第12話「デート」
第12話目になります。今回も楽しんで頂ければと思っております。また、本日11月13日の15時には13話目を、21時には14話目を投稿いたしますので、こちらもよろしくお願いいたします。
第12話「デート」
俺と先輩は近くにあったショッピングモールまでやってきていた。俺が散歩に行くと言ったら先輩がついてきた形だった。
「ちょっ梨衣先輩! 一人で歩けますから、手を離してください!」
「ダーメ、デートなんだからちゃんと手を繋いで歩かないと」
そう言って、先輩は繋いでいた手を一旦離したかと思えば、恋人繋ぎにして繋ぎ直してきた。
「梨衣先輩、本当にこれじゃなきゃ駄目なんですか?」
「うん、ダメだよ」
ダメだよって、かわいく言われてもさっきから周りの視線が痛いんですって! 先輩ってただでさえ、顔も無茶苦茶かわいくて、さらにはスタイルも良いから、どうしたって男の目を惹くんですよ! さっきから男たちのお前誰だよ、ちょっとそこ代われ的な視線がすごいんですよ!
俺が心の中で全力でツッコんでいると、先輩はさらに距離も詰めてきて、俺と先輩の隙間はほとんどないぐらいに縮まっていた。
だからそんなにくっつかないでください! 周りの目がさらに険しくなったから!
「それに成未くんなら分かってくれるかもしれないけど、私ってこんな容姿だから一人でいるとすぐに男の人に声をかけられるから、今日は私のことを守ってね。私の大切なダーリン」
最後の方は俺にしか聞こえないというか、囁かれたため俺の心拍数はジェットコースター並みの勢いで上昇した。
「だから、俺たちは恋人同士というわけじゃ……でも、梨衣先輩のことは俺が絶対に守りますよ」
俺は先輩を安心されるために、繋がれている手に力を込めた。
「うん、ありがとう成未くん。大好き」
「そういう不意打ちはやめてください! びっくりしますから!」
俺の反応を見て、先輩は楽しそうだった。
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まずは先輩が服を見たいと言ったので、俺たちは服を見て歩くことにしていた。ここは結構な大型ショッピングモールだったため、そういったお店は数多く入っていた。
「とは言っても、一体どこに行けばいいのやら。俺、服とかはネット通販とかが多いから、こういった類の店とかって疎いんですよね」
それにそういった店と言ったら、あの店員の接客が怖い! 「なにかご用はございますかお客様!」とか言われた時には全力で逃げ出したいと思ってしまう。ていうか、実際に何回かは逃げた。
「あはは、たしかに成未くんはそういうのって疎そうだよね」
「面目ないです。だから、あんまり役立たないかも」
「別に素直な感想を言ってくれるだけで十分だよ。けど、それだと小説を書く時とかどうしてるの? 出てくるキャラとかの服の描写をする時に大変じゃない?」
「実はそうなんですよね。俺、今まで服とかファッションとかそういった物に生まれてこの方、まったく興味を持ったことがなかったので、たしかに苦労しますよ。ネットで調べたりはしますけど、なにがなんて言う服なのかも分からないですしね。その時は咲姫に聞いたり、ファッション雑誌を借りたりしてどうにか補ってます」
「ふ~ん、咲姫ちゃんの服をそのままキャラの服装にしてるんだ」
あれ? なんか間違って伝わっていないか?
「たしかに咲姫に聞いたりはしてますけど、そのまま咲姫の服装をキャラに使ってはないですからね!」
本当は2、3回ぐらいはあった気がするけど。
「そっか。なら、そう言うことにしといてあげるわよ。だけど、これからは服のことも私に相談しなさいよね」
「なぜに?」
俺は素直にそう思ってしまう。さすがに、そんなことまで先輩に一々聞くのは悪い気がしたのだ。
「だって、今書いているキャラは私をモデルにしたキャラでしょ。なら、服装も私が決めた方が良いに決まってるじゃない!」
そういうもんなのかな。でも、先輩がそう言っている以上、ここは頷いておかないと、あとで大変なことになりそうだった。
「分かりましたよ。これからは梨衣先輩に相談させてもらいます」
「うん、分かればよろしい」
俺と先輩は見つめ合って思わず笑ってしまう。たしかに先輩に相談するのも悪くないかもなっと俺が思い始めたところで俺は、重大な欠点を思い出したのである。
「そう言えば、俺、梨衣先輩の連絡先って知りませんよ」
そうなのだ。俺と先輩がこうやって休日に会ったりする間柄になってしばらくが経つが、俺と先輩はアドレスの交換を行ったことがなかった。
「たしかにそうだよね。どうして、私たち今まで気が付かなかったんだろうね」
俺も先輩も今の今までアドレスを交換するということを考えなかったことに、ものすごく驚いてしまうがなんだか、自分たちらしいと感じてしまう。
「それじゃあ、成未くん。私とアドレス交換してくれる?」
「はい、喜んで」
こうして俺と先輩は、今更ながらのアドレス交換をした。
つうか、俺って女子は咲姫しか入ってなかったから、実質、女子とアドレス交換するの初めてなんですけど!
