第2話「凡人と天才」
とりあえず、ここまで書けていましたので2話目まで投稿させて頂きます。1話では説明しきれなかった部分もあったので、ここでさらにキャラのことを掴んで頂けたらなっと思います。
第2話「凡人と天才」
Shino。
小説投稿サイトで「マジック・マジカ~あんたなんか下僕で充分なんだからね!」を投稿して絶大な人気を集めているユーザーだった。たしか、最近ではその書籍化も決まっていたはずだ。
そんな人気作家が今俺の目の前にいた。
「でも、どうして四ノ宮先輩が俺のことを知っているんですか?」
「波瀬くんが、メガネの子と話しているのを小耳に挟んだのよ。それでもしやと思って発破をかけてみたの。そしたら、ビンゴだったってこと」
たしかに、俺と綾人の会話を聞いていれば、それとなく小説の話だということは分かるか。でも……
「……まさか、先輩が俺の小説を読んでいたなんて驚きです。それに先輩がShinoだったことについても」
「それについては、前にも波瀬くんに言ったはずよ。あなたのことが好きですって。好きな人が書いているジャンルの小説ですもの読むに決まっているわ」
「だけどじゃあ、どうして先輩が小説を? 昔はあんなに興味がなさそうだったのに」
昔、俺は四ノ宮梨衣に告白されていた。だけど、あの時の俺は心が荒んでいたし、なりよりも小説を書くことにしか興味がなかったので断っていたのだ。
その時はライトノベル的な小説は興味がなさそうな態度だったことを今でも覚えている。
「それについても前に言っているわ。あなたのことを絶対に振り向かせてみせるって」
四ノ宮先輩はゆっくりと俺に近づいてくる。俺はじりじりと後ろに下がるが、すぐに壁に追いやられてしまう。
「ねぇ、波瀬くん。私の小説は面白い?」
「ああ、面白いよすげー」
あれを初めて読んだときは、衝撃を受けた。読み込めば読み込むほどその世界観に引き込まれていった。気が付けば投稿されていたすべての話を一気に読破してしまうほどだった。
同じ魔法ファンタジーを書いていて、才能の違いをものすごく感じたほどだった。
「俺の作品とは天と地の差を感じだよ。先輩の作品を読んで天才って本当にいるんだって思ったよ。自己満足小説じゃ到底たどり着けない境地だと実感させられたよ」
「そう。なら、今度こそ私と付き合いなさい。波瀬くんは私の小説を面白いと思って読んでいた。なら、それはもう私に振り向いたって言っても過言ではないわ」
「いやいや、過言だから! たしかに先輩の作品は面白いし、ぐいぐい引き込まれるけど、それとこれとは話が別だろ」
それに四ノ宮先輩が、どうして俺にそこまで好意を寄せてくれているのかが分からない。
「だったら、どうしたら好きになってくれるの? こう言ったらアレだけど、私って結構な好物件だと思うのだけど」
「たしかに先輩は美人だし、頭もよくて人望もあって、さらには文才もあるよ。俺がどんなに頑張っても、もう一生現れてはくれないぐらいに良い女性だと思う」
「だったら……」
「だからなおさら駄目だ。俺は先輩とは付き合えないよ」
そうだ。俺みたいな奴が先輩とは付き合えない。いや、付き合っちゃいけないんだ。小説を書いているのだって……
「だから、先輩。もう、俺のことは諦め……」
……くれとは言えなかった。なぜなら、四ノ宮先輩が俺の唇を自身のそれで塞いだからだった。
え? なんで? っていうかどういう状況?
