃないか。俺は2年生で、梨衣は3年生だ。一緒に学校で過ごせるのはたった1年間だけ。そうたった1年間だけなのだ。それなのに俺はうじうじと過去に引きずられて、この幸せを手放そうとしたのだ。
「本当にバカだよな俺は」
「成未くん?」
俺の肩に頭を預けていた梨衣が、不思議そうにこちらを見ていた。俺はそんな梨衣の頭をなでなでと撫でた。
「うふふ、くすぐったいよ。成未くん」
「幸せだよ、梨衣」
「私もだよ。成未くん」
俺たちはどちらからともなくキスをした。今の幸せを噛み締めるように。
「それじゃあ、今度はどこに行こっか?」
「そうだなぁ~、梨衣はどこに行きたい?」
「成未くん、いつもそればっかり。成未くんはどこか行きたいところとかないの?」
俺が行きたいところか。う~ん、どこだろう。
しばらく考えた俺は結局……
「う~ん、梨衣の行きたい場所が俺の行きたいところってことで」
「まったく君は調子がいいんだから。でも、そういう所も好きなところかな」
「ん? 梨衣なんか言った?」
後半は小さすぎて、俺には聞こえなかった。
「なんでもない。それじゃあ、行こう。成未くん。せっかくの自主休講なのに、いつまでもこうしてじゃもったいないよ」
梨衣が立ち上がり手を差し出してくるので、俺はその手を取って立ち上がった。
梨衣が立ち上がる際に風が吹き、梨衣の綺麗な栗色の髪をなびかせその姿が綺麗だと思ったのはここだけの秘密。
「それじゃあ、行こうか梨衣」
「うん」
俺の言葉に頷いた梨衣は、嬉しそうに歩き出していた。
俺はそんな梨衣の姿にただただ見惚れていた。
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