それは梨衣にも同じことが言えるのだが、成未がそれを知る由は今の段階ではなかった。
「それじゃあ、気を取り直して服を見に行こうか」
「そうですね、梨衣先輩」
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結局、服のことについてはまったく分からなかった俺は、梨衣先輩がよく買いに来ているという所にいた。店頭にはこれから夏の季節がやってくるからか、夏服もちらほらと顔を見せ始めていた。そして……
「成未くん、この服はどうかな? 私に似合うかな?」
……さっきから先輩に服の感想を頻りに聞かれていた。そして、先輩が今手に持っているのは、少しフリルのついた白いワンピースだった。清楚感がものすごく先輩にマッチしそうな服だった。
「めちゃくちゃ似合うと思いますよ」
「むう成未くん、さっきからそれしか言ってないじゃない!」
いやいや、しょうがないと思うよ! なんせ、元の素材が良いのだ。どんな服でも似合ってしまうだろう。今の場合は先輩が服を選んでいるのではなく、服が先輩を選んでいるといった感じか。本当にさっきから持ってくる服、持ってくる服、先輩のイメージを変えてさらにはそれがベストマッチしてしまうのだから、先輩恐るべしである。
「仕方ないじゃないですか。梨衣先輩、元からかわいいんだから、どんな服でも似合うですよ!」
「もう、私が言いたいのはそう言うことじゃないんだけど。でも、ありがとう。そう言ってくれてとっても嬉しいよ」
そう言って微笑んだ先輩の笑顔は、心から嬉しそうに微笑んでいたのが分かり、俺はしばらく見惚れてしまう。
「でも、成未くんには一つだけ選んでほしいな」
先輩の笑顔にあてられてぼーとしていた俺は、先輩の言葉を咄嗟には理解できなかった。
「えっ? なにをですか?」
「だから、今度デートに行くならどの服を着てもらいたかよ!」
え? それは俺に先輩のデート服を選べってことですか⁉ てか、今度って?
俺の頭は、一気にパニックに陥ってしまう。そのため、先輩が言っていることが全然理解出来なかった。
「俺が梨衣先輩の服を選ぶんですか?」
しばらく固まっていた俺から出た言葉は、なんとも情けない一言だった。
「だから、さっきから私はそう言ってるわよ」
俺が先輩の服を選ぶ。それでは本当に恋人同士になったみたいだった。
「本当に俺が選んでもいいんですか?」
俺が先輩にそう聞き返すと、先輩は「うん」と顔を赤くしながら頷いた。
マジか! マジでか! 俺が先輩に着てもらいたい服を着てもらえる。それって、どんなラッキーイベントだよ! でも、今分かったが、ライトノベルでもこういった類のイベントはあるが、実際起きたら大変だな。だって、先輩に着てもらいたい服がありすぎて、中々決めることが難しかった。
「どう? 成未くん的には、どの服を着てほしい?」
俺が悩みに悩んでいると、先輩がそう声をかけてきたので、俺は思ったままに言葉を返した。
「正直、まだ迷っていますよ。ですけど、三着までは絞れました。でも、そこからが全然絞れなくて」
「ふ~ん、ちなみに成未くんが迷っているその三着って?」
「えっと、最初に先輩が来ていた白いチュニックと赤いフリルのミニスカートの奴と、
ノースリーブブラウスとショートパンツ。そして、最後に着ていたワンピースですかね」
俺の言葉を聞いた先輩は「ふむふむ」と少し考える素振りを見せると、今言った三着を手に持った。
「だったら、成未くんが言った三着を全部買うよ」
「え? 全部買うんですか!」
さすがに俺もその答えは予想していなかったため驚いてしまうが、先輩の次の言葉の方が驚くことになった。
「だから、ちゃんと三回分デートに行ってくれないとダメだよ」
俺の耳元で囁くように言った先輩は、足早にレジに向かってしまう。後ろからちらっと見えた先輩の耳は真っ赤に染まっていた。かくいう、俺も顔が真っ赤になっていることだろう。
今のは確実に反則だろう! 今のは本当にずるすぎる!
俺は心の中でそう全力で叫んでしまう。
俺は深呼吸を一つして気持ちを落ち着かせると、慌てて先輩のあとを追った。あんなことを女の子に言わせといて、男が服をプレゼントしないでどうすると思ったからだ。
きっと先輩は最後まで悪いと言って断るだろうけど、今日のこれは先輩のお礼も兼ねているのだから、俺ばっかりが良い思いをしても意味がない。
そう考えながら、俺は先輩が並んでいるレジに向かった。
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