第14話「鹿島綾人の問い」
第14話目になります。この回も楽しんで頂ければと思っております。
第14話「鹿島綾人の問い」
それからすでに3週間が経過していて、先輩との勝負の期限も残り1ヶ月となっていた。
ここまでで俺が獲得しているptは4000ptとなっていた。宣伝効果や、先輩と出かけている経験でよりリアルな話に小説も書けているので、それが結果につながったのであろう。ツイッターでの反応も上々で、感想なども結構もらっていた。あの時の俺から考えるとものすごい評価だった。だけど、これじゃまだ足りない。目標の10000ptまでは届かない。
俺が頭を悩ませていると、スマホが着信を告げた。
なんだと思い無料通話アプリを開くと、そこには先輩からメッセージが届いていた。
『成未くんおはよう。また、お昼休みに一緒にご飯食べようね♡』
アドレス交換をしてからはずっとこうだった。先輩は事あるごとに俺にメッセージを送ってきていた。嫌か嫌じゃないのかと言われれば、嫌ではないのだがなんだかこそばゆい感じがする。
『はい、また昼休みになったら生徒会室にお邪魔しますよ』
出来れば行きたくはないのだが、じゃないと松井先輩に強制連行されそうなのでそう返しておく。
はぁ~、本当にどうすればいいんだよ。
「な~に、頭を抱えてるんだよ? ま~た、彼女のことで悩んでるのか?」
「おい、綾人。お前、わざと誤解を招くようなことを言ってないか?」
「はは、まっさかー! んなわけないだろ」
ケラケラ、笑っている綾人を見る限り絶対にわざと言ったのだろう。
「ああ、成未。ちょこっと話があるから顔を貸して」
「ん? 話ならここでじゃ駄目なのか?」
「ああ、お前のためにもここじゃない方がいいだろうな」
そう言った綾人の様子が、いつもの様子と違っていたように思えたので、俺は素直に綾人の言葉に従った。
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場所は移って屋上。俺は綾人に連れられて、ここにやってきていた。
「そういや、小説4000ptになったんだな。前の成未からは考えられないぐらいの伸びだよな」
「ああ、ありがとう。俺も正直驚いてるよ。先輩と成り行きで勝負することになっちまったけど、まさか、あそこまで伸びるなんて思ってもみなかった」
俺と綾人は屋上のフェンスに寄りかかりながら話をしていた。
「それで、成未はどうするつもりでいるの?」
「どうするつもりって?」
「そりゃあ、四ノ宮先輩とのことだよ。勝負に負けたらお前、四ノ宮先輩と付き合うことになるんだろ? そうしたら、お前は男子全員の敵になるわけだ」
「やめてくれよ。そんなことになったらマジで俺の平穏なスクールライフはなくなるだろが」
「はは、違いないね。でも、お前的には四ノ宮先輩のことどう思ってるんだよ?」
どう思ってるか。そんなの決まってる。
「好きだよ。どうしようもないぐらい」
これが俺が先輩と初デートをして自覚したことだった。
「なら付き合っちゃえば良いのに。四ノ宮先輩もお前のことが好きなんだろう。相思相愛なわけじゃん。それなのに、お前がどうして四ノ宮先輩の告白を断って、こんな回りくどいことをしてるのか、俺には未だに理解できないんだよな」
たしかに綾人の言う通りなのかもしれない。だけど、俺は。
「俺は勝負に負けたとしても、先輩とは付き合うつもりはないよ。綾人は俺の過去を知ってるだろ。それに、俺がどうしてネット小説を始めたのかも。そんな俺が先輩と付き合う資格もないよ」
そう言って、俺は教室に戻ろうとしたがそれは叶わなかった。なぜなら、綾人に胸倉を掴まれ、フェンスに押し付けれたからだ。
ガシャンと大きな音とともに、俺の背中にも痛みが走るが、そんなことは気にならないぐらいに綾人の行動の意味を理解しかねていた。
「いきなり、なにすんだよ綾人」
俺は綾人をにらみ返していたが、綾人も同じで俺のことを睨んできていた。
「お前、まだそんなふぬけたことを理由にするのか?」
今まで聞いたことがないぐらいの低い声で綾人が俺に聞き返してくる。
「お前にどう言われようと、俺の答えは変わらない。俺は先輩と付き合うつもりはない」
「ざけんじゃねぇよ!」
いきなり綾人が怒鳴ったかと思えば、左頬に鋭い痛みが走り俺は吹っ飛ばされた。
綾人に殴られてと理解するのに時間はかからなかった。
「お前、本当にふざけんなよ!」
綾人は寝っ転がっている俺の胸倉を掴み直すと、至近距離で叫んだ。
「お前、分かってんのか? 四ノ宮先輩と付き合えるって簡単なことじゃねぇんだよ!