俺の頭は小パニックを起こしてしていた。先輩の唇の柔らかさとか、先輩のいい匂いのせいで、ものすごくクラクラする。
しばらくしてから、先輩は離れていった。
「ねぇ、波瀬くん」
「はっはい!」
思わず俺の声は裏返ってしまう。だって、美人な先輩からのキスのあとだぜ。裏返らないわけがない。
「私と勝負をしない?」
「勝負って?」
俺が素直に聞き返すと、四ノ宮先輩は妖艶に笑った。それが妙に色っぽくて俺はドキマギしてしまう。
「2ヶ月の期間をあげるわ。波瀬くんはその期間の間に。新作を投稿して10000ptを集めるの。それでもし10000ptを集められたら、私はあなたのことを諦めてあげる」
「もし10000ptが集まらなかったら?」
四ノ宮先輩はもう一度俺にキスをすると、にっこりと笑った。
「あなたは私の下僕になりなさい!」
なるほど、たしかにそれは分かりやすくていい……
「……って! それだと俺が圧倒的に不利なんですけ!」
なんせ、100ptの凡人作家なんでね! 天才作家とはわけが違う。
「やらないならやらないでもいいわよ。それならそれで、私の不戦勝ということで、波瀬くんには今すぐにでも下僕になってもらうから」
やらなきゃやらないで、即先輩と下僕関係に。だが、勝負を受けたところで、この凡人作家風情が10000pt集められる保障はどこにもない。というよりも勝機はかなり薄い。だけど……だけど……
「やる前からは諦められないな。四ノ宮先輩。受けるよ、その勝負!」
俺の答えを聞いた四ノ宮先輩は、満足そうに微笑むのだった。
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「はぁ~」
教室に戻るなり俺はため息を吐いてしまう。
あれからすぐに予鈴が鳴り、先輩からは解放されたのだが、先輩の目は自身の勝ちを確信しているかのようだった。
たしかに、勝ちを確信している気持ちはよく分かる。だって、普通に考えて今のptの100倍のptを稼げと言われたのだから。
「どうしろって言うんだよ」
「な~に、辛気臭い顔してんのよ。お前は一体、学校一の美少女と言われている四ノ宮梨衣先輩と生徒会室で二人っきりでナニをしていたんでしょうね?」
「なにバカなこと言ってんだよ。お前はそういうことしか言えないのかよ?」
「まぁ、こういう性分だしな。それで実際はどうなのよ? お前が生徒会室に連行されたあと、こっちはこっちでちょっとしたお祭り騒ぎだったんだからな」
「お祭り騒ぎ? どうして?」
俺の言葉を聞いた綾人はおいおいといった感じの顔をしている。
「四ノ宮先輩が成未に告白した話は、今やこの学校じゃ知らない奴はいないさ。そして、四ノ宮先輩は全男子にとっては高嶺の花みたいな存在だ。その先輩から告白されたお前は男子のとっては恨みや羨望の的なんだよ。実際のところ、先輩の告白を断ったお前を妬んでいる奴の方が多いだろうけどな。で、そのあとにも四ノ宮先輩は何回も告白を受けてるんだよ。だけど、それを成未のことを諦めてないからって理由ですべて断っている。その四ノ宮先輩が成未を生徒会室に呼び出したんだ。なにかあるって勘ぐるのは必然ってやつさ」
「四ノ宮先輩って本当にモテるのな」
俺の言葉綾人が前に突っ伏しのが見えた。
「成未、今はそんなこと言ってる場合じゃないから! そんで話は元に戻るけど、実際のところなんで呼び出されたんだ?」
俺は少し悩んだが、綾人には搔い摘んで説明することにした。
「綾人はShinoって聞いたことがあるか?」
綾人は少し考える素振りを見せたあと、すぐに口を開いた。
「たしか、オレたちが使っている小説投稿サイトで、常に上位をキープしているユーザーじゃなかったっけ? 半年経つか経たないかぐらいで、その地位を確立したユーザーだ。その文章力やストーリー構成能力はもはや天才としか言えない。それに、書籍化も決定している今目が離せない人気作家だな」
「やっぱり、しってるよな」
「でもなんで、いきなりそのユーザーの話なんだよ?」
「えっとな、実はなそのShinoの正体って、四ノ宮先輩だったんだよ」
「はっ? 成未なに言ってんの? お前ばかなんじゃないの? Shinoが書いている奴って「マジック・マジカ~あんたなんか下僕で充分なんだからね!」っていう作品だろ。あれってどう考えたって男が書いているようにしか思えないだろ」
「俺だって最初は耳を疑ったよ。あの生徒会長がまさかのあの作品の作者って今でも信じらんないし」
どうしたってSの生徒会長から、あの作品が生まれているなんてまったくイメージが湧いてこないし。
「それで意外な事実が発覚したわけだけど、話はそれだけじゃないんだろ?」
本当にこいつはなんでこういうことは鋭いんだ。
「まあな。実は先輩から勝負を挑まれた」
今度こそ、綾人の目は点になっていた。まるで、頭おかしいんじゃないのと言いたそうな目だった。
俺はそんな綾人に追い打ちをかけるように勝負内容の説明をした。
「お前が、10000pt? そんなバカな勝負受けたのかよ? なぁ成未、お前の実力じゃ、10000ptなんて夢のまた夢だろ」
「分かってるよ。だけど、やらないわけにはいかないさ」
「でも、正直な話。オレだったら、あえて負けて先輩の所有物になっちまうけどな。だって、先輩と付き合えたら毎日がハッピーライフを送れそうじゃん」
「そんな簡単な話じゃないだろう」
なにはともあれ、四ノ宮先輩との勝負は受けてしまったのだ。だったら、俺は凡人作家ができる最高の話を書けばいいんだ。
新たな決意をしたところで本鈴が鳴ったため、俺は自分の机に戻った。
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