第16話「鹿島綾人の猛攻」
第16話目になります。今回も楽しんで頂ければと思っております。
第16話「鹿島綾人の猛攻」
あれから、2時間目もさぼった俺と梨衣は3時間目からは普通に授業に顔を出していた。
教室に戻るとそこに綾人の姿はなかった。
「なぁ、委員長。綾人の奴はどうしたんだ?」
「あなたねぇ、まずは自分でしょう。あなただって、1時間目も2時間目も出ないでどこにいってたの? それに顔にも怪我をしてるじゃない」
委員長である久野に聞いたのは間違いだったか。俺は逃げようとするが、委員長はそれを見逃さなかった。
「ちょっと用があったんだよ。それに、顔の怪我についてはもう問題ない。ちゃんと手当て済みだよ」
「なら、良いけど。鹿島くんならもう早退したわよ」
「はっ? 早退?」
「ええ、なんだか気分が悪いとかで、1時間目を受けないですぐに帰ったわ」
綾人が? どうしてわざわざ仮病なんて使って帰ったんだ?
「波瀬くんが知らないなんて意外ね。あなたたち、朝のホームルームすら顔を出していなかったから、てっきり2人一緒にいたのかと思ったけど。はっ! まさか! 2人は出来ていてすでに行為の結果が……」
「はーいストップ! 妄想はそこまでにしておこうか。俺と綾人はそんな関係じゃないから。委員長がハァハァ出来る関係になってないから!」
これがなければ、この組の委員長は良い委員長と言えただろう。しかし、この委員長には最大の欠点である悪癖がある。それは、男子がよろしくやっていると、すぐにそっちの方に妄想を始めるのである。困ったもんだ。
「あら、そうなの。それは残念ね。うちのクラスだとそういうCPだと一番鹿島くんと波瀬くんが映えそうなんだけど」
「CP言うな!」
CPとはカップリングの略でオタの間でよく使われる言葉だ。要は、キャラとキャラのカップルを表す言葉で、オタの間ではこのCP好きなんだ~とかで使われている。ちなみに、このCPは男×女はもちろん、男×男でも女×女でも使われている。説明するまでもないが、今委員長が言っているのは、無論、男×男のことでつまりBL的なことを考えているということだ。
勘弁してくれ、俺にはそっちの気はないし、今さっき彼女だって出来たばかりだ。変な誤解は生みたくない。
「あら残念。なら、また今度の機会にするわ」
「今度の機会もあってたまるか!」
たまに委員長のあれが爆発するので、用心しておかなければいけない。前も被害にあって大変な目にあった覚えがあった。
委員長が腐女子だと知ったときには、なんとも言えない衝撃があった。だって、そんな風に全然見えないし。だからと言って、俺は委員長のことを嫌っているわけでもなかった。ただ、俺と綾人での妄想を少しは控えてほしいとは思うが。
俺はそう思いながらも席に戻った。本当に綾人の奴はどうしたって言うんだ。たしかに俺と綾人は喧嘩したが、それを理由に早退なんかするか?
『天才と凡人の絶対的な差を見せてやる』と言っていた。
綾人の考えてることが分からない。だけど、あいつが本気を出したというなら、俺はそれを超える本気で綾人のことを迎え撃つだけだ。
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それから時間があっという間に過ぎ去り、昼休みになっていた。
俺は一度伸びをすると、生徒会室に向かおうと席を立った。
今日は梨衣がお弁当を持ってきてくれると言っていたので、今日はお昼を持ってきていなかった。
そう思っていると「成未くん」と言う声が聞こえてきた。声の方に振り向くと、そこには息を切らした梨衣が立っていた。
「梨衣、どうしたの?」
俺は梨衣に駆け寄ってそう声をかけた。
「成未くん、大変なことになっちゃたよ~」
梨衣は瞳に涙をためてそう言ってきた。
「大変なこと?」
「とにかく来て!」
俺は梨衣に連れられるがまま、生徒会室にやってきていた。
「それで大変なことって?」
「とりあえず、これを見て」
そう言って渡されたのは、梨衣のスマホだった。言われた通りに見てみると、そこには俺の寝顔が映った画面が表示されていた。
「えーと、これについて梨衣は説明してくれるの?」
「はわわわ! それは違うの!」
梨衣の慌てっぷりは見ていてかわいいと思ったが、さっきの画像のことはあとで聞くことにして……
「それで本当はなにを俺に見せようとしたんだ?」
「うん、本当はこっち」
梨衣は顔を赤くしながら、今度は入念にチェックしてから、俺にスマホを差し出してきた。
俺はそれを受け取って画面を確認した。
これは俺たちが普段使っている小説投稿サイトだな。それがどうかしたのか?
