第1話「Shino]
初投稿のオリジナル小説になります。つたない文章ではありますが、少しでも面白いと思って頂ければ幸いと思っております。また、定期的に投稿できるかは分かりませんが、なるべく定期的に投稿していきたいとは思っておりますのでよろしくお願いいたします。
第1話「Shino」
かくして新国家は誕生し、新国王に即位したクルスは、民とともに築いたこの国で、新たな人生を歩んで行くのだった。
fin.
「うしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 一作書ききったぁぁぁぁ!」
ノートパソコンの画面を見ながら、俺――波瀬成未はそう叫んでしまう。
今書いていたのは、ネットの小説サイトに投稿していた俺のオリジナル作品である「マジック・クロニクル」の最終話最後のシーンだった。
連載して半年になるが、こうして完結まで持ってこられたのだから、俺的には満足だった。
さてと、あとはこれを見直して投稿するだけだ。
俺はもう一度気合を入れ直してから、見直し作業に入った。
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「ふんふんふ~ん♪」
「お兄、なに朝から鼻歌歌ってんの?」
俺が洗面所で鼻歌を歌いながら歯を磨いていると、一つ年下である妹の咲姫が声をかけてきた。
「おお! グッドモーニング! 妹よ、今日はいい朝だな」
「お兄、気持ち悪い」
「ありがとうございます! ご褒美です!」
「朝からうっとしい! それに悪寒が走るからやめてよね! 気持ち悪いし」
なんだよ、こっちはいい気持ちで朝を迎えられたっていうのに、つれない奴だ。それに、気持ち悪いって二回も言いやがったし! お兄ちゃんとしては結構ショックだぞ!
俺はそう思いながらも、咲姫の準備するスペースを空けるために横にずれた。
咲姫は咲姫で、寝癖を櫛で梳かし始めている。
「んじゃ、先に朝食の用意しておくわ」
先に身支度を終えた俺は、咲姫にそう告げてからキッチンに向かった。
俺たちの朝は大抵こんな感じだった。両親は共働きで滅多に帰ってこないため、普段は俺と咲姫の二人でここで生活をしていた。
「よーし、今日のバッチリ決まったわね!」
そう言って出てきた咲姫は、寝癖でボサボサだった髪をツインテールでバッチリと決め、どこか機嫌がよさそうだった。
「お前、いい歳してその髪型はどうかと思うぞ」
「いいじゃん、かわいいんだし。なにかわいくないの?」
「いや、かわいいけどさ……」
でも、高1になってもツインテールは本当にどうかと思うぞ。誰得かと言われれば、俺たちみたいなオタク系得だとは思うが。お兄ちゃんは心配です。
そんな俺の心配を他所に咲姫は咲姫で俺の答えに満足したのか、上機嫌で料理を進めていた。
それから咲姫と雑談しながら朝食を作り、それを話しながら食べてから、ちょうどいい時間になったので俺と咲姫は一緒に家を出た。
ちなみに俺と咲姫は同じS高に通っていた。俺が2年1組で咲姫が1年4組だった。
「ああ、そういや今日の食事当番って俺だったよな。咲姫は夜なにが食べたい?」
「うーん、なんだろう。魚よりもお肉かな」
「曖昧だな。でもまぁ了解。帰りにスーパーに寄ってから帰るよ」
「うん、分かった」
それからたわいのない話をしながら歩くこと10分。俺たちが通っている高校が見えてくる。
「んじゃ、また放課後な」
「はいはい、分かったから早く教室に行けば」
咲姫は俺に向かってしっしっとやってくるので、俺も適当に返すと自分の教室へと足を向けた。
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教室に入ると、小学校からの腐れ縁である鹿島綾人が、俺の姿を見るなり手を振ってくるので、俺は自分の机に荷物を置くと綾人の所に向かった。
「よっ! 成未。早速、最終話読ませてもらったぜ」
「おお! 早いな。最終話あげたのって深夜の2時ぐらいだぞ」
「逆にそんな時間にあげる方がすごいけどな」
「で、感想は?」
「安定の自己満足小説だったな。読者を置いてきぼりにし過ぎじゃね?」
「ぐっ……」
言われることは分かっていたが、いざ言われるとなるとダメージがあるな。
「でも、ちゃんとファンはいたんだぞ」
「何人よ?」
「いつも感想をくれてたのは二人」
「ptで言うと?」
「…………100pt」
「うん、まぁ自己満足小説ならいい方なんじゃない?」
「うるせぇ。お前だって自己満足小説書いてんじゃねぇか! このエロ作家!」
「はっ? お前こそなに言ってんの? エロこそ至高だろ! 成未の作品なんてエロ字のエの字もないじゃんかよ!」
「そりゃあ、18禁的なものは書いてないからね!」
そういや、こいつはこういう奴なのだ。綾人は昔からこうなのだ。頭の中には煩悩しかなく、小説にもその煩悩は生かされていた。
綾人は俺と同時期にネット小説を始めていた。
「ちなみに綾人ってptどんぐらい?」
「んと、10000ptぐらいかな」
俺は思わず両膝を着いてしまう。こんな普段からアホなことしか言わないやつが10000pt……だと……?
