第10話「松井茉依の襲来」
第10話目になります。この「人生が余りにもクソだったので、とりあえずネット小説を書いてみた」シリーズも10話目となりますが、まだまだ続いていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
第10話「松井茉依の襲来」
時は流れて、今は3時間目と4時間目の間の小休憩の時間となっていた。
俺は昨日あげた小説の感触が気になって仕方なかったため、スマホで自身のマイページを開いて確認してるところだった。
どれどれ、アクセス数が累計で200ちょいで、感想レビューが2件。そして、ptが28か。まぁ、まだ1話しかあげてない状況でのこの評価は中々いい方ではないだろうか? あくまで凡人作家としての話だが。
「な~に、面白い百面相をしてるのよ。それに、学校では携帯は使用禁止なんだけど」
「なんだ、委員長か」
「なんだとはなによ、なんだとは」
俺にそう話しかけてきたのは、このクラスで委員長を務めている久野陽乃莉だった。
ほんと、久野ってよくライトノベルに出てくる委員長タイプそのままだよな。
「悪い、委員長。今は忙しいからまたあとにしてくれるか」
「な~にが忙しいよ。スマホを弄っている人の忙しいは忙しいになりません!」
うん、たしかに委員長の言う通りかもしれないけどさ。でも、マジで忙しいんで。
「それで委員長は俺になんか用なの? なるべく、手短に済ませた欲しいんだけど」
「あなたねぇ~。それだから友達ができないのよ」
「おい! 今すごい毒を吐かなかったか?」
「んん? そんなことないわよ。それと、用件だけどあなたにお客さんが訪ねてきてるわよ」
「俺に?」
俺が怪訝に思って教室の外を見ると、そこにはもう見慣れてしまったツインテール少女の姿があった。説明するまでもなく妹の咲姫である。
俺は委員長に礼を軽く言うと、咲姫のもとに行く。
「咲姫? こんなとこまでどうしたんだ?」
「どうしたんじゃないでしょ。お兄、朝寝坊したとかなんとかで、お弁当鞄に入れるの忘れてたでしょ。だから、持ってきてあげたのよ」
「ああ、そういや忘れてた! わざわざありがとな咲姫」
「ふん、わたしがわざわざ作ってあげたんだから、ちゃんと残さず食べてくれないと困るわよ」
「それは分かってるけど、でもなんで朝のうちに渡してくれなかったんだ? 一緒に学校に来てたんだから、その時渡してくれてもよかったのに」
「そっそれは!」
俺がそう聞くと、咲姫は顔を真っ赤に染めて口をつぐんでしまう。本当にどうしてだ?
咲姫は咲姫でなにやらもじもじとしているが、トイレにでも行きたいのだろうか?
「咲姫、トイレに行きたいんだったらもう戻らないと休み時間終わっちまうぞ」
「違うわよ! お兄のバカ!」
咲姫はそう言うと、俺のことを思いっきり蹴って自分の教室に戻って行ってしまう。
本当になんなんだよ? 妹って生きものはつくづく分からない生きものだと思ってしまう。でも、弁当を届けてくれたのは素直にありがたかったので、帰りに咲姫の好物のデザートでも買ってやろうか。それで機嫌を直してくれればいいのだが。
俺が教室に戻ると、なにやら色んな所からものすごい視線を感じる気がする。主に男子からの視線が。
「なあ、綾人。俺はなにかやったのか? ものすごく刺さる視線を感じるんだが」
俺は近くにいた綾人にそう聞くが、綾人はため息を吐くだけだった。そんな時に休み時間を告げるチャイムが鳴ってくれたので、なんとか事なきは得た形だった。
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俺は4時間目終了のチャイムが鳴るや否や、教室から飛び出した。あそこにいたらクラスメイトの男子に殺されてしまう。
とりあえず、屋上だ。屋上に逃げよう。あそこならきっと誰もいないだろう。俺がそう考えながら走っていると、「コラ! 廊下は走っちゃいけないぞ!」と注意されてしまう。
「すみません、急いでいたものですから」
リボンの色を見ると、どうやら3年生の生徒に声をかけられたようだ。だけど、この人ってどっかで見たことがあるような気がするんだよな。
俺が必死に先輩のことを思い出していると、「ああ! 君って後輩くんじゃん!」と目の前の先輩が叫んでくる。
たしかに、先輩からしたら俺は後輩ですけど。いきなり、叫ばれても困る。
「えっと、俺のことを知っているんですか?」
俺は当たり障りのない質問を投げた。誰だか分からない以上は、無難な質問をしといた方がいいだろう。
「うん、よく知ってるよ。いつも話は聞いてるからね」
話を聞いている? 俺の話をする3年生なんて俺は一人しか知らないぞ。
そこまで思って俺は目の前の人物が誰なのかを思い出した。
「まさか、生徒会副会長の松井先輩ですか?」
「およ、あたしのこと知ってくれてたんだね」
「まぁ、今の生徒会は色々とキャラが濃そうですからね」
「ニッシッシ、それは否定しないよ。それで、後輩くんはどこに行こうとしてたの?」
「ああ、屋上ですよ。教室じゃ、ゆっくりご飯も食べてる暇がなさそうだったんで」
