第17話「最悪の再開」
第17話目になります。またまたシリアスな展開が続いてしまいますが、楽しんで頂ければと思っております。
第17話「最悪の再開」
「……綾人」
画面の中には綾人が映っていた。どうして綾人が?
『成未くん、その動画に映っている隣の男は、結構有名な動画投稿者みたいなの』
綾人にそんな知り合いがいたなんて思わなかった。
俺と梨衣が不思議に思っていると、画面の中の綾人が口を開いていた。
『どうも、こんばんは! オレはアレーニって言います。今日、このpecoさんの動画にお邪魔させてもらってるのは、動画を見ている皆さんにお願いをしたいことがあるからなんです』
綾人が言うと、隣にいたpecoと呼ばれた投稿者の男は「え~、なになに~?」と盛り上げている。
『実はオレ、アレーニの名でネット小説を書いてるんですけど、ちょっと込み入ったっ事情で、残り1ヶ月で新作でptを10000集めないといけないんですよ。なので、興味がある方は、この動画説明欄にURLを貼っていくのでよろしければそこから飛んで見てください。そして、出来たらで良いので、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いしま~す』
綾人はそう言って言葉を締めくくった。
動画はまだ続いていて、pecoが「僕もこいつの小説を読ませてもらいましたけど、中々面白いんですよ。イケメンで文才があるってある意味ずるくないですか?」とのコメントを添えている。しかも、綾人がそう言った瞬間、動画のコメント欄には相当数の書き込みが増えていっている。
やられた。俺は素直にそう思った。
『成未くん……』
電話越しには梨衣の不安そうな声が聞こえてくる。
以前、俺は宣伝活動をするためにSNSを始めた。その効果は始める前と始めた時とでは大きな差が出るぐらいに効果を残していた。そして、俺はそれで良いと思っていた。しかし、綾人はさらに上をいったのだ。
この動画投稿は、昨今の世の中では欠かせない娯楽の一つになりつつあった。おバカな動画を上げる者、ゲームの実況をしてその動画を上げる者。そして、商品のレビューを動画にして上げる者など実に様々な動画が上げられている。そして、それは年齢層問わずに多くの視聴者を獲得していた。そして、綾人はそこを突いたのだ。要は人気の動画投稿者と組めば、少なからずの恩恵が得られるのだ。まさか、綾人にこんな隠し玉があるとは思ってもみなかった。
「くそやられたよ」
『成未くん、大丈夫?』
「ああ、大丈夫だ。しかし、綾人がこんな隠し玉を持っていたなんて驚いたよ」
『うん、それは私も驚いた。でも、大丈夫。だって、私の成未くんがあんな男に負けるわけないもん』
またこの人はそういうことを言う。
「そう言えば、前から気になってたんだけど、梨衣って綾人には当たりが強いのはなんでなんだ?」
『それは、いつも私を見る時にいやらしい視線を向けてくるんだもん。成未くんなら良いけど、他の人に向けられるのは嫌なの。だから、私この男のこと好きじゃない』
おっおう。そうだったのか。綾人の奴、梨衣のことをそんな目で見てたのか。マジであいつ許すまじ。絶対にこの勝負は負けてやんねぇ!
『それで、成未くん。一つ相談があるんだけど』
「ん? 相談?」
梨衣からの相談ってなんだろう。
『えっとね、成未くんの小説と私の小説のクロスオーバーを書いたらどうかなって思ったの』
クロスオーバーとは、同じ設定を持ったままそのキャラが、別の作品に登場すること言うのだが。
「う~ん、それはなんか違う気がするな。たしかに梨衣の作品の主人公とヒロインがどういう風な普通の学園生活を送るのかは気になるところではあるけど」
たしかに、梨衣の作品とのクロスオーバーとなればそれなりに注目は集めるだろう。だけど、それはなにかが違う気がする。
『じゃあ、どうするつもりでいるの?』
それな。まったく解決策が思いつかない。
『はぁ~、本当に君は。もうしょうがないな。とりあえず、私の所でも成未くんの小説をオススメ小説ってことで紹介しておくね。それなら、問題ないでしょ?』
「ああ、助かるよ。むしろ、それだけでも結構な効果が出ると思う」
『もう、最初から私にそうさせるつもりだったでしょ?』
「ぐっ……なぜバレた?」
たしかに、最終的には梨衣の小説の所に、ちょこっとURLを貼らせてもらおうとは思ってたけど、バレてるとは思わなかった。
『分かるよ。君のことならなんでも。それに、成未くんは私を信用してあの話をしてくれたんでしょ?』
あの話とは俺の過去の話のことか。
「まあ、梨衣になら話してもいいかなって思えたんだ」
『そっか。ありがとう成未くん。私を信頼してくれて。だったら、これからは私が君のことを守るから』