今まで何人の奴が告って駄目で、また四ノ宮先輩の気持ちがお前にしか向いてねえこと知って諦めた奴がいるのかお前は知ってるのかよ! なのに、当のお前はそんなふぬけたことを抜かしてやがる! 見ていて、聞いていて本当に反吐がでんだよ」
「お前……まさか……」
「ああ、四ノ宮先輩のことが好きだよ。ここに入った時からずっと、ずっと」
やっぱり、そうだったのか。なんとなく、綾人が先輩のことを好いているのではないかという気はしていた。しかし、俺は俺で自分のことに必死で綾人のことを気にしてやる余裕がなかった。これはそんな俺に対する報いなのかもしれない。だけど。
「ぐだぐだうるせえんだよ!」
俺はお返しとばかりに、綾人の頬に右ストレートを放った。
「お前が梨衣先輩のことをどうしようもないぐらい好きだってことは分かったよ。だけどな、じゃあそう言うお前はちゃんと梨衣先輩に告白したのかよ! 気持ちを伝える前からそんなぐだぐだと弁を並べてんじゃねぇよ!」
「仕方ねぇだろ! オレが好きな人はオレの親友を好きになったんだ! だったら、そんな二人の恋路を応援するしかねぇだろが! それなのに、お前はいつまでも過去のことを引きずって、うだうだとやってる。そんなこと許せるわけがねぇだろうが!」
「自分の気持ちを伝えないで、偉そうに弁を並べる奴にだけに言われたくねぇよ。悲劇の主人公気取りかよ!」
「ああ、奇遇だな。オレも同じことを思ってたよ。いつまでも過去を引きずって、現実から逃げてお前こそ悲劇の主人公気取りかよ!」
気が付いたら、俺たち二人は地面を蹴って走り出し、お互いで殴る蹴るの喧嘩に発展していた。
今思えば綾人との喧嘩なんてこれが初めてだったかもしれない。
そして、俺たち二人の喧嘩は「やめなさい! 二人とも!」という声が響くまで続いていた。
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「やめなさい! 二人とも!」
その声が響いて、俺はハッとする。その声はもう聞きなれてしまっていた声だったから。
「学校で喧嘩なんて、生徒会長としてこの私が許しません!」
たしかに生徒会長としてはあってるんだろうけど、そこは普通に風紀委員とかが出てくるところじゃないの? 見る限りでは先輩一人のようだ。しかし、呼吸を荒くしているところを見ると、急いできたのがよく分かった。
「どうして生徒会長自ら喧嘩の仲裁に? 普通、喧嘩の仲裁は風紀委員の仕事なのでは?」
しかし、綾人はそんなことはお構いなしに、そう先輩に聞いている。
「生徒から屋上で喧嘩している生徒がいるって、話を聞いて駆け付けたのよ。鹿島綾人君」
「それは失礼いたしました。生徒会長」
「それでどうして喧嘩していたのか説明してくれるわよね?」
先輩は俺の方を見ながらそう聞いてくる。
「それは……」
まさか、先輩のことで喧嘩していましたなんて、素直に言ってもいいものなんだろうか?
俺が答えに詰まっていると、その質問にも綾人が答えていた。
「すみません、実は四ノ宮先輩のことで喧嘩をしていました」
「えっ? わっ私のことで⁉ どうしてそんなことを?」
「それはこのバカが、過去を引きずっていつまでもうだうだとやっていたからですよ」
「成未くんが過去を引きずっている?」
「ええ、成未は四ノ宮先輩の告白をずっと断っているのは、過去に囚われているからなんですよ」
「おい、綾人!」
「なあ、成未。オレと一つ勝負をしないか?」
「勝負だと?」
「オレはこれから新作を一本完成させる。それをネットにあげて、成未が四ノ宮先輩と勝負している期間の間に、オレがお前のptを越すかの勝負だ」
「はっ? 綾人、お前それ正気なのか?」
今から新作を一つ書いて、なおかつあと1ヶ月足らずで、俺のptを越す? 無理な話ではないだろうが、そんなの難しい話だろう。
「ああ、もちろん正気だよ。天才と凡人の絶対的な差を見せてやるよ。そして、もしオレが勝ったら四ノ宮先輩、こんな過去しか見てない男を諦めてオレと付き合ってください」
「おい、綾人。梨衣先輩を巻き込むなよ!」
「なら、お前は付き合う気があるのか? 付き合う気がどうしてもないって言うのなら、別にオレが四ノ宮先輩と付き合うことになったとしても、関係ないよな?」
たしかに、綾人の言うことは間違ってはいない。むしろ、正論だ。だけど、だけど。
「分かったわ。成未くんがその勝負に負けたら、私はあなたと付き合うわ」
「ちょっ梨衣先輩! なに言ってるんですか?」
本当に先輩はなにを言っているんだ? そんなこと軽々しく言っていいことでもないだろう。
「ありがとうございます、四ノ宮先輩。これでオレにもやっとチャンスが回ってきましたよ」
綾人は先輩に一礼すると、屋上から立ち去ってしまう。屋上に取り残された俺と先輩はしばらくの間無言でいたが、俺から口を開いた。
「梨衣先輩、どうしてあんなことを言ったんですか?」
「成未くんは負けないもの」
はっ? いやいや、先輩は俺を過大評価しすぎだ!
「成未くんは負けない。だって、私の成未くんだもん。絶対にあの男に勝ってくれるって、私は信じてるもん」
ったく、どうして先輩はなんの迷いもなくそんなことが言い切れるんだろう。俺はそんなにすごくもないし、むしろ空っぽな人間だと言うのに。そんなこと言われてしまったら、俺だって覚悟を決めるしかないじゃないか。
思い返せば、いつも先輩は俺のことをそうやって逃げ道をなくして、最後にはやる気にさせてしまうんだ。今だってそうだ。
だから俺は、先輩の目を見てしっかりとこう言ったのだ。
「梨衣先輩。聞いて欲しい話があります」
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