俺がショックを受けていると、綾人が肩に手をポンと置いてくる。
「なぁ、成未。よく考えてもみろよ。思春期の男子なんて美少女のおっぱいを揉みしだきたいとか、ヤってみたいとかそんなエロいことしか考えてないいんだよ。現に思春期のお前だってそうだろ? だからさ、開こうぜエロの道」
「やめろ、俺はそこまで汚れてない」
「あれ~おっかしいな~。今の話の流れだとまるでオレが汚れているみたいに聞こえだぞ」
「いやいや、お前は汚れきってるだろ。この万年ド変態が」
「あ~弱者の僻みは醜いね~。この年上属性につける薬はないんですかね?」
この野郎、絶対に今に目に物を見せてやる。。
綾人は綾人で、俺のリアクションを見てケタケタと笑っていた。
たしかに俺の作品自体そこまで人気があったわけじゃない。ただ、途中で出すのが嫌で完成させたような作品だった。だけど、そんな作品がまさかの綾人の煩悩まみれの小説に大敗北とは。俺、小説書くの向いてないのかな?
俺が自信を無くしかけていると、綾人が「ここからは真面目な話」と言って、話を切り替えた。
「でも、冗談抜きでお色気要素は入れた方がいいんじゃないかな。成未の作品って、ずっとシリアス展開が続くだろ。それって、読者にとっては読んでて疲れる作品なんだよ。たまにはおふざけ要素とかお色気要素があった方が、読者にとっても読んでて息抜きになるからね」
「なんだろう。真面目な話をする時だけは、綾人がテストで上位ってことを思い出すよ」
まったくそうだ。普段はおっぱだの、おしりだのしか言ってない奴なのに。残念な天才である。
「そんでもってそんな凡人作家さんは、次回作はどうするつもり?」
「一々言葉に棘がないか? 次回作はまだ考えてない。前回がシリアスなバトル系だったから、次回は日常系で行くかとも考えてる。バトルになるかもしれないけどさ」
「波瀬くんはいるかしら?」
俺と綾人が話していると、突然俺の名を呼ぶ声がした。その瞬間、教室がざわめきだした。
俺がきょろきょろと声の主を探していると、教室の扉の所でこちらに手を振っている女子生徒がいた。
制服を規則正しく着こなした美少女がそこにはいた。栗色の長髪をストレートに流して、頭の横の髪一房をリボンで結っていた。
なにを隠そう。このS高の最上級生であり現生徒会長を勤めている四ノ宮梨衣その人である。
「はい、いますけど」
できることならば関わりたくはないが、呼ばれたなら仕方がないと思い、俺は生徒会長の元まで赴いた。
相変わらず美人だけどとっつき辛いと言うか、関わりづらい雰囲気を纏ってるよな。
そんなことを考えていたからだろうか? 次の生徒会長が言った言葉を聞き逃したのわ。
「ちょっと波瀬くん! 聞いているの?」
「すみません! 聞き逃しました!」
「はぁ、だと思ったわよ。とりあえず、私について来てくれるかしら」
「えっと。一体どこに?」
四ノ宮先輩は笑顔でこう言ったのだった。
「生徒会室」
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所変わって生徒会室。
俺はなぜだかは知らないがと、四ノ宮先輩に生徒会室に連行されていた。
生徒会室に呼ばれることはなにもしてないぞ? それなのになぜ?
俺が疑問に思っていると、ガチャリと鍵がかかる音が響いた。先輩がここの鍵を閉めたのだ。
「えっと先輩?」
「気にしないで、妨害工作だから」
「はっ? どういうこと?」
俺が更なる疑問に困っていると、四ノ宮先輩はそんなのお構いなしといった感じで話を進めていく。
「ここに来てもらったのは、波瀬くんに聞きたいことがあったのよ。いえ、ここではNaruくんと呼んだ方がいいかしら?」
先輩の言葉に俺の体はピクリと反応してしまう。俺の意識は一気に先輩の話に向いた。
Naruとは、俺が小説投稿サイトで使っているペンネームだった。
綾人には最初、安直すぎるだろうとよくバカにされたものだ。
「どうして先輩がその名前を?」
つうか、なんで俺だってバレたんだ?
「こっちだけ知ってるって言うのも不公平よね。いいわ教えてあげる。私はShinoと言えば分かるわね」
Shino? どこかで見た気が……
俺はそこではたと思い出した。
たしかShinoって、俺が使っているサイトの小説ランキングで、常に上位をキープしているユーザーじゃなかったけ?
「まさかな……」
「そのまさかよ」
俺の叫びが生徒会室に木霊したのは、ここで言うまでもないだろう。
目の前にいたのは、ネットで絶大な人気を誇る作家でした。
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