第13話「デート・続」
第13話目になります。今作をお楽しみ頂ければと思っております。また、本日21時には14話目も投稿いたしますので、そちらの方も引き続きよろしくお願いいたします。
第13話「デート・続」
あれから服を買い終えた俺と先輩は、フードコートで一休みしているところだった。結局、先輩は俺に買ってもらうのは悪いと言ってきたのだが、なんとか押し切って一着だけは買わせてもらった。男としては三着全部買いたかったのだが。
「もう、どうして君は恋人同士じゃないって言う割には、こういうことをしたがるかな?」
対して先輩は少し困ったように笑った。
「だから、日頃のお礼をと思って。俺、梨衣先輩と勝負しているのにも関わらず、梨衣先輩には助けてもらってばかりだったからさ」
「そんなの気にしなくても良いのに。私が好きでやってることなんだしさ」
先輩はそうは言ってくれているが、やはりそういうわけにもいかないだろう。毎週、土日になると家に来てご飯とか作ってくれているんだし。
「でも、そんなところも好きだよ」
「えっ?」
先輩の呟きは小さすぎて、周りの喧騒に掻き消され俺には聞こえなかった。
「ううん、なんでもないよ!」
慌てて先輩は誤魔化しているが、本当になんだったのだろうか?
「それよりも、次はどこに行こうか? さっきは私の行きたいところに行っちゃったから、今度は成未くんの番だよ」
先輩はそう言ってくれるが……
「特に行きたい場所ってないんですよね。本屋とも思ったんですけど、なんだか違う気がするし、ただ気分転換がしたかっただけみたいです」
「もう、かわいい彼女とのデートなのにそんな言い草はないんじゃない?」
「だから、もう何度も言っている通り俺たちは恋人同士じゃありませんよ。梨衣先輩もこりませんよね?」
「成未くんがOKしてくれるまでずっと言い続けるつもりだけど」
さも当然でしょみたいな言い方をされても困る。そもそも、本当にどうしてこの人が、こんな俺を好いてくれるのが未だにまったく理解できない。
「それで、梨衣先輩はどこか行きたいとかないんですか? 俺は梨衣先輩が行きたいところに付き合いますよ」
「まったく、君は。それじゃあ、とことん今日は私に付き合ってもらおうかしら」
「はい、喜んでお付き合いしますよ」
俺がそう言うと、先輩は手を差し出してきた。俺はそれで先輩の意図を察しった。俺は立ち上がると、先輩の手を握った。
今日は俺が先輩のことを守らなきゃだもんな。
「それじゃあ、改めて行こう成未くん」
先輩はそう言うと俺を連れて歩き出した。
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そうして連れてこられたのは、このショッピングモールの中に入っている映画館だった。
「成未くん、一緒に映画を見よ」
「今からですか?」
「ええ、今からよ。デートと言ったら、映画を見るのは定番じゃない!」
「たしかにそうかもしれないですけど。一体、なにを見るつもりなんですか?」
「もちろん、恋愛映画よ」
ああ、そうなんだ。
映画の上映スケジュールを見ると、ちょうどその先輩が言っていた恋愛映画がやるところだった。
「うん、ちょうどいいわね。成未くん、これを見るわよ」
「はい」
俺はチケットを買ってくると、先輩に渡した。先輩は先輩でその間にジュースを買ってきてくれていたようだ。
「ありがとう、成未くん」
「梨衣先輩もありがとうございます」
俺はジュースを受け取り、先輩と一緒に係員にチケットを渡すと中に入って行った。
結論から言うと、その映画は良作で見て全然後悔しなかった。むしろ、自分の小説にプラスに出来るような気がした。
「面白かったね、成未くん」
「ええ、良い刺激になりましたよ。これで少しは自分の小説に生かせそうです」
「ならよかったかな」
先輩は嬉しそうに笑っている。
「これで少しは成未くんにお返しできたかな?」
「別にお返しなんて。むしろ、俺が返さないといけなかったのに」
「でも、小説のネタにはなったでしょ?」
「ええ、かなりいい感じの話が書けそうです。梨衣先輩、本当にありがとうございます」
「いえいえ、私も楽しかったからいいよ。成未くんも楽しんでくれたかな?」
「ええ、楽しかったですよ」
俺がそう答えると、先輩は俺に抱き着いてくる。
「だから、またデートしよ?」
俺の胸の中でそう呟くのだからやっていられない。
「責任取ってくれるんでしょ?」
さっきのことを言っているのだろう。ったく、責任取ってくれるんでしょって、女の子が言っていい言葉じゃないだろ。しかも、そんなこと言われたら俺は逃げられないだろう。
「分かりましたよ。。俺とまたデートしてください」
俺がそう答えると、先輩はえへへと微笑み「ありがとう、成未くん」と呟いていた。
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それから俺たちは帰路についていた。