「守るからって、それは男としてはどうなんだ? なんだか情けないんだけど」
『年下を守るのは年上の役目だよ。いいから、そこは黙ってお姉さんに守られておきなさい』
お姉さんか。たしかに梨衣みたいな姉がいたらうらやましいかもな。
「ありがとう、梨衣」
『ううん、これは彼女である私の特権だから。ああ! 成未くん小説を書いている途中だったんだよね。ごめんね、こんな長電話しちゃって』
「いや、良いよ。綾人のことを教えてくれたのは素直に助かったし、なんだか梨衣の声を聞くとものすごく安心する」
『ふふ、そう言ってくれて嬉しい。それじゃあ、おやすみ成未くん。また明日学校でね』
「ああ、学校で」
そう言って通話を切る瞬間、「大好きだよ」と聞こえたのはきっと気のせいじゃないだろう。
「続き、書くか」
俺は未だに流れている動画を消すと、自分の作業に戻っていった。
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動画の配信が行われてから1週間が経とうとしていた。
綾人は結局、あれから学校に来ないってことはなくちゃんと登校していた。しかし、以前のように俺との会話はなかった。
そして、綾人のptは公開1週間で、すでに4000ptを集めていた。俺が昨日やっと5600ptを上回ったので、ものすごいペースである。
そして、綾人はあれからもちょくちょくと動画に出ているそうで、そこで宣伝活動を続けているそうだ。しかも、反響も良くらしく地味に女性ファンも付き始めているのではないかと噂されていた。
俺はどうすればいいのだろうか? このままだと本当に負ける。だけど、こっちには梨衣がついている。
梨衣の小説にURLを貼ったら、そこでもPv数は稼げていたのでまだ望みはある。
やはり、天才は天才だったということか。けど、俺は綾人にひと泡吹かせてやるって決めたんだ。こんなことで負けてたまるか。
「……くん」
梨衣を綾人に渡すもんか!
「成未くん!」
「うわっ!」
気が付いたら、梨衣の顔がすぐ目の前にあって驚いてしまう。
「もう、やっと気づいてくれた。私の話ちゃんと聞いてた?」
「えっ? 話?」
話ってなに? まったく聞いてなかったんだけど。
「やっぱり、聞いてくれてなかったんだね。あのね、今日の放課後に生徒会の仕事が入っちゃったから先に帰ってても良いよって言ったんだけど」
なんだ、そんなことか。なら、答えは決まっている。
「いいよ、いつも通り正門で待ってるよ」
「えっ、でも遅くなるかもしれないから成未くんに悪いよ」
「別に梨衣が悪いって思うことはないさ。俺がそうしたいから、そうしてるだけなんだし」
「成未くん」
「梨衣」
俺と梨衣は思わず見つめ合ってしまう。
「お~い、そこの二人。ところ構わずイチャつくな」
そんな俺たちには、松井先輩の厳しいツッコミが入るのだった。
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いつもと何ら変わりない学校の日課が終わると、俺は1年4組に向かった。
「咲姫いるか~」
俺が1年4組のクラスに顔を出すと、咲姫がものすごい顔でこちらを睨んでいた。んな、睨まなくても良いのに。お兄ちゃんは悲しいぞ。
咲姫は俺のところまで来ると、ささっと失せなさいよ的な態度を出してくる。
「えっと、今日は梨衣と帰るから。なにか買い足す物があったら買ってくるけど」
「そんなのメールかなんかで聞けるでしょ。一々咲姫のとこまで来て確認しなくていいから。買い足す物はあとでメッセ入れとくから、お兄はとっととどっか行って」
もう話すことはないと言うように咲姫は、中に戻って行ってしまう。
なんだよ、家だともうちょい会話があるじゃんか。
俺はショックを受けながらも、梨衣との待ち合わせ場所である正門に向かった。
正門で梨衣が来るのを待っていると、「あの~」と声をかけられる。
「はっはい」
俺は声のした方に振り向いて固まってしまう。目の前にはそれなりに着飾った一人の女性が立っていた。
「久しぶりね、成未」
「かっ母さん」
俺はいきなりの出来事に戸惑ってしまう。どうして、母さんがここに?
「ずっと会いたいと思っていたわ」
「俺は会いたくなかったよ」
「あら、実の母親に向かって、ずいぶんと寂しいことを言うのね」
わざとらしく言う目の前の女性に俺は苛立ちが募っていく。
「今更、なにをしに来たんだよ?」
気が付いた時には、俺はそう声に出していた。出来れば関わりたくはないが、ここでこの人をないがしろにも出来ないのも事実ではある。
「決まっているでしょう。あなたを連れ戻しに来たのよ。愛しの成未」
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