俺が不思議に思って見てみると、そこはとあるユーザーの小説が表示されていた。
『アレーニ』ってたしか綾人のユーザー名じゃなかったか。ってことは、これは綾人の書いている小説ってことだよな。
「投稿日を見てみて」
投稿日って……はっ? 10話投稿されていて、投稿されたのがすべて今日の日付になっていた。
「綾人の奴、まさか今日1日でこれを書きあげてあげったっていうのかよ?」
綾人が早退したのはこれが理由か。あいつはガチで俺を潰しにかかるつもりだ。それに、梨衣も手に入れようとしている。
「多分、これはすべて今日書いたものじゃないと思う」
梨衣の言葉に俺は首を傾げてしまう。
「平均の文字数を見る限り、とても10話全てを今日1日で書けるとは思えない。それに、10話全て同じ時間帯に投稿されているわ」
それはつまり、綾人は最初からこうするために用意していたってことか。でも、なんのために?
「まさか、綾人は本気で……」
「成未くん」
梨衣が俺に寄り添ってくる。
「大丈夫さ、俺は絶対に綾人には負けない」
俺は梨衣を安心させるようにそう言った。
だけど、実際はどうしたものか? 綾人は天才だ。俺と違って実力がある。今のペースでいかれたら、本当に俺のptを越してくるだろう。
こっちもうかうかはしていられないか。結局、梨衣との勝負はなくなったが、10000ptに届くように書いていかなければいけないということだ。
綾人、お前は本当になにを考えてるんだ? 本当に梨衣を手に入れるために、俺を圧倒的な差で潰すつもりなのか?
でも、だとしたら、俺がやることは一つか。
「梨衣、綾人に勝つために協力してくれないか?」
「そんなの喜んでだよ」
梨衣はそう言って、微笑み俺の頬にキスしてきた。
「私でよければいくらでも協力するよ。だから、頑張って成未くん」
「ああ、勝ってやるさ」
「あの~、お二人さん。そろそろあたし入ってもいいかな?」
「「はっはい!!」」
俺と梨衣は慌てて離れた。まさか、松井先輩に見られてるとは思わなかった。俺と梨衣は誤魔化すかのように、席に着いた。そんな俺たちを松井先輩は微笑ましそうに見ていた。
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放課後になり、俺は咲姫の帰りを待っていた。今日は一緒に買い出しを行く約束をしていたのだ。
しかし、本当にどうしたものか。綾人は本気で俺を潰す気でいる。そして、俺は本気の綾人を今までに見たことがなかった。
あんなふざけた奴がネットでは一応人気作家として活動している。そんな奴が本気を出した。うん、俺相当やばいな。これはマジでやばい奴だわ。
ちょっと語彙力がアレになってはしまったが、推測だけで見ると、俺はかなり不利な状況と言うことだ。
「なーに一人で黄昏てるの?」
「うおっ! 来てたのか咲姫!」
気が付いたら、咲姫がいてこちらをジト目で見ていた。
「うん、来てた。だから早く行こうよ、お兄」
咲姫は俺の手を取って歩き出してしまうので、俺も咲姫に続けて歩き出す。
とにかく、今は考えていてもしょうがない。だったら、今出来ることを全力をやるだけだ。
「お兄、さっきから本当に気持ち悪いよ」
「咲姫はさっきから、俺になにか恨みでもあるのかよ!」
俺の叫びは虚しく四散しただけだった。
それから、咲姫と一緒に夕飯の買い出しを終えた俺は、食事当番だった咲姫に夕飯を任せると、風呂に向かった。
なんだか、こういつもの日常に戻ると朝の出来事が嘘みたいだった。綾人と殴り合いの喧嘩をして、綾人に小説勝負を挑まれて、さらには梨衣と恋人同士になった。本当に夢みたいな話だ。
「俺は人生に絶望したはずじゃ?」
そうだ、俺は人生に絶望していた。しかし、その絶望を塗り替えてくれたのが梨衣だった。
今度、本当にお礼をしなきゃいけないな。
俺はそう考えながら、頭を洗うために熱いお湯を浴びた。
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夕飯を食べ終えた俺は、すぐさま自室に籠って、原稿を進めていた。綾人が本気を出している以上、こっちも生半可なことは出来ない。
俺が原稿の見直し作業をやっていると、スマホが震えた。どうやら、梨衣から着信が入ったようだ。俺は見直しを中断すると、それを耳に当てた。
「もしもし」
『成未くん大変だよ!』
通話を繋げるなり、梨衣からは緊迫した声が発せられた。
「梨衣? どうした?」
『成未くん、パソコン点いてる?』
「ああ、点いてるけど」
『じゃあ、今から私が言うサイトを見て!』
梨衣に指定されたのは、世界的に有名な動画投稿サイトだった。近年ではそれでお金を稼ぐ人も出てきているのだと言う。
「ああ、開いたぞ」
『そこで今生配信されている動画を見てみて!』
梨衣に言われた通り、俺は今現在で生配信されている動画をクリックして、その動画を再生した。そして、固まることになった。そこには……
「……綾人」
画面の中には綾人が映っていた。
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