「まさか、後輩くんって友達いないの?」
またそれか。どうして、今日1日で2回も友達がいないとか言われなきゃいけないのだろうか? 事実、普通の人よりは友達が少ないかもしれないけどさ。
「別にいないわけじゃありませんよ」
「ふ~ん、ならそういうことにしといてあげるよ。そんじゃあ、後輩くんは生徒会室においでよ」
「はっ?」
どうして、そうなるだろうと思ったが、この松井先輩は謎のは迫力があってどうしても断れそうになかった。
「梨衣、待たせてごめんね~」
生徒会室に着くと、松井先輩はそう言いながら生徒会室に入っていく。ああ、梨衣先輩もいるのか。生徒会室だから当たり前かもしれないけどさ。ちょっと、昨日のことがあるから会いずらい。それに、新作ももう読まれてるだろうし。
「ううん、全然待ってないから大丈夫だよ」
「そっか。でも、喜んでよ。梨衣にとっておきのお土産持ってきたから」
「お土産?」
おい、俺はお土産扱いかよ! でも、この空気じゃそうなるのか? 俺は意を決して生徒会室のドアを潜った。その瞬間、先輩の驚いた声が聞こえてくる。
「なっ成未くん! どうしてここに?」
先輩の顔が一気に赤くなってしまう。
「どうもです、梨衣先輩」
俺も先輩の顔を見て気恥ずかしさのあまり、顔が赤くなってしまう。
だって、今回あげた新作「メモリーズ・ユアーズ~君と歩む1年間~」は、俺と先輩のことを題材にしつつ、オリジナルに作りあげていっている。それはすなわち、読む人が読めば俺と先輩の話だと分かってしまう点が今回の難点ではある。つまり、先輩や綾人には筒抜けであることを意味していた。
「おやおやおや? この甘酸っぱい空気はなにかな~?」
俺と先輩が二人で黙って見つめていると、松井先輩がニヤニヤとこちらを見ていた。
「べっ別にそんな空気は出してないですよ!」
「そうだよ! 茉依! 変なこと言わないでよ!」
俺と先輩で松井先輩に否定するが、松井先輩は笑っているだけだった。
「まぁまぁ、あたしの前では別に隠すことないでしょ。それにあんたらが付き合ってんじゃないのっていう噂はもう学校中では有名な話なんだから。今更そんな隠す必要はないでしょうに」
「いやいや、隠すもなにも、俺と梨衣先輩は付き合ってませんよ」
「そんなお家デートや、名前で呼び合っているのに付き合ってないとかあり得ないでしょ!」
あり得ないもなに事実なんだって! 俺はそう返そうとするが、目の前の先輩にはなにを言っても聞いてもらえない気がした。
「茉依、少し落ち着いて。成未くんが困ってるでしょ。ごめんね、成未くん。茉依って昔からこんな感じだから許してあげて」
先輩が申し訳なさそうに謝ってくるので、俺も首を横に振った。
「いえ、大丈夫ですよ。なんとなくそういった感じの人なんじゃんないかとは思っていましたから」
「あははは、本当にごめんね」
先輩はとりあえず座ってと言ってくれたので、俺は先輩の言葉に甘えて、先輩の隣に腰を下ろした。松井先輩はどうやら俺たちの正面の席に座るようだった。
俺たちは自分たちのお弁当を取り出すと、各々のタイミングで食べ始める。
「今日のお弁当は成未くんが作ったの?」
「いえ、今日は咲姫が作ってくれました。今日の食事当番は咲姫だったので」
「後輩くんって、妹さんいるんだ!」
「ええ、一人いますよ」
「咲姫ちゃんだよね。ものすごく良い子なんだよ! あっ、そのおかずもらってもいい?」
先輩が弁当のおかずを欲しがったので、俺はどうぞと言って、先輩の方にお弁当箱を差し出した。でも、先輩は不服だったのか頬を膨らませていたが、目の前に松井先輩がいることを思い出したのか、慌ててそのおかずを取って食べていた。
「うん、咲姫ちゃん料理上手だね。とっても美味しいよ」
「ええ、正直、咲姫が料理を始めた頃はとても食べられて物じゃなかったですけど、まさかここまで料理が美味くなるなんて俺も思ってなかったですよ」
ああ、あの時は思い出すだけでも、恐怖が湧き上がってくる。咲姫が料理を始めた頃は本当に食べれたものではなく、俺は何度三途の川を渡りかけたことか。
「はい、成未くん。私、成未くんのおかずもらちゃったから、成未くんの大好きな甘い卵焼きをあげるね」
そう言って先輩は、箸で卵焼きを掴んで俺の口元まで運んできた。えっ? ちょっ!
「先輩、自分で食べられますよ!」
「いいから、いいから。それに私だって恥ずかしいんだから、早く食べてくれるとうれしいな」
「うっ……」
だったら、やらなきゃいいのにとは思ってしまうが、今の先輩の表情を見てそんなことは言えなかった。
俺は意を決してその卵焼きを食べた。恥ずかしさのあまり味はよく分からなかったが、口の中に広がる甘ったるさはきっと卵焼きの甘さだけのせいではないだろう。
先輩も気恥ずかしかったのか、お互いで目が合わせられなくなってしまう。
「おーい、あたしがいるのを忘れてナチュナルにイチャつくな」
松井先輩の言葉に俺たちはさらに赤面するのだった。
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