「成未くん、今度はどんなお話にするか決めたの?」
俺たちは家に帰りながら、俺の小説の話をしていた。
「うーん、そうだな。きっと、今日あったことを元にして話を組み立てていくと思う」
「それは楽しみだなー。早くそのお話読んでみたいな」
先輩は俺と手を繋ぎながら、手をぶんぶんと軽く振り回している。
「ええ、最高に楽しい話を書きあげますよ」
「ふふ、言うね成未くん。でも、成未くんなら大丈夫。絶対に面白いお話が書けるよ」
先輩が言ってくれているのだ。絶対にこの経験を無駄には出来ないと俺は思った。絶対に今日あったことを上手く吸収して小説に生かしてみせる。
それからはお互い無言だったが、繋いだ手からは先輩の体温や優しさが流れ込んできているみたいで、そんな沈黙もどこか心地よいものだった。
なんだか、こんな時間がずっと続くような錯覚に俺は陥りそうになってしまうが、幸か不幸か、その夢の時間は終わってしまう。いつの間にか、先輩の家についていたようだ。
「もうここで大丈夫だよ、成未くん。わざわざ、送ってくれてありがとね」
「今日は俺が絶対に梨衣先輩を守るって約束しましたから」
先輩は、最初は俺の言葉にパチクリと驚いていたが、次第に顔は赤くなり顔を俯けてしまう。
「本当に君はずるいんだから」
先輩の呟きは俺の耳には入ってこなかったが、気が付いた時には俺の唇に知っている柔らかい感触と熱があった。
キスされているのだ。先輩に。
「デートの終わりには、さよならのキスは初デートの定番でしょ?」
顔をさらに真っ赤に染めあげて、そう言う先輩の姿はなんというかとても愛おしいものだと思った。だから、俺は思わず先輩のことを抱きしめたい衝動に駆られてしまうが、
すんでのところで、その衝動を理性で押しとどめた。
俺が先輩にそんな感情を持ってはいけないんだ。だって俺は……。
「成未くん、また明日学校でね!」
俺がどうにも出来なくて固まっていると、先輩は恥ずかしく耐えられなくなったのか、顔を真っ赤に染めあげたまま家の中に入って行ってしまう。
「梨衣先輩、また明日です」
俺はすでに中に入ってしまった先輩に向けて言っていた。
くそ、やっぱり俺は先輩のことがどうしようもないぐらい好きだよ。
初めて自分の気持ちを素直に認めたかもしれない。でも、だからこそ俺は先輩と付き合うわけにはいかなかった。
「だったら、俺の出来る限りの全力で書いた小説で、10000ptを集めるしかねぇよな」
俺は決意を新たにすると家に向かって歩き出していた。
大好きな先輩のために、なんとしても10000ptを集めるしかなかった。だって、それが俺が先輩と付き合わないための唯一の手段なのだから。
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「今日は楽しかったなぁ~」
梨衣は湯船に浸かりながら、今日のことを思い出していた。
今思えば成未とこうして出かけるのは初めてだったかもしれない。
「今日1日で、色んな成未くんを見れた。うふふ、やっぱり成未くんはかっこかわいいんだね。それに……」
……梨衣先輩のことは俺が絶対に守りますよと成未くんは言ってくれた。
梨衣はその言葉を思い出して、一人悶えてしまう。
成未くんは私にばかりずるいって言うけど、成未くんだって私からしたら十分にずるいよ。だって、あんなことを言われたら、私……私……
梨衣はその気持ちを紛らわすようにして、湯船の中に潜ったが、10秒も潜っていられなかった。どうしたって、成未のことを思い出してしまい、気が気でいられなくなってしまうのだ。
ああ、早く成未くんと付き合いたいな~。
梨衣はそう思いながら、体を洗うために湯船から上がった。
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家に帰った俺は、まっすぐ自室に向かいワープロソフトを立ち上げた。
この感情を激情を思ったままに文章に表していく。今なら、今のままなら俺は最高の話を書けるそんな気がしていた。
俺はやらなきゃいけない。達成しなければいけない。先輩との勝負に勝たなければいけない。
俺は今の今まで、どうせ無理なんだろうなっと、頭の片隅では思っていてこのままなし崩し的な展開で先輩と付き合うことになるのだろうと考えていた。だけど、そんなんじゃ駄目だ。大好きだからこそ、それじゃ駄目だ。正直、先輩があんな条件を出してくるとは思わなかったし、『Shino』であったことに関しても今でも驚きだ。だけど、そんなことは言ってはいられない。
「なんとしても、10000ptを達成しなきゃいけないんだ」
凡人が天才に勝つ方法なんて分からない。だけど、凡人なら凡人らしく、自分に出来ることを全力でやり切って足掻けるだけ足掻くだけだ。
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